第11話凶悪犯暴走する

 さて、トラックを乗っ取って運転している男は、

凶悪な顔つきで坊主頭、そのうえ身長180センチ超で筋肉質だった。

荒い運転で車をかなりの猛スピードで飛ばしていた

ので、荷台にいるイノシシと人間2人は生きた心地がしなかった。 

 運転席の悪党面はおもむろにラジオのスイッチを入れた。

「本日、××市の刑務所で服役中の30代の受刑者1名が逃走中。

 警察では市内に潜伏しているものとみて、

 行方を追っています。」

と、クマの射殺のニュースのときよりも

興奮した調子でアナウンサーが読み上げるやいなや、

「ちくしょう!もう手配されてやがる!

 こうなったら人質もろとも海に車で

 飛び込んでやる。捕まってたまるか!」

などとわめいている。

「もうおしまいだ!クレイジーな脱獄犯に捕まるなんて

 なんて運が悪いんだ。どっちみち

 顔を見られているからおれたちはおしまいだ。」

と兄はめそめそ泣いていた。

「スピードが落ちた時を見計らって飛び降りよう。」

と弟が提案したが、

「こんなに飛ばしているんだから落ちたら死んじまうよ。」

と兄はやけになってこたつ布団をかぶってふて寝してしまった。

 しばらくして、あまりにもスピード違反して暴走していたために

「そこの軽トラック、止まりなさい!」

という拡声器で叫ぶ警官の声と、パトカーのサイレンの音が響いてきた。

「やった!助かった!」

と2人と一匹は喜び合った。

 ところが凶悪犯はいきり立ってますます蛇行運転までして

逃走を続けた。荷台に載っている家財道具が体のあちこちに

ぶつかったので、兄弟もブーブもみな気絶してしまった。

 ついに橋の上で鉄橋に衝突して車がとまった。

「近寄ると人質の命はないぞ!」

と前科50犯の凶悪な脱獄犯は荷台から引きずり降ろした

2人に出刃包丁をつきつけながら、

目を血走らせ、口角泡を飛ばすので

警官たちもなすすべがなかった。

 すばやくこたつの中に隠れて見つからずに済んだ

ブーブはすきを見て犯人に体当たりして2人を逃がそうと

思って息を潜めていた。

 そして事態は思わぬ方向に進み始める。

「おやっ!こいつよく見たら、女じゃねえか。

 塀の中じゃむさ苦しい野郎ばっかりだったから

 たっぷりかわいがってやるぜ。」

と脱獄犯がよだれをたらさんばかりの顔で意識を失っている

弟の体つきをなめ回すように見ているではないか。

「男と女も区別がつかないなんてよほどラリッているのか。」

とブーブがあきれていると、

「やめろ!妹にさわるな!」

と気がついた兄が叫んだ。

「ええっ!男の子だとばかり思ってた!」

とブーブは衝撃を受けたのだった。

「うるせえ!黙ってろ!ぶっ殺すぞ!」

と叫ぶと、脱獄犯は兄を片手で川に放り込んでしまった。




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