誠意を見せて

娘を誘拐し殺害した容疑者が逮捕された。

父は犯人に叫ぶ

「娘を返せ!」


「…」


「何とか言えーーーっ!!!」

決壊したダムの如く放出される憤怒は父の理性を奪う。


「…やってない」


「ふざけるなーーーっ!!!」

この期に及び罪を認めない犯人に、父は怒鳴る。


叫べど、咆哮せど、発狂せど

犯人から答えもも無い。


父はそれが許せなかった。

普通ならば…

罪を認め

謝罪を述べ

悔い改める、が当たり前の誠意だ。

誠意の無い人間は何者よりも許し難い人種なのだ。

少なくとも父の中ではそうであった。


父は覚悟を決める。

犯人が誠意を見せる、その為に…




数日後。

娘の事故現場の前、野次馬の中。

顔を地面にすり付け、土下座をする犯人がいた。


父が犯人に直談判をし、犯人に承認させたのだ。その罪を。


犯人は罪を晒した。

犯人は涙を流した。

犯人は悔い改めていた。

犯人は…誠意を見せていた。


少なくとも野次馬達はそう感じて、犯人を観続けている。

今後、裁判での判決が控えているがそんな物は些細なことであろう。













「無罪」




「容疑者は無罪だ」




裁判官の口から発せられた判決が、父を含めたその場に入る全員の耳に届く。

予想は裏切られ、どよめきは轟いて、世間は驚愕する。


ではあの犯人の謝罪は?

誠意は?

何だったのか?




さらに




そんな事は知るかと言わんばかりに、父に警察官が集る。

父は有無も言えずに抑えられ、警察は無慈悲に

「お前は『強要罪』の罪で逮捕だ」

とだけ伝え、連行するのだった。


「クソッ!何故だ何故こうなった!!」

あの時の様に父は咆える。

隣にいた警察官が問う。

「むしろこちらが聞きたい。どうしてだ?


どうしてに対して、そこまでするんだ?」


父は警察に向き直る。

「そんなの決まってる。




誠意を見せないのが気にいらない




それだけだ」

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