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その一週間は怒涛だった。何故なら、前期末試験があったからだ。
僕は基本的には真面目に講義に出ていたし、同じ科の友人先輩を頼る事も出来たので、酷い結果にはならなかったし酷い苦労も無かった。正式な結果は夏期集中講義もあるので随分あとにならないと分からないが、落とした単位は無い自信がある。
問題はカミコ先輩である。科にはあまり友人が居ないらしい先輩は、サークルのメンバーからの手助けを受けつつ、テストの結果だけで修得可能な単位を一つだって残さず拾う為に、随分遅くまで部室に残って勉強をしていた。
仲の良いアオキ副部長と、面倒見の良いオガワ先輩、編集仲間のタバタ先輩なんかは、自分達の勉強のついでだと云って、良く一緒に部室に残っていた。
テスト期間が終了して夏休みに入った後も、暫くは忙しかった。僕もカミコ先輩も、別々に一日通しで三日間掛けた夏期集中講義を受けていたからだ。そして先輩はこれまで人探しで行った場所の情報を整理し僕に送ってくれ、僕は僕で部費や合宿費用の為のバイトに明け暮れた。
結局、先輩と再会したのは夏休み後半に設定された合宿当日だった。
今回は山の方で、大学の最寄駅からは特急に乗って四十分程。僕の家からはもう少し近くて、今回も現地集合だった。
これと云った観光地は無く泊まれる場所はあまり無かったが、比較的新しい温泉施設がありそこを宿とする事になっていた。僕とカミコ先輩が目的とする場所に近く、恐らくそこを提案したのもカミコ先輩だろう。
温泉施設から徒歩で十分程の所に広い敷地の公園があり桜の木が沢山植わっていて、春は辺り一面ピンクに染まるのだそうだ。今は鮮やかな緑で埋め尽くされている。更に少し離れた場所には彫刻広場とか云う場所があり、更に行けば有名な心霊スポットもある。それらが噂の場所だった。
駅に集合した僕らは、無料の送迎バスに乗って宿へ向かった。今回の参加者はゴールデンウィーク合宿のメンバーに加え、四年のウシヤマ先輩(男、人文学部人間科学科)と二年のチトセ先輩(女、法律学部法律学科)の十一名。
温泉施設は市に不釣合いに立派で広く、値段も相応に高かった。部屋割はミサキ部長とフジとチトセ先輩で一部屋、オガワ先輩とタバタ先輩とウシヤマ先輩で一部屋、トウドウとアズマと僕で一部屋、カミコ先輩とアオキ先輩で一部屋だった。ちなみに洋室。集合部屋は部長達の部屋となった。
基本的な日程はゴールデンウィークと同じで二日目の夜に肝試しの予定があった。ただ観光地も遊ぶ場所も無いので、みんな温泉に入るか近くを散歩するか、そうじゃなければ部屋でだらだらと本を読むかと云った具合で、だからみんないつ原稿を書いているのかと小一時間(以下略)。
僕は時間を見付けてノートパソコンで原稿を書きつつ、しかし基本的にはカミコ先輩と共に居た。部員達は既に僕の一方的な好意に気が付いていたので、みんな生暖かい目で見守ってくれた。泣いてなんかいない。
肝試し会場に予定されているのは僕らの目的とする公園で、みんなは肝試しのお楽しみにと思ってか近付かなかった。おかげで僕らは、気がねなく公園を探索出来た。
肝試しをするなら心霊スポットがぴったりなのだが、しかしその近くに宿泊施設は無いし温泉施設からはあまりに遠い。肝試しをする様な時間にはもうバスも無く、部長曰く
「肝試しはオマケだから」
と云う事だった。確かにメインは門外不出の合宿冊子作りと部員の交流の筈だ。
この公園にはテニスコートがあり、サッカー場があり、広場があり、池があり、申し訳程度の遊具があった。随分と広い。ゴールデンウィーク合宿の肝試し会場となった廃神社と同じくらいの段数の階段があり、上がり切った場所には謎の塔があって、青空の下でもそれは何だか不気味だった。肝試しのメインは此処だろうか。
噂だと、夜間は閉鎖されている筈のこの塔の上に、夜中人影が見えるとか。こんな場所で誰が夜中に目撃するのかと思われるかもしれないが、実はここもちょっとした心霊スポットであり、一番高い場所へ行くと今度はデートスポットにもなると云う田舎特有の便利スポットなのだった。
「この時間は中に入れるみたいですね。行ってみますか」
何だかロボットみたいな外観の塔を見上げて、隣に立つカミコ先輩に声をかける。ちらりと盗み見ると、少し怖い顔をして塔を見詰めていた。
「……行ってみましょう」
連れ立って、塔の中へ入る。
中は螺旋階段があるだけの吹き抜けで、一番上は展望台になっているようだった。ここを上がるのかと思うと、少し気後れしてしまう。
先に立つ先輩を追って、なるべく周囲を観察しながら、ゆっくりと螺旋を登って行った。
結果だけ云えば、頂上までは何も無かった。つまり頂上には何かがあったと云う事だが、しかし中身が半分程入ったランプ用のオイル瓶が一つ転がっていただけだった。
ゴールデンウィークの廃神社と違い、此処は管理者が居るのだから掃除もされているのだろう、当然と云えば当然だった。カミコ先輩はそのオイル瓶を拾い上げると、ビニール袋に入れ鞄にしまい、展望台から外の景色を一瞥して螺旋を降り、僕はその後を追った。
「明日は彫刻広場の方へ行きましょう。近くからバスが出ているみたいだから」
そうして一日目の探索が終わった。もう夕方である。
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