二人の小休止
「着いたわ」
ヴァイスが龍野を運んだのは、5番エリアへの橋の手前だった。
「少し待ってて。今の龍野君に必要なものが、もうすぐ届くから」
「今の俺に、必要なもの……?」
ヴァイスの言葉の真意を掴みかね、戸惑う龍野。
「来たわね」
ヴァイスの視線の先には、軍用ヘリがあった。
ヘリが何かを投下する。やはり今回も、パラシュートが展開した。
五分後。
着地した荷物を開き、ヴァイスが龍野にペットボトルを手渡した。
「事前に頼んで正解だったわ。はい、龍野君」
「何だ、これ?」
「『魔力補給剤』。さっきの戦闘で、だいぶ消耗したでしょうから」
「ありがとよ」
龍野はキャップを開け、中身を少しずつ飲み始めた。
「そうだ、龍野君」
「何だ?」
「少し用事があるから、
「わかった。どこに行くのかだけ、教えてくれ」
「“4番エリアの市庁舎”よ」
「あいよ。行ってらっしゃい」
龍野の見送りを受け取ったヴァイスは、魔法陣を展開して飛翔を始めた。
「さて……少しでも、次の準備を進めておくか」
龍野はマシンガンを召喚し、マシンガン本体とグレネードの弾倉を交換した。
*
「……着いたわね」
市庁舎に到着したヴァイスは、金印を手にして入った。いささか粗野ではあるが、3番エリアの図書館のように突っぱねられては、調査に支障をきたしてしまう。
「失礼いたします……。ッ、これは……!」
ヴァイスは左手でハンカチを取り出し、鼻を覆った。
「これは……何という、有り様でしょう……(先程の戦闘に隠れて、虐殺が行われたのね……)」
市庁舎の中は、“死屍累々”という言葉が相応しかった。
役人の死体があちこちに転がっており、しかも、何故か原型を留めていた。
(これまでのサイボーグが攻撃したのなら、死体は今頃物理的に消滅しているはず……。おそらく、人間の攻撃でしょうね)
その証拠に、役人の死体の近くに“血の付いた鉄パイプ”が落ちていた。
(けれど、だとしたらどうして……? ッ、隠れなくては!)
ヴァイスは物陰に身を隠す。そして、ドレスのスカートに忍ばせたナイフを抜き、不測の事態に備えた。
数秒遅れて、鉄パイプを携えた人影がいくつも現れた。一様に、目から生気が抜けている。
(もしかすると……操られている、可能性が?)
ヴァイスは近くの地図を見て、新たに隠れられる場所を探す。
(これなら……!)
隠れ場所の目星をつけたヴァイスは、ナイフの柄で壁をコツコツと叩いた。
すると、音を聞いた人影がゆらりと向かってきた。
(急がなくては!)
ヴァイスはナイフを携えたまま、新たな隠れ場所まで急ぐ。
そして身を隠し、音につられた人影の様子を伺った。
(やはり……自身の意思による行動とは、思えませんわね)
人影をやり過ごしたのを確認し、更に調査を進めた。
「市長室……ここ、ですわね」
ヴァイスはナイフを構えたまま、慎重に扉を開ける。近くの壁に隠れながら、一気に開け放った。
「動かないで!」
簡潔な命令で、室内の人間の行動阻止を狙う。
だが、市長室は無人だった。
「まさか……! どなたか、いらっしゃいませんか……?」
ヴァイスが呼びかけるも、誰もいなかった。
その時、机のネームプレートに触れてしまった。
「ッ……あら? これ、何か刻まれているわね……」
机に接していた面が上を向き、小さく刻まれた文字をヴァイスに見せた。
そこには、こう刻まれていた。
「オルガノ・ハナダ」と。
「立派な証拠ね。持ち帰らせてもらうわ」
ヴァイスはネームプレートを異空間に収納し、市長室の探索を続けた。
「収穫はここまでかしらね」
ネームプレートの他に異空間に収納したものは、引き出しの中に入っていた紙封筒一つだった。中に書類が入っており、携帯には向かないと判断した結果だった。
「撤収するわ……ッ!」
廊下に出た途端、人影が現れた。今まで見た例に
「向かってくるなら、容赦はしません……!」
ナイフを構えながら、ヴァイスは最大限の警戒をする。
だが、人影はあっさりとヴァイスの横を通り過ぎた。
(あら……? 攻撃の一つでも、来るものだと思っておりましたが……)
ヴァイスは警戒を続けながら撤収する。
結論から言って、あっさりと脱出できた。
撤収の途中で何人かの人影とすれ違ったが、何もしてこなかった。
(やはり……サイボーグが、彼らを操っているものとみなして正解のようね)
ヴァイスは市庁舎に背を向けると、魔力を噴射して飛翔を開始した。
*
「ヴァイス、まだか……おっと、来た来た」
魔力の補給とストレッチを済ませた龍野は、帰って来たヴァイスを歓迎した。
「おかえり」
「ただいま、龍野君」
「それじゃ、行くか」
「ええ」
そして二人は、5番エリアへと続く橋に足を踏み入れた。
現在の龍野の撃破スコア……15体(15,000点)
※戦闘が無いため、変動無し
マシンガン……200 + 200×3 発
グレネード…… 3 + 3×3 発
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