ヤンデレと墓

這いつくばる男の前に拳銃を握りしめた女が立っていた。

拳銃に込めた想いを装填、男に向け引き金を引き、女は回想する。




・・・学校はおろか家族とも相いれなかった。


「好き」


弾が弾ける。


・・・私の居場所は何処にも無いと疑わなかった。


「好き」


炸裂音が反響する。


・・・だけれど、あなたは私に手を伸ばした。


「好き」


鮮血が飛び散る。


・・・あなたは私と相容れることができた。


「好き」


硝煙の匂いが漂う。


・・・だから今度は私の


「好き」


赤い赤い水溜りができる。


・・・愛を、受け、入れて。




女は銃口を男の頭に当てる。

か細い呼吸をし、虚ろな瞳で見つめる男を愛しみながら。

そして拳銃に残る最後の想いを放とうとする。


「好










             「俺も好きだ!」







女の人差し指が止まる。

男は魂から叫び続ける。


「俺もお前が好きだ!」

「…こんな言葉を知ってるかい?『結婚は人生の墓場』という言葉だ」

「もし、結婚が本当に墓場だって言うなら、もしも、一緒に死んで逝きたい人がいるって言うなら」

「そんな人・・・俺には、君しかいない」

「………だから、俺と同じ墓に入ってくれ」


「愛してる」


女の頬に涙が伝う。

「嬉しい」


「私も愛してる」


最後の弾丸が男の脳を殺す。




女は男の頭を抱え、椅子の上に立っていた。

首から下は切り落としてしまったので、女でも軽々と持ちあげられた。

目の前には縄の輪があり、後は首をかけて降りるだけ。


「私も今から一緒に、眠るからね」

女は首輪をかけ飛び降りる。


呼吸は不可能となり止まっていく血の代わりに、流れ行く苦しみがゆっくりゆっくりと体に回っていく。

ゆっくり・・・ゆっくりと・・・苦しみ・・・


・・・・・・・・・・・・それが恐怖になって行く。


女は暴れ出す。

恐怖が思考を支配し、思わず男の頭を手放し、首の縄を引っ掻き、足は空を漕ぎ出し、口からは泡が吹きだし、そして・・・







落ちた。

意識では無く体が落ちた。

は失敗した。

我に返り女は悔やんだ。

しかし、まだ諦めなかった。


その後も女は何度も結婚式を繰り返す。

今度は高い所から、今度は電車のホームから、今度は水を溜めた風呂から。

何処からでも何からでも女は試みてたが、全ての婚約を破棄してしまった。







破棄してしまったのだ。







・・・私は自分が如何に嘘つきで、卑怯で、惨めな生き物であったかを知った。


「愛していた」


それから女は不甲斐なさに心を殺され、生ける亡者となった。

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