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 雪の所為もあったが、僕達、特にカミコ先輩は頭を冷やす必要があるとソヨギ先輩に云われ、冬季の廃墟探索は一切不可となっていた。廃墟狂いのマヤさんはぶうぶうと頬を膨らませていたが、ソヨギ先輩とリョウ先輩が同行しない以上、彼女の恋人の許しが出ず、恋人にぞっこん(死語か?)であるマヤさんには従う以外の選択肢が無かった。

「サイトウは何で俺の事だけ苗字呼びなの」

 二度目のミーティングの時、唐突にソヨギ先輩が云った。気付けば「君」が外れていて、慣れ親しんだ感じに実はこっそりと嬉しさを感じていた。

「え……あー……何となく……?」

 僕としては苗字で呼ぶ事がデフォルトなのだが、マヤさんとリョウ先輩については、ソヨギ先輩が名前で呼んでいた為、僕もつられて名前で呼んでいた。そこに深い意味も理由も無く、訊かれて少し困ってしまう。

「仲間外れで寂しいのね!」

 にやにやとしてマヤさんが茶々を入れると、うるせえっとソヨギ先輩は彼女の後頭部を叩いた。

「痛いっ暴力反対!」

「女性に手を上げるなよ」

「男女平等!」

 今日もミーティングは賑やかだ。

「えっと……じゃあ、シュン先輩……?」

「タカシ」

 名前で呼び返されて、何故かどきりとした。

「タカシ君照れてる」

 かわいー、とマヤさんが笑う。シュン先輩までにやにやしていた。

「あんまり虐めてやるなよ。可哀想だろ」

 リョウ先輩の優しさに全僕が泣いた。

「カミコさんの事も名前で呼べよ」

 ついでだし、とシュン先輩が云う。どういうついでだ。

「いや、それは、ちょっと……」

 恥ずかしい、恐れ多い。

「嫌なの?」

 その声に驚いて横に座るカミコ先輩を見た。思わぬ所からの攻撃に僕は瀕死である。

「嫌、じゃ……ないです、けど」

 頬が熱を持つ。きっと耳まで赤い。

「冗談よ」

 ふっと笑うカミコ先輩に、ああくそどさくさに紛れてマイヒメ先輩って呼ぶべきだった!と頭を抱えたい気分だった。

 僕がカミコ先輩を好きだととっくに気付いているらしいマヤさんとシュン先輩が、向かいで楽しそうににやついていて、いつか絶対殴ってやると密かに誓った。

 師走に入って最初の金曜日の事だった。

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