013 見られて騒ぐんならもっと成長してからにしろっての

午後の訓練も終わり、ミレイ達四人は牧場跡から少し歩いた所にある川で水浴びをし、汗と汚れを流していた。人が通る道からは離れているし、周りは林で大きな岩もある。

 二回目の訓練が終わった後でこの川を見つけ、それからは訓練後に寄ることにしていた。単独行動を好み、小休止の時だって会話がないシーリスも一緒にいる。少し離れてはいるが、それでも一人ではもし誰かが近付いて来た時の警戒が難しいので、妥協している……と、リアが考察してミレイに話してくれた。

 そのリアだが、毎度のことながら今日も荒れていた。

「全く……何なのだ、あの男は……!」


 パシャリッ、と水面を叩き派手な音を立てて怒り、とても綺麗な瑠璃色の髪を振り乱していた。前回も、その前も訓練後は怒っていたが、今日はまた一段と荒れている。

 一つ年下の友人の真っ白でスベスベの肌を羨ましく見ていたミレイだが、申し訳なさが込み上げてきて思わず頭を下げてしまう。


「あの、ごめんねリアちゃん。レグ兄、お姉ちゃんと同じで体で覚えさせるタイプだから」

「ミレイが謝る必要などない。だが、この調子であと一ヶ月と少し走り続けて錬晄氣レアオーラの繰氣だけやらされて、それで予選を勝ち抜けるとは思えぬぞ」


 言いながらリアは両手で川の水を掬い、顔を洗う。

 川に沈んだ岩に座っていたミレイは、裸の体を水で濡らした手で擦って洗いながら、自分なりに考えてみた意見を口にする。


「……レグ兄がやることだから、間違ってはいないんだと思うよ。今のセーちゃんより小さい頃からお姉ちゃん達に勝負を挑んで、負け続けて、それでも諦めずに強くなった人だから。時間さえあれば、強くはなれるんだろうけど……」

「問題はその時間よ。圧倒的に足らぬ。だから悠長に基礎訓練ばかりするあの男に苛立っているのではないか……全く……!」


 そう言うと、リアは倒れ込むようにして川の中に潜った。膝上くらいまでの浅い水深だが、泳ぐのではなく沈んで錬晄氣レアオーラを纏う。

 淡い光を放つ彼女の意図が分からないままどうするのだろうとミレイが見ていると、特に何かをするでもなく錬晄氣レアオーラを納めてリアは立ち上がり、ふうと小さく息を吐く。


「……錬晄氣レアオーラ、か。正直なところ、創撃武装リヴストラを作り出す為の通過地点というイメージしかなかったぞ。防護に使えると言っても雨風ならともかく本物の刃を防げる程でもないから、質を向上させようなどと思ったことがなかったわ」

「そうなの? お姉ちゃん、騎士エストになるなら錬晄氣レアオーラの繰氣訓練は毎日やっとけって言ってたけど……あたし苦手だから、ついサボっちゃってたなぁ……セーちゃんは上手だよね?」

「……繰氣は得意、だけど…………走るの、苦手……」


 岩の陰に隠れて水浴びをしていたセーラは、答えてはくれたもののちらっと顔を見せるだけだ。この川に来た初日は服を脱がずに濡らした布で拭くだけだったので、隠れてはいても近くに裸でいるだけでも距離は縮まっている……のかもしれない。

 一方、同じく少し離れた位置にいたシーリスは、引き締まった肢体を惜しげもなく晒して黒髪を洗っていたが、話題が訓練に関することだからか珍しく会話に交ざってきた。


創撃武装リヴストラ錬晄氣レアオーラは切っても切れない関係だと教えられていただろ、です。現にあの男は創撃武装リヴストラでの攻撃を錬晄氣レアオーラだけで防ぎきっていたんだからな、です」

「そういえばシーちゃんは繰氣が上手だったね。体力もあるし」

「俺の家は代々騎士エストの家系だから当然だ、です」

「フン。確かにわたし達の中では一番安定しているのかもしれぬが、それでもあの男の基準からすれば足りぬのだろう? 威張れるほどではあるまい」

「ちょっ、リアちゃん!?」


 いきなり喧嘩腰のリアにミレイは慌てて場を取り繕おうとするが、意外にもシーリスは鋭く一瞥しただけで文句は言わず、その場で絞った布で体を拭きながら話を続けた。


「……訓練内容に不満があるのは俺も同じだ、です。ちんたら基礎ばかりやっていて勝ち抜ける程予選は甘くないはずだろ、です」

「フン、そこだけは意見が一致するな。そもそもあの男、まともに指導するつもりがあるのか? 金銭目的だけで、真剣に後進を育てる気はないのではあるまいな……」

「やっ、レグ兄だってそこはちゃんとやるはず……たぶん……うん、やると思う、よ?」

「この中で一番親身なミレイがそのような反応になることこそ、あの男に信用がない証だろう。強いことは認めるが、あの態度は国と民の為に剣を振るう騎士エストとは思えぬ」

「あー……レグ兄、愛国心みたいなのはないと思うよ? 小さい頃に生まれた国がなくなっちゃって、それで移住してきた人だから」

「ふむ……あの男が小さい頃となると、隣国だった静蓮ベルクの出身か。小国故に虹星練武祭アーヴェスト・サークルには殆ど出場することなく、かといって国力を上げる術も見つからず、痩せ細り消滅する道しかなかったと聞くが」


 ――虹星練武祭アーヴェスト・サークルは今では剛魔獣ヴィストに対抗する騎士エスト達の研鑽というより、国同士の代理戦争としての意味合いが強い。勝てば多くを得られ、負ければ多くを失う……が、参加しないのであれば褒賞を提供するというルールがある。初戦で負けるのに比べればずっと少なくて済むが、それでも小国にとってはかなりの打撃になる……と、姉やその友人が話してくれたのをミレイは覚えている。

 それはレグの住んでいた国が滅んだ理由を訊いたのが発端で、近くで聞いていた当人はまるで気にした様子なく木剣を振るっていた。


「七歳の時にこの華炎フレングレールに来たけど、生まれた国にもこの国にも思い入れはないみたい。レグ兄は孤児みたいなものだったし、国民権を貰ってからも何かが変わった訳じゃ無いって言ってたし……」


 移住して五年暮らせば、その国の民と認められる。これは大陸共通のルールで、国が滅亡した場合も当て嵌まり、五年経つまでは流民扱いになるそうだ。

 そして虹星練武祭アーヴェスト・サークルにはその国の民しか出られない。もしレグの祖国がもう少し長持ちしていたら、十三歳での出場は叶わなかった。

 不幸中の幸い……と言って良いのかも分からないが、今こうしてレグに教えて貰えているのは、ミレイにとってとても嬉しいことだ。でも、他の三人はどう思っているのか分からない……というより、リアとシーリスは明らかに良く思っていないだろう。

 特にリアは王女様、順当にいけば女王になることはないだろうが、その地位に就く可能性もある。国を思う気持ちはここにいる誰よりも強いから、レグの出自を聞いて反感が強まるようなことは――


「ふむ、異国の民か。ならば国に尽くそうなどという想いは端から無いのやもしれぬな」

「……あれ? リアちゃん、怒らないの?」

「元が異国の者に愛国心を望む方が難しいというものだろう。己もこの国がなくなり別の国の民になったと想像すれば、新たな宿り木になる国の為に動こうなどという気はまるで起こらんからな」

「良かった……なら、」

「――だからこそ己はそのようなことにならないよう、国力を上げる為にも虹星練武祭アーヴェスト・サークルで勝ち上がる必然性に駆られているのだっ! なのにあの男はその気も知らずヘラヘラと……!」


 これなら何とか仲良くして貰えるかな、と思ったミレイの期待はあっさりと砕け散った。川面をバシャバシャと叩くリアの姿はとても見ていられない怒りようで、簡単に鎮まるとは思えない。

 今年の虹星練武祭アーヴェスト・サークル予選出場希望者を集めての説明会で初めて出会い、それからほんの数ヶ月であっという間に仲良くなった王女様だが、ここ最近は怒ってばかりだ。その原因が兄同然の人だというのが、何というか申し訳ない。


「あれで反則じみた強さだから本当に性質が悪い……だが、強さは認めるがあれを騎士エストとは断固として認めん! 己の理想とする騎士エストはあのような男とは程遠いのだからな!」

「あー、リアちゃんの理想の騎士エストって……確か前に聞いた……」

「うむ。四年前、己が父の名代で出向いた錬鉄デボルクの国で剛魔獣ヴィストに出会した時に現れた異国の騎士エストよ。己等を護衛していた騎士エストを薙ぎ散らした剛魔獣ヴィストを一撃で屠った強さもさることながら、幼き己を身を挺して守ったあの高潔さ……見えたのは殆ど後ろ姿だけだが、あの光剣の輝きと共に今でも目に焼き付いているぞ」


 遠い目をしたリアの表情はどこかうっとりとしていて、その人物への強い憧れが窺い知れた。レグに対するそれとはえらい違いだ。


「あの日に見た騎士エストに近付く為にも、そしてこの国の為にも、己は強くならねばならぬ。虹星練武祭アーヴェスト・サークルに出て勝利をすれば国力を上げられるだけではなく、己の立場も優位になる。そうすれば従姉妹殿を助けることも……!」

「従姉妹って、フランベルさんのことだよね?」

「うむ。あの男と共に虹星練武祭アーヴェスト・サークルを制した女傑よ。その能力と為人は、己よりも其方の方が詳しいのではないか?」


 彼女の問いに、少し悩みながらもミレイは頷く。小さい頃からの知り合いだというのは昼に話したが、リアより詳しいかというと少し疑問もある。

 件の女王代行は目の前にいる年下の少女と同じで、とびきり綺麗な人という印象が強い……が、世間で言われている程冷酷なイメージはなかった。意外と話し易い人だし、料理だって上手だし。小さい頃に勉強を教えて貰ったこともある。

 だが、たまたまリアやフランベルと知り合いになれたが、ミレイ自身は普通の農家の娘だ。王族や政治の話なんて詳しいはずがない。

 分かるのは、王位継承権を持つリアを疎ましく思う派閥が騎士エストの中にもあって、それが原因で予選突破が有力な本命チームにリアが入れないという事実だけだった。


「全く、難儀なものだ。己も認める女傑たる従姉妹殿は王位に就けず、己は中途半端な地位にいるが為に邪魔をされて、あのような男の指導を受ける羽目になるとは……くっ……!」

「でもでもっ、レグ兄は最初から強かったわけじゃないのに、あれだけ強くなったんだもん。だからレグ兄の言う通りに頑張れば、あたし達も強くなれるよ! ……たぶん」

「其方は健気だな……というより、タフだな。今日だって一番走らされていたというのに、全然元気ではないか。どんな鍛え方をしているのだ?」

「鍛えてるっていうか、小さい頃からうちの手伝いで畑仕事とか山羊の世話とか色々やってて、体力だけは自信あるんだよ。でも、錬晄氣レアオーラの繰氣は全然上手くならないし……レグ兄、強くなりたいなら夜家に来いって言ってたよね。行ってみようかなぁ……」


 指示通りに訓練を頑張れば強くなれると信じてはいても、自分の実力不足は毎回痛感している。簡単に強くなれる魔法なんてないとは分かっているけど、可能性があるのなら試してみたいとは思う。

 ……が、何故かそれを聞いていたリアが取り乱し始めた。


「ばっ、何を言っているのだ!? 其方、それがどういう意味か分かっておるのか?!」

「意味って……秘密の特訓でしょ? あと体を預けるって言ってたから、たぶんマッサージもあるんじゃないかな? 洗っとけー、みたいなことも言ってたし」

「だからそれはっ、その、立場に物を言わせていかがわしいことをするつもりというか、切羽詰まった乙女の純血を踏みにじるつもりというかだな……!」

「リアちゃんは難しい言葉を知ってるね……うーん……」


 内容は殆ど理解出来なかったが、顔を赤らめて熱弁するリアの様子を見る限り、レグの家に行くというのはとんでもないことらしい。少なくともリアはそう信じ込んでいる。

 他の人達の意見も聞きたいなと思ったミレイが視線を移すと、岩陰に隠れていたセーラは赤面して俯いていて、何か話してくれそうな雰囲気じゃない。

 ならばとシーリスを見れば、濡れた髪を纏めていた彼女はこちらを見ないまま、


「……あの男が強いのと教導員コーチとして優秀かどうかは別問題だ、です。覇星騎士エストの実績が実力を保証しているのとは逆に、それ以降はまるで結果が出ていないからな、です」

「ほう……? シーリス、其方何か知っているのか?」


 普段は仲が余り良くない二人だが、レグを共通の敵として見ているからか今日は珍しく会話が成立していた。それでも目は合わせようとしていないけれど。

 近くの岩に載せていた布を手に取ったシーリスはそれで髪を拭きながら、鋭い視線を水面へ落として独り言のように言う。


「……他国からの視察団の護衛、国外での剛魔獣ヴィスト討伐、騎士エスト団の特別顧問と失敗続きだったそうだが、特に俺達に関係あるのは有望な騎士エスト候補生の育成請け負いだな、です」

「ふむ。教導員コーチ制度が実施される前のことか?」

「らしいな、です。当時将来を期待されていた候補生を英雄殿が付きっきりで一対一で鍛え、虹星練武祭アーヴェスト・サークルで勝利する為の切り札とする計画だ、です」

「レグ兄、それに失敗したの? でも、そういうのって伸び悩んで思ったより強くなれないこともあるんじゃ……」

「期待値以下ならともかく、その候補生は騎士エストになるどころか今でも家から出られない程の精神的苦痛を味わったそうだ、です。少なくともここ数年、彼女の姿を見た者はいないと聞いている、です」

「……フン。それが本当だとすれば、あの男が何かやらかしたか。例えば己達に要求したようないかがわしいことをして――」

「レグ兄はそーいう人じゃないよ! 何かの勘違いか、それとも不幸な事故とかっ」

「そのとやらが俺達に起こらない保証はないだろ、です。再起不能になるのは勿論、予選の場に立つことすら叶わない……なんていうのはご免だ、です」

「…………うぅー……」


 違うと否定したいミレイだが、説得材料が思い浮かばず歯痒さを覚える。

 そんな人じゃないのは間違いないけれど、それを納得して貰える言葉やエピソードがまるで浮かんで来ない。親しくしていた思い出を語っても、たぶんこの二人には意味が無いと思う。教導員コーチとしての資質を示さなければならないのに、そこはミレイも確証がない。

 ただ一つ確信があるのは、幼い頃から兄のように慕っていた人は『強さ』に関して嘘が吐けない人だということ。自分の弱さにも他人の強さにも、文句は言いながらもそれを言い訳にせずひたすら最強を目指していた。

 だからレグならきっと、諦めずに頑張れば未熟な自分達を強くしてくれると――



「……お? なんだお前等、まだ帰ってなかったのか」



 ――唐突に右手側から聞こえて来たのは良く知った馴染みのある声で、咄嗟に振り向いたミレイが見たのは、何本もの太い枝を抱えたレグの姿だった。

 そういえば新しい家具の材料を探しに行くとか言っていたような、とぼんやりミレイが思い出すのとほぼ同時に、


「なっ、な、なぁっ……!? き、貴様ぁ、どのようなつもりで来たのだ破廉恥な……!」

「……覗きとは呆れた趣味だな、です。英雄崩れどころか犯罪者とは、です……!」

「…………っ…………っ……」


 慌てふためき怒声を浴びせながらその場にしゃがみ込んで身を隠そうとするリアと、明らかに面積の足りていない布で前面を隠すシーリス。岩陰にいたセーラはもう完全に隠れてしまって、ミレイからは見えなくなる。

 そして茂みの向こうからこちらを見ているレグはというと……完全にうんざり顔になって、ため息まで吐いていた。


「誰が好き好んでお前等の裸なんてつまらないもの見に来るんだよ、ったく……見られて騒ぐんならもっと成長してからにしろっての」

「なっ、言うに事欠いて己等の体に文句をつけるだと……!?」

「当然だろ、もっと出るとこ出てから言えよ。逆にチビ、お前はお前で何してんだ」

「へっ? 何って……何も?」


 いきなり質問されても意図が分からず、立ち尽くしたまま素直に返すしかない。そんなミレイに、レグは益々げんなりした表情になってしまう。


「お前は年長だし一番育ってるんだから少しくらい隠そうとしろよ。何をぼけっと突っ立ってんだ」

「えっ、でも、レグ兄だし……何度か一緒にお風呂にも入ったことあるよ?」

「それはお前が正真正銘のチビだった頃の話だろーが。ったく、姉妹揃ってどうなんだその感覚は……」


 呆れたように首を横に振って、レグはもう一度ため息を吐き、


「……まあいいか。お前等なら男連中に襲われる心配はないだろうが、剛魔獣ヴィストには気を配っておけよ。この辺ではあんまり見かけられないが、たまにはぐれが出ることはあるからな」


 それだけ告げると、レグはさっさと茂みの向こうへと行ってしまった。

 リアとシーリスはいつでも攻撃してやると言わんばかりの目でレグの消えていった方向を睨み付けていたが、戻って来る気配はない。

 どうやら本当に材料探しをしている途中で通りかかっただけらしく、ついでに言うと教え子達の裸にも興味がないらしかった。

 ミレイからすれば、自分はともかく凄く綺麗なリアやスレンダーで凛々しいシーリスは異性からとても興味が持たれそうなのに。まあセーラはやや幼いというか未発達だけど、将来はかなりの美人になりそうだから、成長に期待というところだろう。

 ともあれ、あの対応はちょっと酷い気もするなー、とミレイが思っていると、やはりというか当人のプライドに触れていたらしく、


「……己の裸を見ておいて、なんという…………おのれぇ……!」

「…………殺ってやる、です……いつか必ず仕留めてみせる、です……!」

「…………………………つまらない裸って…………」


 怒り、恨み、そして哀しみと、それぞれに負の感情を募らせる仲間達に掛ける言葉が見当たらないミレイは、途方に暮れて苦笑いをするしかない。

 そんなミレイにリアはむっとした表情で詰め寄ってきて、


「ええいっ、笑い事ではない! あと一人だけ見事に成長してずるいぞっ!」

「わわっ、リアちゃん止めてっ。おっぱい鷲掴みにしないでっ」

「……そんな風に掴めるだけあるなら別にいいだろ、です」

「そうだぞ己にも分けよ!」


 随分な無茶を言うリアだけでなく、怒りと妬みが綯い交ぜになったような声音でシーリスが続ける。

 だが、二人が羨ましがるなんて、むしろミレイの方が納得いかない。


「おっぱいが大きくたっていいことなんて殆どないよっ? あたしの理想はフランベルさんみたいに落ち着いた大人の女性だし、痩せてた方が格好いいし……」

「ぐぬ……互いにない物ねだりか。だが、胸のある女の方が好ましく思う男は多いぞ。口ではあんなことを言っておいて、あの男だって内心ではこの豊かな果実を自分のものにしたいと思っているに違いない……!」

「変なこと言いながらもごうとしないでって?! それにレグ兄はそんなんじゃ――」

「分かるもんかよ、です。俺等に夜中に家まで来いだなんて言う奴のことなんてな、です」


 吐き捨てるように言うシーリスは、残念ながらリアの乱心を止めてくれる気配がなかった。憎しみの籠もった目をこちらへと向けているが、リアがやりたい放題している胸に対するものなのか話題の人物に対するものなのか、どちらかは分からない。

 年下の少女達を説得出来ないミレイは揉みくちゃにされるのにどうにか抵抗しながらも、頭の片隅では一つの決意を固める。

 ――強くなりたい、という抑え切れない気持ちと焦りが、ミレイを駆り立てていた。

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