3-2

 夏休みが終わり後期が始まった。僕は見事に全ての単位を取り切り、母が褒美としてベイクドチーズケーキを焼いてくれた。

 僕が思いを寄せる文芸部のカミコマイヒメ先輩は、僕のサポートのおかげもあって初めて全ての単位を修得したと喜んでいた。彼女は高校時代に知り合った人を探す為に、講義そっちのけで道内津々浦々、飛び回っていた。

 探し人と云うのは失踪当時大学生だった男だ。彼はちょっと人間離れしている所があり、オカルト関係に詳しい変わった人物だった。先輩と知り合ったのはそのオカルトに関係しているそうで、少々信じ難い話だが、先輩が巻き込まれた怪異に彼も巻き込まれ、以来その時に知り合った怪しげな人物に時折頼まれて、二人で怪異に関わり続けたのだと云う。

 ある時、やはり怪しげな人物に頼まれてある怪異を解決したが、その原因が惨い殺され方をした女性だったそうで、その遺体を発見した彼は人間に絶望し、関わりのあった狼の妖かしと共に姿を晦ませてしまった。

 それから先輩は、ずっと彼を探している。

 自分が止めなければならなかったのに、それを出来なかった。その事で、先輩はずっと自分を責め続けている。その罪悪感を忘れる為に、彼女はずっと男を探している。少しでも手がかりがあればと、彼が通っていた大学に進学してまで。一年と二年を二回ずつやるはめになってまで。

 四つ歳上の彼女は実年齢以上に大人に見えて、実際しっかりしているしとても聡い人間だ。けれど彼の事となると焦りからか、全く冷静な思考が出来なくなってしまう。だから僕は、惚れた弱みで彼女を助けていた。講義で代返したり、ノートやプリントを渡したり、週末は彼を探す旅に同行したり。

 友達ですらなかったと先輩は云う。けれど、先輩にとって彼はとても大事な存在なのだろう。彼についての話を聞く度に僕は切なくなったけれど、ずっと一緒に居ればもしかしたら僕を見てくれるかもしれないなんて打算もちょっとだけあって、僕は犬みたいに彼女について回った。

 ついたあだ名が、文芸部の忠犬。名誉と思う事にした。

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