2-4
その日の夜、夕食の後みんなが部長部屋で盛り上がる中、僕とカミコ先輩はその部屋をあとにした。そしてカミコ先輩とアオキ副部長の部屋で探し人についての話し合いを始める。
合宿前にカミコ先輩から送って貰ったテキストファイルを更に整理して印刷した物と、僕が集めた情報を印刷した物をテーブルに広げて向かい合う。アオキ副部長は、未だ暫く戻る予定は無い。寝るまでみんなで騒ぐつもりの様だ。
みんな、いつ原稿を書いているのだろう。
先輩がこれまで探してきた場所は、ネットで噂になっていた何十ヶ所か。夏休みだろうが前期中だろうが、関係無しで飛び回っていた事が分かる数だ。ただ、驚いた事に合宿の行き先をそう設定したのは今回が初めてだそうで、ゴールデンウィークの時にそれらしい形跡を見付けたのは、完全な偶然だった様だ。曰く、「そこまで考えてなかった」とか。
噂が出ている場所は何処も廃墟もしくは廃屋で、人目を避けての事だろうと僕達の意見は一致した。身を隠すのなら人の出入りの多い都会だが、人間を嫌って姿を消したのだから人の立ち寄らない場所に身を寄せるのは当然の選択だ。
しかし物好きに目撃されている事から、徹底して人目を避けようと云う意図は感じられず、恐らくは噂が広がり切る前に移動する事で対処しているのだと先輩は云った。
「特に冬は、気温的にも食料的にも完全に人と離れては生きられないから。あの人は、色々と人間離れはしていたけれど、それでも人間だったもの」
北海道の冬は長く厳しい。一年の内半分は冬だと云っても過言ではない。特に真冬と云われる三ヶ月程の間は、日中気温が零度以上なら「暖かい」とまで云う程なのだ。
「そう考えると、場所が飛び飛びなのも理解出来ますね。近い場所に移動したんじゃ、ちょっと勘の良い人なら同じ噂だとすぐに気付きますよ」
その人が失踪した当時、先輩は高校生だった。つまり四年以上が経っており、既にネットでも同一人(?)物説を唱え始めている人を、僕は一人見付けていた。それを証明しようと、噂の場を何ヶ所か巡っている事がその人のブログで分かっている。
「でも、それだけが理由なら……動きを予想するのは無理ね」
そう、問題はそこなのだ。廃墟、廃屋があり人が寄り付かず、けれど人里からそう遠くない場所。そんな場所はこの大地には幾らでもあり、それだけでは予想の立て様が無い。かと云って、他の共通点も特には浮かばない。
「あれ、でももしあの公園に居たとしたら、その条件からすら外れますよね。此処、近くのスポーツクラブが試合に使ったり、ゴールデンウィークの頃なんかお祭りがあったくらいですよ。そうじゃなくても管理者が居て定期的に見回ってるだろうし」
僕がそう云うと、ふと先輩の動きが止まった。眉を潜めている。
「そう云えばそうね……」
「此処の噂は別なのかな……」
実際、それらしい噂を全部拾うと、他にも条件から少し外れる場所が幾つかあった事を思い出す。
「いえ、多分、居たんだと思う」
「え?」
鞄を漁る先輩。引っ張り出されたのは、あのロボットの様な塔の天辺で拾ったオイル瓶だ。
「これ、ゴールデンウィークの廃神社でも見付けたの。あの時は流石に持ち帰れなかったけれど……あの人の部屋に同じ物があったわ。使っている所も見た事がある。日本ではそもそもオイルランプは主流じゃないから、偶然ではないと思うの」
蛍光灯では明る過ぎるのだ、と苦笑していた。懐かしむ様な目をして先輩が云う。だから、家に一人の時はランプや蝋燭を使うのだ、と寂しそうだったとも。
「……部屋、行った事があるんですか」
僕が訊くと、先輩は肩を竦める様にして、
「彼が住んでいた時には何度か。今は、私の部屋になっているけれど」
「え?」
「彼の帰る場所が必要でしょう。知り合いに手を回して貰って賃貸契約を続けて、今は私が住んでるの。大学から近くて便利なのよ」
僕は間抜けにも、はぁ、としか云えなかった。そこまでするのかとか、その知り合いって誰なんだろうとか、手を回すって何だとか、色々と思う事はあったが今訊く事ではない。
「じゃあ……どう云う事なんですかね」
「分からないけれど……此処には立ち寄っただけかも知れない」
目を細め、窓の外を眺めて先輩は云う。
「彼は、この土地の出身だから」
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