第1章

第1話 始まりの日、出会い

 気が付くと俺は洞窟の中に立ち尽くしていた。

 もちろん、こんな洞窟に覚えなどない。

 夢でも見ているのだろうか。

 頬を抓ってみた。……うん、痛い。


 痛いなら現実か? 何がどうなっているのか。摩訶不思議だ。アドベンチャーだ。いや、何を考えてるんだ?

 冷静に考えようとしても、その実、絶賛大混乱。ただの高校生に受け止められるものではない。キャパオーバーだ。

 俺は根暗なインドア系だ。テンション高く、洞窟だウェーイ!! とか、大冒険の始まりだフー!! とかできないのだ。ガラではないのだ。

 落ち着け俺、直前の事を思い出そう。確か今日はいつも通り学校に行った。間違いない。それで部活やって下校。これも間違いない。

 帰宅して……ないな。その前に何かあった気がする。


 ――ああ、そうだ、途中で見えない何かにぶつかったんだ。そうだそうだ。それで、大きな口が――。


 あれ? 俺、食べられてなかったっけ? パクッとされてなかったっけ? もしかして、ここ、何かの腹の中じゃね? もしかして絶賛消化中?

 消化液が押し寄せてくる? それともハチャメチャ? まてまて、またおかしくなってきているぞ、おちつけ。


 ……ああ、ホントどうしたらいいんだろう。


 俺は、その場に座り込んで、膝を抱えた。思考がうまく働かない。

 何とかこの状況を理解しようとしたけど、無理だ。疲れてしまった。


 ……家に帰りたい。



 □



「――るよ」

「迷い――」

「――ぶですかね」


 ん? 寝ていたのか?

 こんな状況で寝るとは、自分に呆れてしまうな……。


「大丈夫か? 意識はあるか?」

「うわっ!!」


 声と共に、急に肩を叩かれ、俺の身体は跳ね上がった。顔を向けると、青年が肩に手を置いていた。その後ろには少年と少女が一人ずついる。ぼんやりとその三人を見る。


 青年は、がっしりした体つきで、軽鎧を着込んでいる。短めの金髪が爽やかだ。イケメンだ。まさにファンタジー。

 少年は、軽いクセのある茶髪に、気弱そうな顔をしている。女の子にも見えなくもないが、多分男の子。暫定男の子。まさにファンタスティック。

 少女は、ぶかぶかの黒いローブを着ている。背は一番小さい。150センチくらいだろうか。白い肌に黒髪ショート。可愛い。眠そうな目がまた良い。まさにファンタスティックファンタジー。


「俺の名前はアレイ・オーディ。言葉は分かるか?」

 軽鎧の青年が、まっすぐ俺の目を見ながら尋ねた。


 顔も良けりゃ、声も良い。

 さて、内心の変なテンションはそろそろ落ち着かせよう。


「はい。分かります」

「よし。ここへはどうやって来た?」

「すみません。よく分からないんです。見えない何かに食べられたような気がするのですが、それも不確かで……気付いたらここにいました」


 俺のその答えにアレイさんは頷いた。


「そうか。どうやらお前は惑星喰いに飲まれたようだな」

「惑星喰い……ですか?」


 その単語を反芻すると、得体の知れない恐怖が膨らんできた。

 その表情を見たアレイさんは、僕を安心させるかのように、表情を柔らかくした。


「心配するな。同じ境遇のやつは多い。支援する環境も整っている」

「ほ、本当ですか!?」

「ああ。……ただ、元いた所に戻るのは簡単ではない。また、戻る以外にも問題がある。時間がかかると思っていてくれ」


 申し訳なさそうな表情をしている。本当に難しいのだろう。


「そう……ですか……」


 自然と視線が下を向いてしまう。


「元気出して下さい。きっと帰れますよ。僕らもお手伝いしますから」


 再び落ち込む俺を見かねて、暫定男の子も前に出てきた。


「ロニは良い子」


 黒髪の女の子も近づいてきた。俺に飲み物を差し出し、もう片方の手で、ロニと呼ばれた暫定男の子の頭を撫で始めた。サラサラの金髪が揺れる。


「や、やめて下さいよ、エフィエイラさん」


 見ているだけで温かい気持ちになる。

 そして、渡された飲み物がとてもまずい。まずいなんてもんじゃない。吐きそうだ。


「ねぇ、名前は何?」

「は、はい。泉沢伊緒です」

「泉沢、伊緒……ね。私はエフィエイラ」

「よ、よろしくお願いします」


 続けて、エフィエイラちゃんがすっと人差し指を立てた。


「提案がある」

「な、何でしょう?」


 皆の視線が集まる中、彼女は自信に満ちた表情を浮かべている。いわゆる、ドヤ顔だ。


 彼女は、勿体つけるように、少しだけ間を置いた。立てた人差し指をぴっと俺に向けた。


「イオと呼ぼう」


 ……ドヤ顔する程でもなかったな。


「ああ、言いやすくていいな。さすがエフィだ。よろしくな、イオ」

「あの、僕もイオさんとお呼びしてもいいですか?」


 照れた顔のロニに聞かれて、否と言う男は男じゃない。


「もちろんです」

「ありがとうございます。あ、僕はロニクスです。気軽にロニって呼んでくださいね。よろしくお願いします」


 差し出された手を握った。柔らかかった。ドキドキした。惚れてまうやろ。


「さて、自己紹介はこれ位にして、一回ここを出るぞ」

「そうですね。イオさんがいますもんね」

「ああ。それに、塔の調査で来たが、やはり更新済みだった。早目に報告もしておこう」


 三人は、来た道に足を向けた。俺もその後に続こうと足を踏み出した。

 内心ではふざけまくったけど、実際は不安だらけだ。

 どうか、この一歩が、帰り道に向かっていますように。

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