第5話 二足ミミック

 その一角を例えるなら、ホームセンターのペットコーナーだった。

 透明のケース一つ一つに、大小様々な二足ミミックが入れられている。二足を器用に動かして活発に這いずるものや、飛び跳ねるもの、眠っているのか全く動かないもの等、個性豊かだった。本体である箱の素材や模様も一つ一つ違っているため、選ぶ楽しさがありそうだ。


「イオさん、この一角が引換券対象みたいですよ」


 ロニに教えられた一角を見ると、透明ケースではなく、少し大きなケージがあった。その中ではサイズや動きがまちまちな十匹の二足ミミックが、思い思いに過ごしていた。


「こいつらも成長してサイズや容量が変わるから、最初のスペックは無視して、直感で決めた方がいいぞ」


 なるほど。流石アレイ、役に立つアドバイスだ。


「指入れて噛み付いた子にしよう」


 なるほど。流石エフィエイラ、役に立たないアドバイスだ。だが、採用。

 俺は頷いて、ケージに右手人差し指を差し込んだ。


「ドゥルルルルル」


 エフィエイラが口で適当なドラムロールと光魔法による無駄に凝った演出を行う。そして――がぶりっ。


「じゃあ、この子で」


 噛み付いてきたのは、エフィエイラの二足ミミック位の大きさで、正方形に近い形、白い二足ミミックだった。地味に痛い。

 札を見ると、名前:グリタ、性別:オス、容量:二十と書かれていた。


「じゃあ、おやっさんを呼んでくるな」


 いまだ噛み付かれたままの俺を見て、アレイが代わりに店主を呼びに行ってくれた。てか、いい加減放せ。


「イオさん、大丈夫ですか?」

「まあ、なんとか」


 あ、噛む力が増した。さてはこいつ、主は可愛い子以外認めんってタイプだな。気持ちは分かるぞ。

 だが、噛んだ仕返しだ。その夢は俺が打ち砕いてやろう。絶望するが良い。お前の主は、根暗インドアむっつりスケベだ。ふはははははっ。


「坊主、決めたってな――って、本当にそいつでいいのか? 噛み癖あると大変だぞ?」


 さらに噛む力が増した。だが、まだこの復讐心の方が上なのだ。


「ええ、この子が良いんです。……ヨロシクな、グリタ」


 二足ミミックに視線をやり、俺の本心を込めた挨拶をする。すると俺の指を放し、歯軋りするようなしぐさをした。どうやら俺の気持ちがしっかり伝わったようだ。ご愁傷様。


「ま、まあ、坊主が良いなら良いけどよ」


 そう言うと、ケージの鍵を空け、グリタが外に出された。グリタはすぐさま俺の身体を這い上がり、右肩に乗ると、俺の耳に噛み付いた。この野郎。とりあえず一発はたいておいた。


「グリっち、よろしくね」


 エフィエイラがグリタに指を伸ばした。グリタはもちろん優しく甘噛みをした。ムカついたので、もう一発はたいておいた。


「さて、流石にこんなに早く決めるとは思ってなかったが、必要な一式はもう少しで揃う。付いて来い」


 そういうデビットの後に付いて行き、その後、渡された武器や防具、探索必需品、消耗品の一式をグリタに納め、店を後にした。

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