ハード・ボイルド・イン・スタント

空想演算器

ハード・ボイルド・イン・スタント

 すべてのものは生まれながらに終わりを宿命付けられている。それが少しばかり早いか遅いかの違いはあれど、だ。

 どこかで鳴り響いた笛の音は、このちっぽけな俺の世界に終わりをもたらす終末の喇叭ラッパ。闇に満たされていた世界が眩い光に包まれ、暴力的な熱量が注がれた。

 今この瞬間からきっちり5分後、俺の世界は終わる。約束された最期の5分間。誰に届くこともない物語を紡ぐというのも暇潰しとしては悪くないだろう。

 ハード・ボイルド。それが俺の宿命だ。

 少し昔に流行った、雰囲気だけのハードボイルドではない。固茹で卵の如く強靭。そして同時に、煮えたぎるものと共に在らねばならない。語義の通りでありダブルミーニングでもある、まさにハードボイルドを具現化した存在だ。

 だがハードボイルドを自称するのは正直あまり格好良いとは思わない。というより、ダサい。でもそういう風に生まれたんだから仕方ないだろう? オレだって好きでこうしてるわけじゃないんだし。

 だいぶのぼせてきた。5分って結構長いんだね。環境に慣らされて自分がブクブクと太っていくのがわかる。最初の熱さはヤセ我慢してたけど、もうヌルくなったし、快適なことこのうえないです。ちっともハードボイルドじゃないけどボクは本来こういうものだったんだってよくわかった。

 あ、もう5分たった。お疲れさんした。……あれ、まだすか? 正直もうダルッダルなんでいいかげん終わりでいいんすけど。ちょっとー? のーびーるー。あー、忘れられたか。まあいいや。しらない。


 「……これは旨くないな」

 ネットで一時期話題になった、カップ麺を規定時間以上にふやかすという食べ方。色々な商品で試してみるものの、大半はグズグズになって不味くなってしまう。

 だが彼の探究心は潰えることなく、失敗を恐れることもなく、今日ものびきったカップ麺を一人寂しくすすってはSNSで報告するのだった。


おしまい

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