第7話 訓練2

「エフィ、交代の時間だ。どんな調子だ?」


 アレイが地下室に入ってきた。つまりようやく外で一日経ったということだ。中で何日経ったか分からないが、このエフィエイラによる地獄の訓練がひとまず終わるのだ。喜ばしい。ハグで迎え入れたいところだ。キスをしてもいいぞ。まあ、身体のコントロールはエフィエイラが握っているから無理なんですがね。


「内部時間十日間、ずっと私の動きを無理矢理再現した。多分まあまあ動ける。食事にも色々混ぜたから身体作りも良い感じ」

「おいおい、流石に飛ばしすぎだろ。大丈夫だったのか?」


 いいえ。


「一番最初に、心臓止まって、脳の一部が破裂した。それだけ」

「……強制操作を解いたらゾンビになってましたとかは勘弁だぞ?」

「それはない。見るといい」


 その言葉を合図に、俺の身体は自分で動かせるようになった。


「アレイさん、おはようございます。生きてまた会えて嬉しいです。ハグかキスしていいですか?」

「あ、ああ、俺も嬉しいよ。ただ、ハグもキスも遠慮させてもらう」

「残念です」

「じゃあ、イオっち、私にしていいよ?」

「では、遠慮なく」


 そう言って、エフィエイラを抱きしめた。そしてじわじわと力を入れる。


「何のつもりかな。イオっち?」

「いやだなあ。感謝のハグじゃないですか。せっかくなんで、成長の成果も堪能してもらおうかと思いまして」

「なるほど。でもこれしか成長してないのはがっかり。次はもっと厳しくする」

「いえいえ、生きて感謝できるのが大事なんです。やりすぎて死んでしまったら意味ないじゃないですか」

「死んですぐ生き返ればノーカン。大丈夫」

「「ふふふふふふっ」」

「お前ら二人、キャラおかしくないか?」


 こうしてエフィエイラの小柄で柔らかい身体を堪能しつつ、生の喜びを噛み締めた俺は、続くアレイの訓練へと気持ちを切り替えた。



 □



「では、アレイさん、よろしくお願いします」

「ああ、分かった。ではまず、エフィの訓練の成果を見せてくれ」


 そう言って、アレイは剣を構えた。


「分かりました」


 俺も剣を構えた。この数日無理矢理動かされていただけあって、自然と構えが取れていた。


「ああ、良い感じだな。では、俺から仕掛けるからな。始めは軽めに、それから徐々に難易度を上げるぞ」


 アレイは軽やかに間合いを詰めてきた。同時に袈裟懸けで剣が振り下ろされる。こちらはそれに剣を合わせ受け流す。受け流し切る直前、アレイの剣は軌道を変え、再び俺を襲うが、そこに風魔法による障壁を作り上げ防いだ。

 自由になった俺の剣でアレイの首を狙う。アレイはその剣を左手で掴み取った。掴まれた剣を支点に俺は投げ飛ばされ、首に剣が突きつけられた。


「参りました」

「おう、想像よりも良い感じだったぞ。特にあのタイミングで魔法で防御するとは、こっちに来たばかりとは思えん。良いセンスだ。これもエフィの教えか?」

「そうですね。身体を動かされている時は、剣が主体っていうよりも、剣は使うけど、魔法がメインって位ガンガン使用させられていました」

「なるほどな。それならその戦い方に上乗せする方向に鍛えるか」

「はい、お願いします」

「なんだ、随分やる気があるな。正直、もっと戦意を喪失しているかと思っていたぞ?」

「エフィエイラさんを抱きしめて英気を取り戻しましたし、次の時にはハグ以上の方法で一泡吹かせたいですから」

「……あれだな。理性も取り戻そうな?」

「?」


 アレイは何を言っているのか。俺はこんなに理性的じゃないか。欲望のコントロールは完璧だぜ。


「まあいいさ。では、後を向け」


 言う通りにすると、頭に手を置かれた。


「これから俺の闘気をお前に送る。それを呼び水にお前の闘気を操作するから感覚を掴め。また、同時にその状態で魔法を使い続けろ」

「剣の訓練はしないんですか」

「この回は見送る」

「分かりました」

「ちなみに、かなり疲れるから、集中力を失って闘気や魔法を暴発させるなんて、ミスするなよ。最悪身体の一部が吹き飛ぶからな」

「その時は治しましょう。すぐ治せばノーカンです。大丈夫です」

「……はあ。いくぞ」


 アレイのため息には釈然としない物をかんじるが、まあいい。

 アレイに触れられている部分から、何かが流れ込んできている。エフィエイラに操作された魔力とはまた違うものだ。それが身体を満たしてくるに合わせ、全身に力がみなぎってきた。なるほど、これが闘気か。かめ○め波や波○拳とか使えるだろうか。


「そろそろ十分だな。このままの状態で魔法を使え」


 この状態で使う魔法か。何が良いだろうか。アレイは剣の訓練はしないって言ってたけど、感覚は忘れたくないし、魔法で剣を振り回してみるか。エフィエイラが俺を操作するよりは簡単だろ。お、浮いたな。では、振り上げて、振り下ろす。続いて袈裟切り、逆袈裟切り。


「よっ、せいっ、と。ああ、確かに集中が難しいですね」

「そんな事もできるのか。良い感じに頭のネジが取れているようだな。それなら、俺も手を放して闘気を送るから、俺に向かって剣を操作してみろ」

「分かりました」


 流石に剣速は遅いし、狙いの精度は低い。アレイもそれに合わせて軽く対応してくれている。


「剣の拙さは気にするな。慣れの問題だ」


 アレイはそう言ってくれるが、こんなものでは、エフィエイラにハグ以上のことはできないだろう。それではダメなのだ。

 俺は、暴発ギリギリを狙い、操作する魔力を増やした。少し剣の操作に安定感がでた。

 この調子で一つずつ目標をクリアしていけば、エフィエイラの唇は狙えるだろう。

 何か目標を見失っている気がするが、まあいい。ご褒美は大事だ。頑張ろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る