薬剤師と老婆
小言がうるさくて
ねちねちして
鬱陶しくて
聞くに堪えない鼻歌をまき散らし周囲の苛立ちを募らせる、一人の老婆がいた。
いい加減にしろ!
口を閉じろ!
自重しろ!
それらの注意に老婆は聞く耳を持たず、人の心に負を積もらせる。
暑い季節に木陰で休んでいれば
「暇が多くてさぞかし裕福な暮らしなんでしょうね」
と言い。
食事中に
「人の食事に文句をつけるな」
と言い。
あまりの不遜な態度に怒りを現せば
「そこまで言われる覚えはない」
と言う。
当然ながら老婆に信頼などは無く、嫌われ者である。
ある時、そんな意地悪な老婆をどうにかしようと薬剤師が薬を与える。
この薬は人の悪しき心を変える浄化剤だと。
この薬を用いれば老婆も変わるはずだと。
そして薬剤師は薬を老婆に飲ませ、心の浄化を試みる。
すると…
小言がうるさくて
ねちねちして
鬱陶しくて
聞くに堪えない鼻歌をまき散らし周囲の苛立ちを募らせる、いつもの老婆がいた。
これには薬剤師も驚愕し、頭を抱えた。
老婆はそんな薬剤師に呆れの声を漏らす。
「私には悪い心なんて無い。だから浄化もクソも無い。そして晴天の空の様に、私の人生にそんな後ろめたい事は何も無い」
それは自分の行いが、全てが正義だと言わんばかりの口調だった。
薬剤師は当たり前のことを一つ納得した様に呟く。
「あぁ、馬鹿に付ける薬はない」
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