二本目 灯油の匂いがクセになる

今日もまた、こうして私は暗闇の中で紅い火を灯した白棒をくわえて白煙を踊らせているわけなのであるが...いや...毎日踊らせているわけでは無い。たまにだ。たまに。

...つまり、月が満月になるように不定期にと云うことだ。

ふと、山の向こうへと目を向ける。

今でもあの山の向こうでは名も顔も知らぬ誰かが、懸命に働き祈り命を燃やしているのかと思うと実に...まあ...なんというか..申し訳ないと云うか..情けないというか?

と、私がいくら思考した所で世界からは戦争は無くならないし環境問題だって解決することはないのだ。

...大袈裟だって?

...まあ、確かに。

と、まあ..そんなこんなで、指に灯りの熱が伝わるほど白煙を踊らせ続けていたのだが...

私は前回と同じように火が揺れる白棒をベランダ柵にグリグリと押し当て、網戸を閉める。

部屋の中を振り返ると、足下に季節外れのファンヒーターが狭い部屋にデカい態度で佇んでいた。

いや..まあ、片付けていなかった私が悪いのだが...

そう云えばと思い、ファンヒーターから灯油入れを取り出し小さく左右に振る。すると、中に入っていた灯油が揺れる音が聞こえた。

灯油入れのキャップを開けて入口に鼻を寄せて匂いを嗅ぐ。

悪くない。いい匂いと云うより

"クセになる"

匂いだ。

だが、先程の白棒にはやや劣る。

煙は踊るが油は踊らない。

どちらも火を灯すことが出来るが...

世界を回すには幾分にも満たない。

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Light Cigarette 樋之上 恋 @hinokami

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