第10話 初実戦
そして戻ってきました、この世界に俺が初めて来た場所。
初めは洞窟と思ったそこは、塔の一階、その奥の方。あの日は気が動転して気付かなかったが、まだ奥へと続く道がある。
つまりアレイ達は、調査に来て直ぐに折り返したという訳だ。見ず知らずの俺に、ありがたいことだ。
「前回もそうだが、ここまで何もいないのは珍しいが、この先は流石に何か出てくるだろう。イオ、気を引き締めろよ」
「はい、分かりました」
始まりの場所を通り過ぎ、暫く歩くと、石造りの螺旋階段が現れた。行き先は、登りと下りの両方だ。昨日の話では上を目指すことになっている。
下り側からは何か嫌な気配を感じる。おそらく今の俺にはまだ早いだろう。
「そういえば、皆さんは塔のどの辺りまで行ったことがあるんですか?」
「俺は一つの塔の最上階と、地下は二十階だな」
「僕は五つの塔で最上階まで行きました。地下は五十五階までですね」
「私はアレイと同じ」
「塔の最上階って何階なんですか? あと、講義で言っていたように、別の世界に繋がっているんですか?」
「僕が昇った塔は全て五十階でした。見た目よりは階層は少ないですね。塔の最上階では空間に穴が開いていて、その先には様々な景色が見えていました。その先には進みませんでしたが、きっとあれが別の世界なんだと思います。ただ、僕が僕の世界を見た訳ではないので、関係ない幻の可能性もあります」
「あれ? そうなると、エフィエイラさんが昇ったのは、自分が来た塔ではないんですか?」
「そう。昇って帰りたくなったら、世界が滅ぶ。それは困るから自重した」
なるほど。確かに俺がこの塔の最上階で確認した世界が地球なら、帰りたくなってしまうかもしれないな。あるいは強制的に返される可能性もある。帰るだけで地球が救われるとは思わないし、地球を救うならそれはまずい。気を付けよう。
「俺達は地下に全ての鍵があると考えている。ただ、地下は強敵が多く危険でな。とりあえず、イオの慣らもあるが、空間の穴の先がイオの世界か確認してもらって、俺達の考えを固めたいんだ。――それでもし、例えば強制的にイオが帰ってしまったとしても、そこは俺達が責任を持って何とかするから安心してくれ」
まあ、その時は三人に地球の命運を託そう。そもそも、皆がいなければ最上階に至る事も叶わない訳だしな。
「その時は、よろしくお願いします」
□
階段を昇り二階に来た俺達は、次の階段を探した。螺旋階段っていうのは普通もっと長く各階層に繋がっているもんじゃないのかよ。まったく。
そうした不満を抑えながら進むと、道の先から複数の足音が聞こえた。
アレイ達が軽く身構えている。俺も剣の柄に手を添える。
そして、道の先から見えてきたのは、二体の歩く人骨と一体の四本足ミミック。なるほど、これが護衛と運び屋のセットか。ちなみに、人骨は手に刀を持っている。お侍様ですか?
「イオっち。れっつごー」
「イエス、マム」
俺は剣を抜き、右の骨に向かって駆け出した。二体の骨は刀を構えようと動き出すが、遅い。右の骨の腕と首を斬り落とし、左の骨には浄化術を放った。一瞬で消えた。どうだ、守護神ロニの加護は素晴らしかろう。
あとは、四足ミミックだけか。――そういえば、こいつは倒していいのか?
「あ、イオさん、運び屋も普通に倒して大丈夫ですよ」
我が神よ、仰せのままに。なんてな。剣を突き刺した。ミミックの口が開き、中から淡く光る物が飛び出してきた。
光はすぐに収まった。青い液体が入ったペットボトルだった。
「入れ物は変わっているが、ポーションだな。飲めば体調が良くなるし、簡単な傷なら掛ければ治るぞ」
それは便利だ。グリタに入れておこう。
あ、刀もあったな。一振りは……曲がっているし、刃が大きく欠けているな。ダメだ。
もう一振りは……使えそうだな。よし、持って帰ろう。
「戦闘に余裕がありますし、イオさんなら、このまま結構行けそうですね」
「目指せ、てっぺん」
そんな持ち上げたら、調子乗っちゃうよ? 本気にしちゃうよ?
「頑張ります」
と、まあ、そんな感じで塔での初実戦が終わった。そして、そのまま夜(塔の中では分からないが、夜らしい)を迎えた時には、十五階まで来ていた。その間の戦闘は、俺一人だけだったが、今の所問題はない。むしろ、戦利品は全て俺の物になったので得している。
明日は目指せ三十階だな。
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