第11話 頂上で見たもの

 翌日は予定通り三十階まで順調に進むことができた。

 しかし、その後の進行ペースはやや落ちた。戦闘も、三十二階からアレイ達も参加するようになった。

 三人の連携の錬度は高く一回の戦闘自体は危なくなることもなかったが、階層毎の戦闘回数が多いこと、危険な罠が増えてきたことで、どうしても進みは遅くなってしまった。やっと五十階への階段が見えたのは、アレイ達の参戦から二十日後のことだった。

 これ、この三人がいなかったら、何日経ってたか分からないな。


「さて、この先が塔の頂上だ。イオに何かが起きる可能性もあるから、気を付けていくぞ」

「りょーかい」

「了解です。イオさん、何かあったらすぐ声を掛けてくださいね」

「分かりました。よろしくお願いします」


 鬼が出るか蛇が出るか。踏み入れたそこは、これまでの階層と違い、階層一帯が一つのフロアになっていた。柱もないが、どうやって天井を支えているのだろう。やはり魔法だろうか。こういうのって、魔法が解けたら崩れること間違いないよな。

 フロアの中心部は、天井から光が差していた。光の下には、何かが見える。――人? 多いな。


「アレイさん、あそこにたくさん人がいます」

「なに? 確かにいるな。迷い人か? しかし、多いな」

「塔の頂上に迷い人がいるなんて聞いたことありませんよ?」

「一度ここを経由するのかも」


 エフィエイラの意見は有り得るかもしれないな。実際俺が目を覚ますまで、どういう過程であそこにいたのかなんて誰も分からないし。

 何にせよ、確かめるしかない。俺達は慎重に光の下へ向かった。


 

 □



 光の下にいたのは。七人の若い男女だった。加えて言うなら、知り合いだった。


 泉沢春。俺の妹。十四歳。

 鈴井奈美。クラスメイト。小柄なボーイッシュ系美人。

 鈴井千尋。鈴井奈美の妹にして、妹の親友。容姿は姉に似ているが、性格はおしとやか。

 天城錬。クラスメイト。成績優秀、運動神経抜群のイケメン君。彼女あり。爆発しろ。

 小野寺茜。クラスメイト。天城の彼女。気が強い系の美人。

 宮園正樹。クラスメイト。柔道部の優しい巨人。

 名瀬信二。クラスメイト。クラスのお調子者。


 七人は、全員気を失っているようだ。

 光の発生源の天井を見上げると、揺らいだ空間の先に、高い建物から見下ろした町並みが見えた。俺の通う学校も見える。


「アレイさん。この七人は俺の知り合いです。うち一人は妹です」

「そうか。塔の繋がった先がイオの生活圏だったのなら、有り得る話だな」

「イオさん、空間の先に見覚えはありますか?」

「はい、俺の通っていた学校や他にも見知った建物が見えました。間違いなく俺の世界です」

「予想は確定。強制転移もなし。あとは――」


 エフィエイラが揺らぐ空間を見上げる。その目にはものすごい密度の魔力が込められている。


「これは基本的に片道通行。こちらから無理に通れば身体が分解すると思う。私が全力で防御魔法を使っても一か八かの賭けになる」

「そうか。その賭けは最後の手段だな。原因か違う帰り道はやはり地下だろうな」

「そうですね。では、イオさんのお友達と妹さんを街に連れ出して、仕切り直しましょう」

「人数多い。学園行く?」

「いいかもしれないな。まあ、目が覚めたら本人達に選ばせよう。人数が多いし、エフィ、転移魔法を頼む」

「りょーかい。えいっ」


 エフィエイラの魔法が発動した。視界が変わった時には街の大門の前にいた。何故俺の時に使ってくれなかったのか。

 あとは、皆が目を覚ますまで少しの待ちだ。

 揺らぐ空間の先に見た故郷の風景を思い返しながら、横たわる妹を見る。春は必ず無事に帰してみせる。

 俺は決意を新たにした。

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