第29話 経験は必要なのか?

 俺はバイクにまたがり右足でキックを勢いよく踏み下ろした。

 ガロンと大きな音を立ててマフラーがビリビリと震える。

 シングルシリンダーの振動が小刻みに車体を揺らす。

 オレはセパレートのハンドルをきつく握り締め、つま先でギアを踏んだ。

 出発だ。ライブ会場が俺を待っている。

 スタンドを上げ、アクセルを踏み込む。

 ウオンと唸るエンジンの音を聞きながら、俺はハンドルを切り、ヘアピンカーブの途中でフロントブレーキを握った。



 *    *    *


 何だかんだで月の半ば連載のはずのこのエッセイが月末になり、毎月更新するよと言っておきながら一か月ポッカリと開いてしまいそうな勢いのえーきちです。

 外は寒いです。皆さまいかがお過ごしでしょうか?

 まだ十月終わりだと言うのに、私は寒くてたまりません。

 と言いながら、ライブに行ってしまいました。

 もう二十年近く乗っているバイクで。

 やー、真冬装備で行ったからよかったものの、やっぱりバイクは寒いですねー。

 今年はコロナのせいでライブに行けず、フラストレーションたまりまくりです。

 おまけに実はバイクにも乗っていませんでした。

 本当にヤバイくらい乗っていません。コロナ騒動が始まったころに乗った以来、二度目です。

 世の中が『出かけるな』って圧が強くて、バイクにも乗れなかったんですね。なんて、そんなのは言い訳ですけど。

 でも、バイクで事故を起こしたら病室のベッドが無駄に埋まってしまう訳で、やっぱりバイクで出かけるのも自粛しろみたいな雰囲気があったんですよ。

 最近はそうでもなくなってきましたけど。

 で、何が言いたいかと言うと、皆さまは冒頭のバイクのシーンを読まれたでしょうか?

 読んでなかったら、短いですのでもう一度読み返してみてください。


 この文章はハッキリ言って、間違いです。


 ちょっとそれっぽく書いてみましたが、実際にバイクに乗っている人が読めば、「何だ、デタラメ書きやがって」となります。

 さて、どこがデタラメでしょうか?

 バイクに乗った事がない方のために説明しますと、バイクのスタンドを上げる前にギアを入れています。これだと、ギアを入れた瞬間エンジンが止まります。

 古いバイクはこの機能はないのですが、最近のバイクはバイクスタンドの上げ忘れ防止のためにこうなっています。

 他にも、アクセルは右ハンドルです。アクセルを開ける、または捻るとは書いても踏み込むとは書きません。アクセルを踏み込むのは車です。

 最後に、ヘアピンカーブの途中でハンドルを切ったりフロントブレーキをかける事は相当危険です。下手したら死にます。

 バイクで曲がるときはハンドルを切ると言うよりも、バイクを傾けて曲がります。ハンドルは少ししか動かしません。また、カーブの途中で前輪のブレーキをかけると傾けている車体が立ち上がってしまってバイクが横に転がる危険があります。

 スリップするなんて可愛いものです。横にバイクが転がったらバイクの下敷きになりますからね。

 と、まあ、バイクに乗った事のない人にはまったくわからない事を書いた訳ですが、こういった細かい所はやっぱり経験した事がない作家さんには書けないんじゃないかなと思います。


 いつだったか、Twitterにて『経験した事がないことは書けない』みたいなハッシュタグがついて、たくさんのつぶやきがありました。

 否定派が殆どでしたけど。

 確かに自作で言ったら私も、九尾の狐なんて見た事ありませんし、しゃべるペンギンも知りません。七不思議にだってあった事はないですし、缶の宇宙人に遭遇した経験もありません。

 皆さんそう呟いていました。

 異世界になんて行った事はないし、人を殺した事だってない。襲いもしなければ、剣だって振り回さず、銃だってぶっ放さない。

 けど、小説は書ける、と。


 それ、書けてますか、本当に?


 たくさん調べて、わかったつもりになってるだけじゃないですか?


 や、これはファンタジーを書いている作家様を否定している訳ではないんです。私だって書いていますし。

 自分の知らない事は一生懸命調べます。みんな、そうやって書いていると思います。

 けど、経験できたらそれがすべてだと思いませんか?

 行けるのなら異世界に行った方がいいですし、人を殺すのは犯罪だからダメですけど、経験した人に自分の想像力が勝るとは思えません。


 経験できる事があるならやった方がいい。


 最近、若い作家様もカクヨムにたくさんいますね。

 高校生や中学生、中には小学生もいるようです。

 彼、彼女らは、会社で働いた事がありません。なので、想像だけで会社の事を書かなければいけません。調べるのもいいでしょう。親に聞くことだってアリです。

 でも働けば、その描写はよりリアルなものになると思います。

 若いうちから書いている人は凄い事だと思います。しかし、より視野を広げるために、色々な事を経験してみてはどうでしょうか?


 特に若い作家様。

 世の中には想像を超える世界が待っています。

 間違いなく表現の幅が広がるはずです。 

 日本一高い山に登ってみたり、バイトをしてみたり、バイクや車に乗ってみたり(タンデムもあり)、剣を振り回してみよう、銃を撃ってみよう、スクランブル交差点に行ってみよう、コスプレしてみよう、他にもスポーツ全般、ロックのライブに行ったり、クラシックのコンサートに行ったり、自分で楽器を弾いてみたり。

 やろうと思えばかなりの事ができます。

 経験できないのなら『第13話 プロフェッショナルなアマチュア』で書いたように、その手のプロに取材するのもお勧めします。

 経験は必要です。

 なくても書けるかもしれませんが、


 ファンタジーとかで指を切り落とされて「ウワー!」ってなっているヤツ、あれもちょっと考えられません。

 実際は「アツッ」って言うくらいの小さな痛みと衝撃が瞬間にくる程度です。その後の痛みは半端じゃないですけど。

 その痛みよりも、指を失った恐怖の方が大きい。

 絶対に元に戻らない自分の今まであった体の一部がなくなっている現実。

 みなさんは本当に想像できますか?

 これは、あくまで私の経験ですけどね。

 その痛みや恐怖も人それぞれでしょうけど。



 *    *    *


 何とかギリギリ、十月末の投稿に間に合いました。

 九月以降、水面下で公募作品の校正とずっとやっていたので。

 先月のエッセイにて、「『芦中イラスト文芸部 ものくろ!』、『神小セブンワンダーズ』、『望月多衣は餅つきたい』を非公開にします」と書きましたが、『芦中イラスト文芸部 ものくろ!』はもうしばらく公開したままにします。

 そう、間に合いませんでした。

 しかし、今後、長編に関しては非公開にしていくと思いますので、もしよろしかったらこの機会に気になる作品は読んでみてください。(と、宣伝をぶっ込んでみた)

『ようこそ、街の印刷屋さんへ! 教えて、革ジャン先輩!』は長編ですが残します。これは正に、カクヨムユーザーすべての中で、私にしか書けない作品ですね。

 もしかしたら、ひょんな事から連載を再開するかもしれませんし。

 印刷も、年々進化してるのです。

 

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