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 ブログを通して知り合った大学の先輩と院生から、僕が想いを寄せているカミコ先輩の探している人について色々と聞かせて貰った。そしてその内容と、互いの利益の為に協力し合おうと云う提案を、僕はカミコ先輩に伝えた。返答は云うまでも無いだろう。

 院生はマヤと云う名の女性で、漢字は真弥。見た目はお淑やかだが快活な質の人だ。彼女は廃墟マニアだが現人神と云う性質の所為で、霊が集まる様な所に無防備に立ち入る事が出来ない。その体質について教えてくれたのが、数年前に廃墟で恐ろしい目に遭った際助けてくれた男であり、カミコ先輩の探し人だった。

 その時は単に廃墟への立ち入りを止める様に忠告されただけだった。暫くは我慢していたが堪え切れずに助手を務めるゼミの生徒を二人引き連れ廃墟へ行った所、再び恐ろしい目に遭いまた男に助けられ、その時に漸く自分の体質について少し知った。知ってしまったが為に、もっと話を聴こうと男を捜しているのだ。廃墟趣味は止められないから、対策を知ろうと云う事だ。そう云えば、彼女の苗字を聞いていない。

 先輩の方はソヨギシュンと云う男性で、漢字で書くと梵舜。少年の様な顔立ちをしたマジシャンかホストの様な格好を好む人だ。前述のゼミ生その一で、リョウと云うゼミ生その二と共に、男を探す為のマヤさんによる廃墟探索に定期的に連行されていると云う不憫。しかしリョウ先輩は兎も角ソヨギ先輩自身は存外その事を楽しんでいる様で、何処か人を食った様な態度をしていた。

 リョウ先輩とはこの時点で未だ会っていないが大柄な猫背の人で、元々は怖がりだったが何度も廃墟に連行される内に大分慣れてしまったらしい。実家が寺と云う事もあり、普通の人よりは悪いモノに耐性があるのだとか。フルネームは伽藍諒、ガランリョウ。

 カミコ先輩は三年生だが一年と二年を二回ずつやった猛者で、人探しの為に講義そっちのけの四年間を送って来たそうだ。それでもろくな情報を得られないままだったが、ソヨギ先輩達と知り合ったおかげで僕も先輩も進展を期待していた。涼しげな目元が印象的な美人で、表情は乏しいし口数も少ないが、僕は彼女のそんな所も堪らなく好きだった。フルネームは神子舞姫。名前まで美しい。

 僕達が探している男はカミコ先輩が高校生だった当時大学生で、ある日忽然と、大狼の妖怪と共に姿を消してしまったのだと云う。惨い殺され方をして、恨みの塊の様になってしまった女性を見付けた所為で。人間そのものに絶望して。

 しかし彼が失踪以降、霊障に遭った人を助けて回っている事を僕らは知った。それが、ソヨギ先輩達に繋がる。目的までは不明だが、助けられたと云う話はネットに随分と見られ、マヤさんの件もその一つだった。

 ある時、マヤさんに男を探す為とは云え廃墟へ行くのは危険だろうと云った所、また助けに来てくれれば会えるでしょう、と笑っていた。少しは懲りて欲しいものである。

 幸い、ソヨギ先輩とリョウ先輩と共に行く廃墟巡りは最初の一回以降、霊に遭遇すると云った事は無かったそうだ。その最初の一回が、男との再会だったのだが。

 こっそりソヨギ先輩に聞いた話だが、マヤさんが無事なのはソヨギ先輩とリョウ先輩のおかげらしい。以下はソヨギ先輩の言葉である。

「俺は零感なんだけど、普通の人ってのは多少なりともそう云うもんを感じる力があるんだと。気配とか、雰囲気とか……そのモノは見えなくても。所謂第六感ってヤツ? でも俺にはそれすら無いんだ。普通の人は少しでも感じる事が出来る分、影響を受ける。自覚が無くても感じるから、気分が悪くなったり取り憑かれたりする。無味無臭の毒ガスを知らずに吸っている様なもんだ。でも俺にはそれが無いから、影響も無い。受信する器官が無いんだとか? 残念な様な、便利な様な。上手くやれば他の人への影響も緩和出来るらしいから、便利さの方が上なんかね」

 だから、もしマヤさんが廃墟を我慢出来ないなら、お前がついて行ってやれ、と。マヤさんを助けて貰った際に会った男に、そう云われたらしい。心霊写真すら撮れやしないと、ソヨギ先輩は紫煙を吐いて笑っていた。

「それと、リョウだけどな。あいつの実家は寺なんだけど、その関係で近寄られても本人に悪い影響は出ないらしい。ただ寺の子だって云うには耐性が強過ぎるから、血筋かも知れないって話だったな。だから、あいつが側に居れば、マヤさんも一人で居るよりは影響受け難いんだって。助けて貰ったあの時は、時期とか色々悪くて霊障に遭ったけど、もし俺やリョウが居なかったら、多分アレじゃ済まなかっただろうってさ」

 これも俺だけが聞いた話なんだけどな、とソヨギ先輩は云っていた。どうして、彼だけが此処まで男から話を聞けたのだろう。

 カミコ先輩に意見を聞いてみると、彼女は渋い顔をした。

「多分、同病相哀れむ、って事だと思う」

「どう云う事ですか」

「似ているの。雰囲気とか……彼と、ソヨギ君が」

「それって、つまり……」

 顔から血の気が引いた気がした。さあっと、音を立てて。

「……そうならない事を祈りましょう」

 自分と似たモノを感じるソヨギ先輩への、彼なりの忠告だったのか。

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