エピローグ 星の見た正義
――うぅ……はぁ……はあっ……!
――くっ……思ったより、傷が深いですね……本体の活動を停止させて、化身だけになっても……身動きもままならないなんて。
――今度、ばかりは……死ぬかと思いました。どうしてあの方達は、私の話を聞いて下さらないのでしょう……破壊と殺戮の先に、未来などないというのに。
――それとも……おかしいのは私の方なのでしょうか。私の言葉も、声も、何の意味も成さないのでしょうか。
――いえ、弱気になってはいけませんね。根気よく説得を続ければ……あの者達の心にも何かしらの揺らぎや、行いへの疑いが生まれるはず。私が諦めては、それこそ全てが無に帰してしまう……。
――今は休息を取って、体力の回復を待たねば……でもこれでは、怪我の処置すら……。
――ねえ、見て見て! あそこに誰かいるよ!
――本当だ。……おーい、大丈夫ですかー?
――あなた達は……この星の、原住民の方でしょうか?
――え……よく分からないけど、あなたが泣いていた人?
――泣いて、いた……?
――うん。夕焼けの空が流した、一筋の涙。とっても綺麗だったから、見に来たらあなたがいたの。
――傷だらけじゃないか! 大丈夫ですか? 手当てしなきゃ!
――待って下さい……私はあなた達に、何の見返りも与えられません。そのような情けをかけてもらう謂われは、何もないのです……。
――何言ってるの! 困った時に助け合うのは当たり前だし、お互い様だよ? いいから、うちに来てよ!
――立てますか? 手を貸すので、一緒に行きましょう!
――ありがとう、ございます……。
始めは……恩を返したい、力になりたい……そう思っていて。
頼られて、崇められて……幾度も別れを繰り返して……。
人は邪悪で、罪業に満ち……それでもその中にある、確かな一条の光を見いだして。
けれどいつしか、それさえも捨て去ってしまった私に。
こんな私に。
あなた達は今でも――手を差し伸べてくれるのでしょうか。
ジャスティ、と呼ぶ声がする。
ジャスティはまどろみの中で寝返りを打ち、
「ジャスティ……起きていますか?」
「うーん……」
「……そろそろ起きないと、日が暮れてしまいますよ?」
「もうちょっとだけ、寝かせて……」
高木の作る涼しげな日陰に横たえた身が心地よく、わずかにだけ目を開けると、雲一つない青々と澄み渡った空が映る。
目線を落とせば、深緑の豊かな森林と、鏡のような湖面と、なだらかな丘陵がのんびりとした動物の鳴き声や鳥の羽ばたく音ともに、素朴だけれどのどかな情景を形作っていた。
ジャスティ、と再び頭の上で声がした。
振り向かないまま、ジャスティは寝入った振りをする。すると独り言のような言葉が、静かに落ちて来た。
「次は、どこに行きましょうか……いっそ、今日はこのまま、黄昏時までゆっくりするのもいいかもですね」
うん、と寝言っぽく頷いて見せると、くすりとした笑いとともに、髪が優しく撫でられた。
吹き抜ける風が一つ、並んだ黒と銀の髪をそれぞれそよがせて――傾き始めた太陽の光が、きらきらと草原を輝かせていた。
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