vs"I"(前編)

 3番エリアに向かった二人。

「高いマンションがビッシリ、だな」

「ええ。日本では『タワマン』と称される住居ね」

「しかし、誰もかれもが家に住んでんのか? 出歩いてるヤツが、ほとんどいねえ。マンションの部屋からは電灯が光ってんだけどな(妙だな……だいたい地上16階以上の部屋にしか、電灯が光ってねえ。誰も住んでねえのか? だとしたら、もったいねえぜ……)」

「それよりも、どうしようかしらね」

「『どうしよう』……って、どういう意味だ?」

「任務の間の息抜きが、したくなったのよね(本音は“例の道具”が、1時間後にパラシュートを付けられて投下されるのを待ちたいだけ、なのですけれど)」

「それじゃあ、近くに図書館あるし……行くか?」

「ええ、そうしましょ」

 二人は図書館に足を踏み入れようとする。


「帰ってください」

 しかし、受付は素っ気ないを通り越して排他的であった。

「ここはあなた方のような観光客が、入って良い場所ではありません。帰ってください」

「てめぇ……」

「龍野君、抑えなさい。かしこまりました。それでは、失礼いたします」

 ヴァイスがきびすを返す。

 龍野も後を追おうとし――ゴトリ、という音が聞こえた。

「おい、ヴァイス! 落としたぞ!」

「あら、いけない。王家の金印を落としてしまうなんて」

 二人は出口から出ようとする。

「お、お待ちください!」

 だが、出る直前で呼び止められた。

「恐れ入りますが、先程の印鑑を見せていただけますでしょうか?」

 受付が明らかに狼狽ろうばいした様子で、ヴァイスに尋ねる。

「ええ。こちらでございます」

 ヴァイスが金印を受付に見せる。受付は、更に動揺した。

「して、どのようなご用件で……」


「先程は、申し訳ございませんでした!」


「えっ、ヴァイス?」

 事情を呑み込めない龍野が、ヴァイスに尋ねる。

『おそらくこの金印を見て、私がどのような身分の者か、察したみたいね。肌身離さず持っているという我が王家の義務が、こんなところで役立つとは』

 ヴァイスは、念話でこっそりと龍野に返した。

「どうか、是非この図書館を、心ゆくまでご利用くださいませ!」

「そうさせていただきますが……付き添いの彼にも、私と同じ待遇を与えてくださいますか?」

「ええ、勿論もちろんでございます!」

 こうして入館の許可をいただいた二人は、興味を持った本を読んで時間を潰した。


 45分後。

「ありがとうございました」

 二人は一礼をし、図書館を後にする。

「さて、一度開けた場所に出ましょ、龍野君」

「ああ」


 更に10分後。

 内側の開けた場所に来た二人だが、先程までとは真逆の光景に驚愕した。

「何だ、ここ……。まるで俺の祖父じいさんが住んでる場所じゃねぇか……」

 “整っていないインフラ”を象徴するように、赤土の道が広がっている。

「それに、ところどころ悪臭がするわね……」

 ハンカチを取り出し、鼻を覆うヴァイス。

「まあ、一分すれば落ち着くさ。それよりも、あの建物……この辺りでは、比較的大きいからな。誰か人がいるはずだし、行ってみないか?」

「ええ」

 二人は、学校のような施設に足を踏み入れた。


「ごめんくださーい。誰かいらっしゃいませんか?」

 龍野が野太い声で、学校に呼びかける。

「我らが“まともな教え教会”に、何の御用ですかな?」

 すると、髪と髭が伸びに伸びた初老の男性が、二人の前に現れた。

「俺……私達は、旅をしているのですが、こちらの施設が気になりまして……」

「もしや、あなた方は入信を希望されているのですかな?」

「えっ?」

「こちらは“まともな教え教会”の学校でございます。ここで教義をひたすら教えこまれ、新たなる世代を……」

『龍野君、行きましょ!』

 ヴァイスが嫌な予感を覚え、龍野の腕を引っ張った。

「すみません、ありがとうございました!」

 龍野は形だけの礼をし、急いでその場を離れた。

「私達は同じ財産を分かち合い、そしてひたすら自らを研鑽し、やがてその身を救われ……」

 男性は、二人が去ったのにも気づかず、自らの教義を語り続けていた。


「ふう、逃げられたぜ」

「龍野君。次からは、なるべく近づかないようにしなくては、ね(私達をお父様から引き離した元凶である、“あの組織”に似ていたわ……。ああ、思い出すだけでも嫌な気分に……)」

「ああ。悪かった」

 龍野が頭を抱えると、視界にチラリと何かが映った。

「あれは……ヘリか?」

「ええ、軍用のね。

「どういう意味だ?」

「黙って見ていればわかるわ」

 やがて、ヘリが何かを投下した。

 数秒遅れて、パラシュートが開いた。

「降下兵か?」

「違うわ」

 ヴァイスは即座に否定した。当然だ、“正体”を知っているのだから。

「なら、何だよ?」

「地面に落ちたのを回収するわ。行くわよ、龍野君!」

「おっ、おい!」

 二人は、何かが着地しそうな場所まで駆けていった。


 3分後。

「開けて、龍野君」

「開けるって……。まあ、わかった」

 龍野は恐る恐る、投下されたを開けた。


 そこには、異様に長い銃とその予備弾倉が入っていた。


「ヴァイス……。これは何だ?」

「龍野君の魔力を節約するための、追加の兵装よ。以前訓練したでしょ?」

「ああ、あの暴れ馬か……。嫌な思い出だったぜ……」

 渋々といった様子で、龍野は銃を手にした。

「それで、何だっけ、この……」

騎士突撃槍銃アサルト・マシンガンよ。しばらく、戦闘の大半をこれで凌いでもらうわ」

「おいおい……剣やビームは使えねえのか?」

「使ってはいけないわけではないわ。けれど、そうね……魔力の節約、という意味では、なるべく自制してもらわなくては」

「わかったよ……」

 龍野は銃に弾倉が装填されているのを確認すると、レバーを引いて弾薬を装填そうてんする。

「うわぁああああああああああッ!」

 すると、悲鳴が聞こえた。

「おい、今の……!」

「先程の殿方ね……!」

 龍野は鎧騎士と化し、マシンガンを構えた。

 ヴァイスもこっそり予備弾倉を抱えた。

 そして、二人は悲鳴の聞こえた場所へと急行した。



現在の龍野の撃破スコア……2体(2,000点)

※戦闘が無いため、変動無し


騎士突撃槍銃アサルト・マシンガンの残弾

※この回より、報告を開始する。


     マシンガン……200 + 200×5 発


     グレネード…… 3 + 3×5 発

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