異世界で初の戦闘


 歩き始めてから二十分くらい経ったのに全然森を抜けられない。それどころか、より森の奥深くに向かっている気がする。


「どんだけこの森広いんだよ……。まさか、今進んでいる道とは真逆の方向に町がある、なんてことはないだろうな……?」


 本当にそうだとしたらどうしようか……。

 これだけ歩いても抜けられないなら、かなり可能性は高いよな?

 かなり不安な気持ちで歩いていると何かを感じた。

 決していい感じではない。むしろその逆、嫌な感じがする。


 ガウゥゥゥ……


 何だ?この異様な寒気は。


「これは……殺気か?」


 そう呟いた瞬間——


「……おいおい、嘘だと言ってくれよ……」


 まるで、狼のような魔物がおよそ20体ほどが俺の周りを取り囲んでいた。


 転移してからすぐでレベルが1の俺が魔物約20体を相手にするのは、いくら創造能力があったとしても勝てる確率はかなり低い。

 だが、今の現状で逃げ切れる可能性も限りなく0に近い。


「やるしかないか……!」


 ——さぁ、異世界に来てからの初めての戦闘だ!


 こうなったら精一杯魔物共から足掻いてやるよ。


「さぁ、来い魔物共!」


 そう言った瞬間、狼達も声に反応したのか、一斉に襲いかかってきた。


「創造!」


 俺の手に一本の一般的な鉄の剣が現れる。初めてスキルを使ったがうまく出来て良かった。

 消費した魔力は10。剣のイメージは一瞬だけしかしていないので、大した耐久力も攻撃力もないだろう。

だが、相手の攻撃を剣で避けることくらいは出来るはずだ。

 そう考えている間に狼は接近して攻撃を仕掛けてきた。


「ぐっ……!!」


 次々と来る攻撃に何とか対処し、何とかほとんどの攻撃を避けれた。

 よし、うまく避けれた。でも、想像以上に相手の力が強い。

 だが、攻撃は直線的なので避けやすい。スタミナが切れない限りは問題ない。

 今の現状で正面から挑むのは危険。ならば、狙い所はカウンターだ。


「創造!」


 魔力を25消費して今の俺で出来る最強の剣を創造する。

 切れ味の良さと耐久力が高くなるようイメージして剣の全てをできるだけ強化する。


「てりゃああああ!!」


 創造した瞬間に相手の内一匹に斬り掛かる。


「キャウンッ!!」


 狼は悲鳴をあげて倒れた。


(よし、まずは1匹!この調子なら……!)


 この狼の体力はそれ程多いという訳でもでもないらしい。


 それから、避けては攻撃の繰り返しで狼の数もかなり減ったが、俺自身のスタミナの消費も激しい。

そろそろ剣の耐久力も減ってきた。刃の部分に少しヒビもある。


「グウゥゥ……ガゥ!!」

「ハァ……ハァ……。後はお前だけだ……!」


 こいつでラスト。これまでかなりダメージを受けてしまった。今どうして俺はまだ戦えているのかが不思議な程だ。いつ倒れてもおかしくない。


「転移して早々に倒れるわけには行かないんだよ……!」


 相手が攻撃を仕掛けてきた。それを俺は剣で受け流した。


 バキッ!!

「……!」


 ついに、最初に創造した剣の刃がが折れた。だが、ここでまた新しく創造している時間はない。

一気に決める……!


「トドメだァァァ!」


 これで決まった……と、思っていたが……。


「うわっ!」


 俺は何故か急にバランスを崩した。自分でも何が起きたかがわからない。ふと足下を見た。

 転けた。足元にあったそこそこ大きい岩に足が引っ掛かり転けた。


(嘘だろ?!こんな時に転けるか普通?!)


 自分の不幸がここで発動するとは……。恨むぞ不幸スキル。

 そして、狼が再度俺に攻撃を仕掛ける。

 何だろう……全てがゆっくりに見える。

 あれ?おかしいな……高速思考は使った覚えがないのに……。

 いや、これは高速思考の効果じゃない。これが走馬灯ってやつか……。ダメだ、体が動かない。


(思ったより短い異世界生活だったなぁ…)


 完全に死んだ、と俺は思った。


 と、次の瞬間……


「ファイアーボール!」

「キャウンッ!!」


 突然女性の声が聞こえたかと思うとあの狼を倒していた。


(た、助かったのか……?)


 緊張の糸が切れたのか、意識が暗転していく。


「……!だ……………ぶ………!?」


 あの女性がなにか喋っているがあまり聞こえない。


(ダメだ、意識が……。せめて、姿だけでも見れたらよかったのに……)


 そんなことを思いつつ、俺は意識を失った。

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