第4話 武器と防具

 組合支部を出てから、その裏手に回って直ぐにその店はあった。二階建てのなかなか大きなお店だ。


「提携しているだけあって、近くに店があるんですね。それに大きい」

「そうだな。塔や地下迷宮からの持ち出された物は組合が引き取っているって話は聞いたと思うが、引き取りだけでは組合の金が直ぐに尽きてしまうだろ。だから、その中で使えるものや、加工して販売できるものなんかを売って金にしている訳だ。そうしたものは、魔道具アーティファクトと呼ばれている。だからどうしても種類が増えて店が大きくなってしまうようだ。もちろん店では武器や防具等、系統によって分けた陳列がされているから、安心しろ」

「イオさんが今日引き換えできる装備一式も、グレードは低いですが魔道具です。武器と防具、あと、探索必需品や消耗品とそれを入れるための二足ミミックがもらえますよ」

「二足ミミックって何ですか?」

「あれ? 講義で聞きませんでしたか?」

「多分聞いてないと思うんですけど……」


 ワードに聞き覚えもないし、聞き逃しではない筈だ。


「じいちゃん、ついにボケたか」


 エフィエイラが遠い目をしている。


「二足ミミックの話の前にひとつ確認するが、塔と地下迷宮にいる運び屋と護衛モンスターの話は聞いているか?」

「それは覚えています」

「二足ミミックとは、その運び屋を飼いならしたものなんだ。運び屋は複数の足をもつ宝箱型のモンスターだ。そういう姿のモンスターは、幾つかの異世界で共通の呼ばれ方をしていて、それがミミックだ。イオの世界ではどうだ?」

「はい、実際にはいませんが、物語に登場するものはそう呼ばれているので、何となくイメージが尽きます」

「それなら話は早そうだな。一番弱いミミックで足が四本、強くなるにつれその本数は。四、六、八と増える。十足以上はまだ確認されていない。強さと中身の価値も、足の数に比例している。そして、四足ミミックの足を全て切り落とし弱体化させ、その後に色々な処理をすると、従順な二足ミミックが誕生するんだ。見た目以上の収納力があるので、探索の必需品だ。ちなみに、賢い動物程度の知性もあるから、俺達の言葉も理解するぞ。賢いミミックなんかだと、片言だが会話もするそうだ」


 ふむふむ。探索の必需品兼ペットって所だろうか。言葉を理解するとはすごいな。野生のミミックもそうなのかな?

 あ、そういえば――


「昨日も今日も見ていませんが、三人は二足ミミックは持っていないんですか?」


「いや、全員持っているぞ」


 ほら、とアレイは手の甲を見せた。何もないように見えるが……。


「この赤い指輪がそうなんだ。容量が小さいが携帯に便利でな」


 よく見ると宝箱みたいな形だ。なるほど、輪の部分が足なのか。ロニの指にも目を向けると同じような形の指輪がある。こちらは金色だ。


「エフィエイラさんのはどんなやつなんですか?」


 エフィエイラに尋ねると、ローブを広げて、右太もも辺りを指差した。


「これ」


 なるほど、絹のように白いすらっとした太ももに、拳銃のホルスターサイズの青に白い装飾がされた箱がある。知性あるケダモノがこの太ももに抱きついているかと思うと、羨ま、いや、けしからん。代われ。


「エフィさんのは、僕らのより容量が多いんです」


 なるほど、色々なタイプがあるのか。面白い。


「さて、説明が済んだ所で、そろそろ店に入るか。後の説明は、都度行おう」

「はい」


 そんな会話をしながら、提携店である、初めの目的地である組合直営の武具総合店の中に入った。



 □



 見渡した店内は所狭しと物が置かれているような印象を受けた。一応武器や防具、それ以外等大まかに分かれているようだが、物が多くて乱雑だ。在庫確認はちゃんとできているのだろうか。

 人がすれ違えるギリギリの通路では、大剣を軽く振って具合を確かめている犬顔の剣士や、弓を背中に担いでいる皮鎧の女性、フード付きコートで目の辺りを隠した魔法使い風の男などで賑わっていた。


「らっしゃい!!」


 奥から野太い声が響いてきた。声の主が見えないが、いったいどうやって俺達の来店に気付いたのか。この店員は只者ではなさそうだ。きっと、筋肉隆々のハゲ店員に違いない。


「ところでイオは武器は扱えるか?」


 まだ見ぬ店員の姿を想像していると、横からアレイが聞いてきた。


「いいえ、俺の国では、武器を使える人は殆どいないんです」


「そうか。平和な所から来たんだな。まあ体付きからそうじゃないかと思ってはいたが……重い武器は止めておいた方が無難か……」


 まあ、巨大なバスターソードを振り回すとか憧れはあるが、実際は持ち上げる事すらできない気がする。貧弱もやしっ子だしな。伊達にコンパスの針みたいと呼ばれた過去を持っていない。


「ショートソードとかどうですか?」


「ナイフ。毒々しいやつ」


 ロニの案はともかく、エフィエイラの案は後半が余計だ。まず間違いなく自分を傷付けて苦しむ事になるだろう。自分不器用ですから。


「おっ、アレイじゃないか。久しぶりだな」


 咲ほどの声の主と思われるヒゲモジャマッチョがアレイに声をかけた。もちろんハゲだ。パーフェクトだ。


「おやっさん、久しぶり。今日は塔人登録したばかりのこいつの装備一式を引き換えに来たんだ。イオ、この人はこの店の店主のデビットさんだ。引換券を渡してくれ」


 アレイに背中を押されて店主の前に出る。


「はじめまして、イズミサワイオです。よろしくお願いします。あとこれ、引換券です」


「この店の店主をしているデビットだ。よろしくな、坊主」


 坊主呼びとはツボを押さえた店主だ。頭も輝いているし、高評価だ。


「さて、体付きを見るに戦ったことが無さそうな坊主だが、まず確認しておきたい。坊主の目的は何だ?」


 目的か……やっぱり地球を救うことだろうな。


「故郷を救うことですね」

「他人任せで何とかなるかもしれないぜ。戦闘経験がないんだ、おとなしく待ってれば死なずにすむぞ?」


 そうだよな。死ぬこともあるんだよな。一般的な十七歳の高校生に大した事はできないだろう。生き残る事だけでも大変なはずだ。でも……。


「それで何とかなれば一番良いんでしょうが、故郷には家族がいます。父、母、妹……それに友達や知り合いも。何もせずただ待っていて結局故郷が滅んでしまったら、絶対後悔します」

「ふむ」

「だから、今はまだ流されたままですが、まずはできる事からやっていきます。その内判断できるようになったら、その時にまた考え直します。それに、せっかく良い縁があったのに初めからそれを投げ捨てるなんて、勿体無くてできません」

「なるほどな。それなら少し良い物出してやるよ。使う気がないやつにそんな物を渡すのは勿体無いが、坊主ならまあ良いだろう。それに、アレイ達と一緒に行動するんだろ?」

「ああ、とりあえず独り立ちできる力をつけるまでは、イオは俺らの仲間に入れて面倒を見る」

「それなら武器は剣で決まりだな。『三刃』のパーティーに入るんだ。それ以外の選択肢はないだろ。そうなると提案は二択だ。一つは、お前たちの誰かと同じ武器にして専属で教わる。もう一つは、お前達の剣の中間のタイプの物を持って、三人から一通り技を教わる。俺としては、前者をお勧めするが、どうだアレイ?」


「そうだな。イオの適正が分からないから、とりあえず後者にする。暫く、俺達がローテーションで戦い方を教えよう」


 アレイは一旦言葉を切ると、俺を見た。


「それでいいか、イオ?」

「はい。それでお願いします」

「よし。それじゃあ、おやっさん、その方向で頼む」

「ショートソードでどうだ? アレイがバスタードソード、ロニクスがシミター、エフィエイラがレイピアだったろ。形は違うが、それは仕方ないとして、体捌きとかの基礎を教わる位なら調度良いだろ。もっと深い技を教わる段階になったら、その時は武器も新潮すれば良い。また店に来い」


 俺は頷いた。


「次は防具だが、これは皮鎧でいいだろ? アレイ達が鍛えたらすぐに体付きが変わっちまうだろうし、調整幅の多いものにしておく。あとは、二足ミミックだが、これは自分で選べ。店の奥の一角にコーナーがある。選んだらまた声を掛けろ。それまでに他の物は用意しておく」


 そう言ってデビットは店内のある方向を指差してから、その場を離れていった。俺達は示された方に向かった。

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