邪竜デスラの器 2

「邪龍神教が探している邪竜デスラの器とは、この私です。」


やっぱりか。今思えば、リアラには龍属性以外にも共通点があった。何故あの話を聞いてから気付かなかったんだ俺!


「五千年前、英雄が恋した女性の名はフェイト 。」

「サクリドラス…。リアラの名前と同じ…。」

「はい、その通りです。そして、私はフェイト様の生まれ変わり、らしいです。」

「らしい?」

「はい。お母様からはそう言われました。」


そう言われただけで本当かどうかの確証はない、という訳か。でも、リアラとそのフェイトっていう人の共通点がかなりある。名前と生まれつき魔力か多いこと、龍属性を持っていて銀髪。そして、邪竜デスラの器であること。これだけの共通点があるのなら生まれ変わりという可能性は高いはず。銀髪は偶然かもしれないが…。


「私の一族は、邪竜の器として必要なものが全て揃っているのです。それと、これを見てください。」

「あぁ、わかっt…って、ちょっと待て!」


何故かリアラは俺の目の前で上の服だけ脱ぎ出した。

目の前で上の服だけ脱ぎ出したのだ。大事な事なので二回言っておく。


「え?ちょっと待って。俺ってリアラとの親密度ってそんなに高かったの?いつからそんなに上がってたの?いつから俺とリアラってそんな関係になってたの?何で——」

「さっきからしんみつどとか意味のわからないことを言っているのですか?それと、もう少し静かにしてもらえませんか?」

「ア、ハイ。スミマセン」


リアラの突然の行動で混乱していた俺に向かって、ムッとした表情でリアラが言ってきたので俺は少ししょぼんとした声で謝った。

いや、混乱した俺も悪いと思うけどその混乱の原因がリアラだからな?


「この背中を見てください。」


俺はリアラの言われた通りに背中を見た。決して前は見てないぞ?

リアラの背中を見ると、まるでどらごんのつばさのような刺青があった。


「何だこれ?趣味か何か?」

「違います!こんなものを趣味だとか言わないでください!」


何故か急にリアラが怒り出した。何だ?趣味って言葉が気に入らなかったのか?って言うかこんなものって言うぐらいだから相当嫌なものなのか?


「これは、邪竜デスラの器として生まれてきた者にしか表れない刻印です!」


なるほど、刺青ではなく刻印だったのか。っていや、そこじゃないだろ俺!

それにしても、邪竜デスラの器の刻印か。この人が邪竜デスラの器だっていう証明みたいなものか。


「その、さっきはすまなかった。」

「はぁ、わかってくれたのならいいですよ。」


リアラにとっては嫌なものだろう。何たってその刻印があるせいで自分は追われる身。もしかしたら、聖職者には邪悪な者として扱われるかもしれない。


「シロウさん、その…怖くありませんか?」

「怖いって…何が?」

「もちろん、私が邪竜デスラの器だということです。」


リアラが自分が怖くないかと聞いてきているが、ハッキリ言うと何故邪竜デスラの器ということだけで怖いんだ?器の存在より邪竜デスラの存在の方が断然怖いだろ。


「何故そんなことを聞く?」

「それは、私が邪竜デスラの器は邪悪な者として聖職者達には扱われているのです。」


あ、もしかしたらが本当にあったんだ。

邪悪な者として扱われているって、どうしてそれがリアラの自分が怖くないかに繋がるのかがわからない。

聖職者以外にも、少なからずそん思う人がいるってことだな。


「俺はリアラのことを怖いなんて思ったことはないな。」

「…その根拠は何ですか?」

「根拠か…。簡単なことだ。リアラは俺のことを助けてくれた。そんな命の恩人に怖いなんて感情持つ訳ないだろ。」


これは本当のことだ。あの時、確かにリアラの魔法には恐怖したが、恐怖心はリアラではなく龍属性の魔法に向いている。


「本当ですか?」

「あぁ、この世界の神に誓って本当だと言おう。」


俺がそう言った瞬間にリアラが俺に抱き着いてきた。


「…………。」

「…………。」


リアラは黙っているが、俺にはわかる。

今、リアラは泣いている。その涙が悲しいものなのか、或いは嬉しい涙なのか。出来れば嬉し泣きであってほしい。泣いているリアラを俺は黙って受け止める。


「本当に…怖くないのなら、私のことを裏切りませんか?」

「あぁ、裏切らないよ。あの話を聞いてから、邪竜デスラの器の人が邪龍神教の手に渡らないように守ると誓ったんだ。そして、邪竜デスラの器はリアラだった。守るべき人を裏切る訳がないだろ?」


そう、俺が言うとリアラは俺の顔を見て言った。


「はい、そうですね。」


安心したのか、リアラの顔は笑っていた。


「やっぱり、笑顔が一番だな。」

「そうですね。」

「……ところでリアラ。一つだけ言いたいことが…。」

「はい、何でしょうか?」

「その…まずは服を着てくれないか?」


そう、リアラは俺に背中の刻印を見せるために服を脱いだ。そして、今の俺の状態は上半身裸の美少女が抱きついている。抱き着きながら話している時に若干リアラの胸が当たっているのだ。それも、直接だ。外から見たらただの変態だ。


「え?…!キャアアアアアア!!!!」

パチィィィン!!

「ぐはぁぁっっ!!」


さっきまでの雰囲気が壊れた瞬間だった。

そして、俺の顔面にリアラのビンタが命中した。今まで受けたビンタの中で一番痛い。

俺が目を離した隙にリアラは急いで上の服を着た。

え?抱き着いてきた時に胸は見えなかったのか、て?

見えたよ。見えたけど都合よく大事なところは髪の毛で隠れてたよこんちくしょう。


「何か変な事考えませんでしたか?」

「イ、イエ。ナニモ。」

「そうですか。」


リアラは器としてではなく女性として怖かった。

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