第16話 えーきちは文明の利器を手に入れた
暗く暗く、複雑に入り組んだ洞窟の中を、手にした松明の朧気な灯りだけを頼りに、一歩、また一歩、確かめるように足を進める。
ゴツゴツと、まるで触れるもの総てを傷つけるように飛び出した黒い岩肌が、どこからともなく滲み出した水を帯びて怪しく光り輝き、えーきちの心の底に眠る恐怖心を煽り足を竦ませる。
体全体に冷たく凍りつくような寒気が襲う中、前方の低い位置に突き出した松明の炎が手元だけを僅かに温める。
踊り揺らめく炎の僅かな音と、胸を大きく動かす自分の呼吸だけが、狭く圧迫された空間に驚くほど大きく響く。いや、響いているように思えるだけだ。少ない情報を逃すまいと、神経を研ぎ澄ましている結果だ。
肉体の疲労に加えて、心の疲労も著しい。この張り詰めたような緊張感もそう長くは続かない。洞窟に足を踏み入れてからずっと、このテンションを保ち続けている。
ひと際狭くなった洞窟で、えーきちは腰を屈め行く手を遮るように突出した岩肌に手をかける。頭を下げ、体を捻り、潜り込むように岩の割れ目に体を滑り込ませた先。松明のオレンジ色が揺らめく少しばかり開けたその場所で、ついに見つけた。
えーきちは文明の利器を手に入れた。
* * *
今さらですが、スマホにしました。
日本最後のガラケーユーザーを目論んでいたのですが、家族の執拗な反対に心が折れ、ついにスマホワールドへと足を踏み入れてしまった次第です。
や、いいね、スマホ。
まだ使いこなせていないけど。
ついに人間はここまで来たかって感じです。
そうあれはバキュン年前、私が高校生のころでした。
ちょっと情報的に年がバレそうなのでボカしますが、そこは深く追求しないでください。PCの歴史なんて調べちゃ駄目よ。
私は普通科工業科併設の高等学校の電気科出身です。
当時、電算室には記録媒体として紙テープを使う大きな電算機他、一クラス分のPCが置かれていました。某電気会社のPCです。(個人ユーザーを対象にしていないので、知る人ぞ知るPCです)
正式名称はここに記しませんが、みんなは『アホ800』と呼んでいました。
当時のCPUはZ80(8bit)から8086(16bit)に移り変わったくらいの時代です。OSはWindowsの前身、MS-DOSの頃。
私たち高校の文化祭でPCとPCを繋いで対戦型のオセロがプレイ出来ました。
その通信対戦が、それはもう酷いものでした。
こちらが石を引っくり返すと、相手の画面に映し出されているオセロ盤の石も引っくり返る訳ですが、それまでに数分かかったのです。
向かい合わせて置かれた二台のPCです。もはやそんなのはオセロじゃない。PCでやる必要性を感じない。今すぐオセロ盤を持ってこいって感じです。
たったバキュン年前で、そんな感じだったんです。
はい、現在学生のカクヨムユーザーの方々は生まれていませんけど。
私は高校生だったんですよ。そんな時代に。
あ、駄目。年を逆算しないで。
ああ、技術って進歩したね。
車はまだ空を飛ばないけれども。
ド〇えもんもタイムマシンもないけれども。
その時代を生きた私から見る、この手に収まる程度の小さな箱が、『アホ800』を遥かに凌駕しているのです。や、比べるのも甚だしい。アリと象――イヤ、ゾウリムシと象くらいの差が……自分でもよくわからんわ!
その時代からPCを使いまくって、PCのヘビーユーザーである私。
家に帰れば暗い部屋でPCにへばりつく毎日。休みの日とあれば、朝から晩まで、寝るその瞬間までディスプレイの光を浴びている訳です。
だから、スマホなんていらない。なんて、言ってました。
実際、通勤電車でスマホなんて使わない。私は寝る。とも言ってました。
私は睡眠時間がとても少ないのです。
通勤時間と会社の昼休みに寝ないと、本当にヤバいレベルで。
横になって五分以内に寝るのは気絶しているらしいですよ。と、会社の後輩が言っていました。それが本当なら、私は毎日気絶しています。電車でも気絶しています。
昨晩は執筆作業しながら椅子で気絶していました。もちろんいつ寝たかなんて覚えていません。気絶ですから。
歳を取るにつれ、どんどん睡眠時間が短くなっています。現在は四時間から四時間半くらい。休みの日も同じ。万年睡眠不足です。
電車と昼休みの睡眠がどれだけ大切かわかっていただけたでしょうか?
それなのに……
文明の利器を手に入れた私は、さらに睡眠時間が短くなってしまいました。
朝の電車は寝ます。絶対に寝ます。何があっても寝ます。
電車に乗って椅子に座って、電車が発車する前に気絶しています。
昼も、気持ち的には寝ます。仕事的に必ず寝れる訳ではありませんが。
そして、帰りの電車は……ウェ~イ、ヨムヨムタイムだ!
アホでスイマセン。
最近、カクヨム内のヨムヨム量が増えたのはそんな理由です。
楽しいです。電車で読むカクヨム。それで、家では書く。
まさに、理想的カクヨムスタイルです。
ただ、まだ使い慣れてないのですよ。
何てったって、文明の利器ですからね。頭の中がPC脳なのでスマホを使いこなすのに時間がかかるのですよ。
私がLINEをしている所を下の娘が見ていたのですが、言われてしまいました。
「パパ、LINE遅ッ!」って。
大きなお世話です。キーボードがないと早く文字が打てないんです。
電車で対面に座り眠るお姉さんのように、夢の中でLINEを操作する指の動きなんて出来ません。そこまでになるには、血の滲むような修業が必要です。ローマは一日にして成らず、です。
そして、文明の利器を手に入れた私が次に目指す先は……
何、しようかな? 何が出来るかな? 呟いちゃう? Twitter、やっちゃう?
なんて、思ったり思わなかったり。(どっちだ!?)
や、正直な話、SNS放置プレイ主義の私ですが、Twitterは必要だと思うのですよ。まぁ、意見は人それぞれでしょうけど、便利な道具があるのに自作の宣伝に使わないのはもったいないなぁって。呟かないTwitterなんて効果が薄いかもしれないけれども、たとえひとりでも読んでくれる人が増えるなら、そこはやるべきじゃないかなぁ、と。私個人の意見なので、反対意見があっても否定しませんけど。
さて、私がこの文明の利器を使いこなせるようになるのは、いったいいつの日だろうか? そしてTwitterをやっちゃうのは、いつだろうか?
時代遅れの新参者が飛び込んできても、イジメないでくださいね。
夜な夜な枕を涙で濡らす事になるので。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます