第8話 訓練3

「イオさん、お疲れ様です。次は僕が担当です。よろしくお願いします」


 柔らかい雰囲気を纏う天使ロニ様の降臨である。ありがたや。もしもエフィエイラの次がロニだったなら、来た瞬間感動のし過ぎで死んでいたかもしれないね。


「お疲れ様です、ロニさん。こちらこそ、よろしくお願いします」

「はい、任せてください。エフィさんの話を聞いていたので、かなり心配だったのですが、どうやら大丈夫そうですね」


 その言葉にはアレイが答えた。


「いや、大丈夫とは言いづらいぞ。俺の時間で少し理性を戻したんだが、基本的にまだ変なままだ。もうダメかもしれないぞ」

「そ、そんな……」

「何言ってるんですか。俺はこの通りぴんぴんしているじゃないですか。エフィエイラさんにキスするために頑張っている。ほら、前と変わらないでしょう?」

「「……」」


 アレイは片手で頭を抱えた。ロニは、両手で顔を覆っている。指の隙間から煌めくものが流れている。


「まあいい。俺はもう行く。ロニ、イオを頼んだぞ」

「分かりました。僕が絶対元に戻してみせます」


 テンション高いロニも可愛いなぁ。


「では、イオさん。エフィさんとアレイさんの訓練の成果を見せて下さい」


 アレイの姿を見送った後、ロニはシミターを構えた。

 俺も剣を構え、闘気を纏った。同時に土魔法で作り上げた石剣をロニの背後に浮かべた。


「あ、凄いですね。闘気と魔法の同時行使なんてなかなかできませんよ」


 死角にあるのに直ぐ気付かれた。流石ロニである。可愛いだけじゃない。格好良さも兼ね備えるなんてなかなかできませんよ。


「では、こちらからいきますね」


 間合いを一歩で詰め、突きを放つロニ。横に飛んで交わす。当然追撃が来るが、石剣でそれを防ぎ、手に持つ剣でロニの足を狙う。後に飛んで逃げられる。

 石剣を無数のつぶてに変え、さながらショットガンのように、ロニに向けて放った。瞬間、ロニの姿が揺れた。全てのつぶてがまるでロニを避けたかのようにあらぬ方向へ飛んでいった。どうやら全てシミターで受け流したようだ。その後は俺の攻撃は全て読まれ、初動から抑えられた。


「参りました」

「はい、お疲れ様でした。一人で闘気と魔法を行使しているとは思えない素敵な連携でした。特に石のつぶてへの切り替えは見事です」

「ありがとうございます」

「エフィエイラさんが頑張った気持ちが少し分かりますね。僕も実験してみたくなりました」

「是非、お願いします」


 強くなれるなら何でもウェルカムだ。


「それではその方向にしましょうか。前にちょっとだけお話しましたが、僕の世界は、浮遊大陸に住まう守護神の御力――神聖術が日々の生活を支えていました。神聖術は、その大陸に住まう守護神に祈りを捧げ、加護を受けることで使えるようになっていました。しかし、その地は滅び、僕が信仰していた神だけが繋がりを辿り、逃げ果せることができました」

「故郷のことは、さぞ辛かったでしょうね……」

「そうですね。あれから何百年も経ちましたが、忘れることはありません。あ、ちなみに長寿は、逃げてきた神の影響です」


 スケールの大きな話だ。


「それで、本題なんですが、イオさんにはこの神の加護を受けてもらいます。これで僕と同じ系統の神聖術を使えるようになります。具体的には回復術、浄化術が使えるようになり、精神耐性が強化され、寿命もちょっと延びるおまけ付きです。僕ほどのスケールではなく、十数年延びる程度だと思います。神聖術は魔法が使えない所でも使えるのがメリットです」

「ありがとうございます」


 魔法が使えない所もあるのか。気をつけよう。エフィエイラなら対策できるかもしれないし、今度訊いてみるか。


「では、早速やりますね。――『我が加護を授ける』」


 意味はこれまでと変わらず理解できたが、違う言葉を使ったのが分かった。その言葉は耳を介して、未知の力を身体ではないどこかに染み渡らせた。魂ってやつだろうか。


「なるほど、これが加護ですか。収まっている所は違いますが、どこか闘気に近いものを感じますね」

「これ、人それぞれ感覚が違うんです。どうも見知ったイメージや感覚に影響されちゃうみたいなんです。この後は僕の神聖術をイオさんの感覚に落とし込む作業です。きっと時間はかかりませんよ」

「ちなみにロニさんはどんな感覚なんですか?」

「僕は心象に座している守護神に祈り、力を賜っていますね」


 つまり、俺は心象にロニを座して祈ればいいのだな。ふふっ、容易いぜ。

 再びエフィエイラと訓練する時には、百の守護ロニ神が俺の力となるのだ。

 そう意気込み燃える俺の耳に、


「これでイオさんの精神が改善されればいいんだけど――」


 ロニの小さな呟きが聞こえた。

 ……はて?

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