vs"I"(中編)

「大丈夫か!? おいっ!」

 龍野達が駆け付けた時には、既に男性はこと切れていた。

「クソッ……!」

『龍野君、飛翔して!』

『魔力の節約はどこ行ったんだよ!?』

『それは武装に関する話よ! いいから早く!』

『わかったよ……!』

 龍野が飛翔すると、男性と同じ格好をした人間が一気に集まってきた。全員が、白いワンピースにサンダル姿だ。

 長い髪を振り乱し、男性の周りに集まって来た。

「おお、先生……! 先に楽園へ行かれたのですね……!」

「祝福されますよう、祈りを!」

「「祈りを!」」

 両手を頭上に掲げて組み、一心不乱に何かの章句を唱えていた。


『何だあれ……なあ、ヴァイス?』

『ええ。私達には理解出来ないわね……龍野君、不審な影が学校に向かっているわ! 追って!』

『わかった! ヴァイス、マンションの辺りまで退避していてくれ!』

『ええ、そうさせてもらうわ!(見通しの良い場所は、確保しなくてはね)』

 分かれたのを確認すると、龍野は銃を構えた。

 拡声機能をオンにし、声量全開で呼びかける。

「おいそこのゴリラ、止まれ!」

 グリップをしっかり保持し、引き金を絞るように引いてマシンガンを撃ち始める。

 不審な影――もとい、ゴリラ(型の機体)は龍野に対して背面はいめんを向けていたため、12.7mm弾が次々と命中し、装甲を削らせる。

「よし!」

 トドメとばかりにグレネードを撃つ。

 魔力を銃身に流し込み、40mmのロケットグレネードが飛翔し始めた。


 だが、ゴリラが正面を向くのが早かった。


 直撃したのは頭部ではあるが、堅牢な装甲の前にはかすり傷以下の効果しか見込めなかった。

「チッ、さすがにそう簡単には終わらせてくれねえか!」

 龍野はゴリラから200m程の距離まで接近し、再びマシンガンを構えて連射を始める。

「まだまだ……!」

 しかし、そう何発も連射していては、無関係な人間――宗教団体の構成員という、少なくとも殺される道理には無い人々――を殺してしまいかねない。

 最大で9発程撃っては、引き金から指を離す繰り返しになっていた。

「短期決戦を狙うか……!」

 龍野は銃を立てる(肩部ストックの形状ゆえ、避雷針のごとく直立する)と同時に、大剣を召喚する。

 ゴリラも負けじと突進するが、龍野が剣を召喚し、魔力を充填する速度が上だった。

「さあ……サヨナラだ!」

 剣先から放ったレーザーはゴリラを貫通し、鋼鉄の身体からだを爆散させた。


『終わったぜ、ヴァイス』

『悪いけれど、追加よ龍野君。増援が出たみたいね』

『ああ!?』

『間に合わないわね。出力全開で障壁を展開、銃(マシンガン)は手に持つこと!』

 ヴァイスが早口で指示を飛ばし、龍野は脊髄反射で従った。


 その直後、学校に大穴が開いた。


「ぐっ……!」

 龍野は衝撃波に耐え、マシンガンを手に持つ。

『さあ……そろそろ、見えるはずよ……!』

 粉塵による煙が晴れ、大穴を開けた“主”が姿を現す。


 見間違うことは無い。龍野が先程仕留めたのと同じ――ゴリラ型の機体だ。


「てめえ、何体いやがる……!」

 龍野はマシンガンを構え、撃とうとする。

 だが、ヴァイスからの指示が再び飛んだ。

『狙うなら黄色の装甲にしなさい! 藍色部分は、そう簡単に突破出来ないわ!』

『わかってるぜ、グレネードもダメだった……!』

 胴体という、比較的薄い装甲部分を狙って銃を連発する。

 だが、放たれた銃弾は命中すれども、大抵は藍色部分だった。12.7mmの弾丸程度では、たとえ徹甲弾てっこうだんでも貫通に至らしめるのは困難だろう。

「クソッ、だったら……!」

 龍野が銃を地面に立て、大剣を召喚しようとする。

 だが、ゴリラの動作が先だった。


 ドンッという音が響き、猛烈な衝撃波が龍野を襲った。


 学校という障害物を挟んでいた先程とは違い、今度はもろに受けた状態だ。障壁で耐えたが、マシンガンが吹っ飛んだ。

『大丈夫よ、龍野君。その程度で、銃(マシンガン)は壊れないから。それよりも……なるべく、背後は見ないでおくといいわ……』

 ヴァイスからの、不快なものを見たような指示が飛んだ。

『わかった!』

 衝撃波を耐えきった龍野は、ビームを発射。二体目のゴリラも爆散させた。

『だが、マシンガンはどこだ?』

『今のあなたの視線を北とすると……ちょうど南東の方角、45mよ』

 ヴァイスの指示に従い、なるべく“背後にあったもの”を見ないようにした。

 だが響いた足音が、龍野の視線を強制的に移した。

「あれは……また、ゴリラかよ! って……うぐっ……」

『龍野君?』

『ヴァイス、済まねえ。お前の忠告だが、守れなかったぜ……。、な……』

『ええ……』

『だが、落ち込んでる暇はねえぜ。例のゴリラの三体目を見かけた。このままだと、居住区に侵入しちまう!』

『追って!』

『言われなくても!』

 龍野はマシンガンを回収すると、魔力を噴射して飛翔状態に移った。


     *


 あるマンションの一階にいた仕事屋が、寄り合いのために集まっていた。

「合言葉は?」

「“Wildcard”だ」

「よし、仲間だな……ん?」

 仕事屋の一人が、を目にした。

「ゴリラ……?」

 ゴリラ――I型サイボーグ――は、素早く仕事屋の一人を掴んで、高々と持ち上げる。

「ぐぁあああああっ!」

「!?」

「おい、助けるぞ!」

「撃て、撃てっ!」

 仕事屋達が各々銃を抜いて抵抗するが、悲しいことに全て拳銃である。重装甲部分はもちろん、比較的軽装甲な箇所にも、かすり傷一つ負わせられていない。

「あがぁああああああああッッッ!」

 やがて、掴まれていた仕事屋の一人が握りつぶされた。

「ひっ……!」

「に、逃げろ! 全然効いてねえ!」

「なっ、何なんだよコイツ!」

 散り散りに逃げようとする仕事屋達。

 しかしゴリラは、スッと両手を正面に差し出すと――


 衝撃波を放ち、集団を皆殺しにした。



現在の龍野の撃破スコア……4体(4,000点)


騎士突撃槍銃アサルト・マシンガンの残弾


     マシンガン……121 + 200×5 発


     グレネード…… 2 + 3×5 発

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