vs"G"(後編)

 4番エリアのドームにて。

「いよいよ、か……」

「ああ、待ちに待ったあのアイドルのショーだぜ!」

「来るか、孤高のアイドル……!」

 そう。アイドルのショーがあるがために、彼らはこのドームに訪れていた。


 だが、そんな彼らを狙う黄金の影があった。


     *


『龍野君、その場で制止して!』

 ヴァイスからの指示が飛ぶ。

 龍野は推力を切って空中で滞空し、次の指示を待った。

『おいヴァイス、どういうこった!?』

『さっきの毒が、また散布されたわ。しかも……

(!)

 毒が散布された。それも、ドームで。


 つまり……大量虐殺の阻止に、したのだ。


『龍野君。濃度の増加は、計六回確認されたわ』

『了解、遠距離から排除するぜ。もう周囲の人間に配慮する必要もねえしな』

『頼むわね。ここからは、緊急時を除いて貴方の判断で行動してちょうだい』

『あいよ』

 龍野はマシンガンを構え、黄金のサイボーグの位置まで急行した。


(いたぜ……!)

 一分後。

 距離700mまで接近した龍野は、黄金のサイボーグに銃口を向けていた。

(グレネードは一発……今迂闊に撃つワケにはいかねえ、な。仕方ねえ、マシンガンじゃ心もとねえが、微調整しながら撃つか……!)

 引き金を絞るように引き、2発撃ったら離す。

 先ほどの繰り返しになるが、遠距離から少しずつ攻撃を加えるしか手は無かった。

(よし、この辺か……!)

 狙いを定め、いくつかの弾丸を命中させる。

 だが、厚い装甲には効いていないようだ。そしてマガジンの弾丸がゼロになり、引き金はカチカチと乾いた音を響かせた。

(まあ、実弾じゃあな……。このくらいが限界だろうな。ん、? だったら……!)

 龍野は、「マシンガンから直接ビームを放つ」考えに至った。

 しかし、今までこうしなかったのには、理由があった。一つは、大剣を召喚してから放つのが、慣れた撃ち方だったため。もう一つは、銃身のライフリング(溝)を使い物にならなくしてしまう可能性があったためであった。

(仕方ねえ……ビームの幅は5mmでいいや。やるしか、ねえ……!)

 龍野は神経を集中させ、引き金を放った。

 カチリという乾いた音が響き、ビームが放たれた。


 そして、黄金のサイボーグの脳天を貫通した。


「どうだ……?」

『龍野君、高度を下げて!』

 唐突に飛んだ、ヴァイスの指示。

 それを受けて、龍野は気づいた。

 さっきビームを食らわせたサイボーグののを。

「クソ……ッ!」

 龍野が推力を切って、自由落下を開始した。

(体重500kg、ただし3秒だけだ……!)

 紫煙を纏う黒騎士。『重量調節グラビティ』の発動だ。

 腕を天に掲げ、魔方陣を展開して魔力を噴射する。降下を開始した龍野。

 その直後、弾丸の嵐が龍野のいた位置を通り過ぎた。


「あぶねえ……ッ! どうにか間に合ったぜ……」

 ヴァイスの指示が無ければ、余計なダメージを受けていただろう。龍野は『重量調節グラビティ』を解除し、ヴァイスに次の指示を要請した。

『もう一度、先程のビームを撃てるかしら?』

『やってみるさ』

 龍野はマシンガンを構え、神経を集中させる。

(これで……終わりだ!)

 全ての意識が一つに集中したと同時に、引き金を引く。


 放たれたビームは、黄金のサイボーグの胸部を貫通。耐久の限界を超えたサイボーグが、爆散した。


「よし……!」

『龍野君、申し訳ないけれどガスの位置まで急行して!』

『どうした!?』

 ヴァイスからの要請だった。それも、かなり無茶な。

『また、増援が……!(どうして……!? 次々と、前兆無く反応が増えるなんて……!)』

『何体だ!?』

『六体よ!』

『そいつはマズいな……!(ちまちま始末して間に合う数じゃねぇ……! 放っといたら、被害が激増しちまう!)』

『“強制排熱”をしながら、向かって! お願い!(幸い、鎧はガス攻撃に耐える設計ではあるけれど……少々リスクのある要求なのは、間違いないわね……!)』

『わかった! ガス濃度がヤバくなったら、知らせてくれ!』

『ええ、もちろん!』

 ヴァイスの返答を聞いた龍野は、全身から水蒸気を噴出させながら加速した。

(丁度良い位置に! 建物のオーナーには悪いが、突破口にさせてもらうぜ!)

 龍野はガスと接触している建物の一つにグレネードを打ち込み、爆風を発生させる。ガスが吹き飛んだのを確認すると、そこからドームまでの道のりへと突入した。


     *


「はい。その通りでございます。はい。では例の飲料を大急ぎで、本州に近く、北西に存在する近未来的な都市(4番エリアのこと)と、西に存在する開発中の領域(5番エリアのこと)の、なるべく橋の近くにパラシュート投下してくださいませ」


 短い会話の後、通話を終えたヴァイス。どうやら、何か追加で用意してほしい飲料を要請したようだ。


「それじゃあ龍野君、頼むわね……!」


     *


「視界が悪いな、クソッ!」

 一方で、ガスの近くにいた龍野は、ドームの上に立っていた。

『着いたぜ、ヴァイス!』

『了解したわ。龍野君、お願いね』

『ああ、何でも言ってくれ』


『そこから半径250mの範囲で、魔力を解放してほしいの』


『……』

 ヴァイスの言葉を整理するために、返答を止めた龍野。

『わかった。

 だが、すぐに判断を下した。

「少し、下がっていてくれ」

 龍野はマシンガンを異空間に収納すると、腕を交差させ、体を前に屈曲させた。

(それじゃあ、やってみるか……!)

 龍野の周囲に魔力が集まり、オレンジ色の耀きを放ち始める。時間と共に、明るさを増していった。

(魔力量は正常、攻撃範囲の調節に支障なし、対象は黄金のサイボーグ達のみ……!)

 排除すべき対象のみを排除し、それ以外には害をさない――サイボーグ達とはまるで違う、無差別攻撃ならぬ“差別攻撃”を、龍野は決行しようとしていた。

(全て問題なし! いくぜ……!)

 そして、腕と体を思いきり広げた。


 その直後……龍野の持つ圧倒的な魔力の奔流が、望んだ範囲を包み込んだ。


(やったわ……! 龍野君、ありがとう……!)

 その様子をモニターしていたヴァイスは、内心で安堵あんどしていた。


「…………」

 ドーム近くにいた六体の黄金のサイボーグ達は、次の標的を探していた。

「……!?」

 だがそんなサイボーグ達を、龍野の力はゆるしはしなかった。光はまたたく間に、サイボーグ達を丸ごと六体全て飲み込んでしまった。


「はあっ、はあっ……!」

 与えられた役割を終え、鎧を消滅させた龍野は息を切らしていた。

『龍野君!』

 そこに、ヴァイスがドレス姿のまま(つまり)やって来た。

「ヴァイス……! ガスは大丈夫なのか!?」

「ええ、さっきの攻撃で大半が消滅したわ。残ったガスも、無害なレベルにまで拡散されたようね」

「ほっ……よかった、ぜ……」

 龍野が崩れ落ちる。

「だめっ!」

 だが、ヴァイスが素早く支えた。

「龍野君、少々無茶だろうけれど……指定する場所まで、飛んでくれないかしら? 私も魔力を出すから」

「いいぜ」

 二人は肩を支え合いながら、次のエリア(5番エリア)との境界である橋の直前まで移動した。


(おかしいわね……。先ほどから、私達は何かに嘲笑われているような気がするわ……。いえ、というのが、正確かもしれないわね……)

 ヴァイスは飛翔しながら、漠然とした不安を感じていた。




今回の戦闘における犠牲者


    お役人…… 125人(-125点)


イベント参加者……3,587人(10,761点)


 狂った警察官…… 145人(1,450点)


 他サイボーグ…… 0体(0点)


     合計……3,857人(12,086点)



現在の龍野の撃破スコア……15体(15,000点)


騎士突撃槍銃アサルト・マシンガンの残弾(途中経過)


      マシンガン……0 + 200×4 発


      グレネード…… 0 + 3×4 発



作者による追伸


 有原です。

 お役人が何人か死んでいますが、直接戦闘に関連した訳ではありません。ただ、実はかん……おっと、これ以上は秘密にさせていただきます。

 因果関係は後で説明いたしますが、その前に二言だけ言わせていただきます。


 まず、


 次に、この話の進め方でいけば、次はどの機体が相手か……そして、おわかりでしょう。


 ああ、そう言えば……お節介ではございますが、これまでの戦闘記録に龍野の撃破スコアを掲載いたしました。気になる方は、どうぞ参考にしていただきたくお願い致します。


 以上でございます。

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