きのこばばあ

あるところに木のがいた。

立派になりたくて、たくさんの水を吸い取る。

大きくなりたくて、さまざまな水を吸い取る。


甘い水、辛い水、酸っぱい水、苦い水、とにかくたくさんの水。

色んな水を吸い取って、吟味する。




「これだ!」

木の娘が選んだ。

美味びみだ!」

厳選した好みの水。




立派になりたくて、好みの水をたくさん吸い取る。

大きくなりたくて、好みの水を選んで吸い取る。


甘い水、辛い水、酸っぱい水、苦い水、これらはいらない水。

好きな水を吸い取って、法悦に浸る。




悦に浸り、浸り、浸り、浸り。

けれども体は細り。

気づけば木の娘は老け、気づく頃には腐りかけ。


それは溜めたままのバケツの水。

それは風邪の通らない地下の部屋。

凝り固まった好みが産んだ、不浄の根と価値観の枝。




あるところに木の娘がいた。

立派になろうとして、たくさんの水を含んで吐いた。

大きくなろうとして、淀んだ水しかすすらなかった。




しばらくして…




枯れ行く木にカビ臭いばばあが生える。

これは木に付いて一生離れないカビであり

思い出という名のキノコでもある。

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