最後に君に愛の言葉を
天野時雨
最後に君に愛の言葉を
僕は今、病院にいる。ひんやりした空気が肌に触れる感覚がする。そして僕、吉岡拓也はある人の病室に向かっていた。そこに着くとドアに向かい、ノックを三回した。
「はーい」
綺麗な声が病室内から聞こえた。ドアを開けると、そこには黒髪ストレートで肌白の女の子がベッドの上に座っていた。彼女は僕に気づくとニコリと微笑んでくれた。彼女は長瀬美典。生まれつき心臓が悪く、先月状態が悪くなり、今はこの病院に入院している。そして僕の恋人だ。
「元気そうでよかった。はいこれ」
僕は手に持ってるりんごが入った袋を机に置いた。
「あ!りんごだ~!ありがと!」
そこから僕たちは他愛無い話をした。そして時間はあっという間に過ぎていった。
「長く話しちゃったな」
「うん。来てくれてありがと!」
ニコッと彼女は微笑んだ。
「じゃあ。また明日」
僕は美典の頬にキスをし、病室を去った。
***
翌日、僕は彼女のいる病室へ向かった。しかし、彼女の病室の前に来ると、ドアには「面会謝絶」と書かれた札がかかっていた。
嘘だろ…
その札を見て全身が凍りついた。やがて足に力が入らなくなり、その場に膝をついた。
そんな…
するとこちらに一人の医者が向かってきた。
あれは、美典を担当していた…
僕は医者のもとに走った。
「僕は美典の恋人です。美典に合わせてください!」
「いくら恋人でもそれはできません」
医者に断られた。でも—
「お願いします」
僕は頭を深く下げた。
「仕方ないですね。5分だけですよ」
「ありがとうございます」
僕はドアの前に向き直った。そして三回ノックをした。
病室内からは違う医者の声がした。そして僕はドアを開けた。
美典…
そこにはベッドに横たわる今にも死にそうな美典がいた。
「美典!」
僕は美典のもとに向かい、手を握った。
冷たい
美典の手は以前よりも白く冷たかった。
「拓也くん…」
今にも消えそうな声だった。
「大丈夫だ!美典なら大丈夫だ!」
「ねぇ…最後に、今までありがとう…」
その言葉に僕は深い絶望感に苛まれた。
「なに最後なんて言ってんだ!これからもずっとお前のそばにいる」
そうだこれが、この5分が最後になんて—
「ありがとうが聞きたいよ…」
美典はそう言った。けど—
「ありがとうは言わない。だって、言ったら生きるの諦めるだろ」
「え—」
「それに、もっと美典と居たいし、もっと触れたい、ご飯食べたりデートしたい。もっと君を呼んだり温もりを感じたい。だから—生きろ」
僕は泣きながら美典にそう言い、手を握った。そこには確かな温もりがあった。
「時間です」
医者にそう言われ、僕は病院を去った。
三日後、美典は息を引き取った。
***
美典が死んでから、この世界は色を無くした。僕はこの世界でどう生きればいいか分からない。けど、進まなきゃいけない。そう思い、僕はこの世界で生きていく。
最後に君に愛の言葉を 天野時雨 @shigule1220
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