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料理が運ばれ、みんなでわいわいとテーブルを囲んでいる間も、カミコ先輩は無口だった。話しかけられれば答えるし、合宿に参加している以上、人嫌いだとかそう云う事では無く、ただ単にそう云う性質の人なのだろう、と、僕は判断した。
取り敢えず、僕にだけそっけない訳では無いと分かって一安心。
食事が済んだ後、再びポーカー大会となった。今度は自由参加で、僕は輪を離れて今度こそ原稿を書く事にした。タバタ先輩とカミコ先輩も不参加で、しかしタバタ先輩は原稿を書く訳では無く単に野次馬と化していたし、カミコ先輩は読書に夢中の様だった。
みんな、いつ原稿を書くつもりなんだ?
そしていつの間にか零時を回り、女子部員達は女子部屋へと引き上げていった。朝食は七時だそうだから、それまでに布団を片付けなければならない。そろそろ寝るべきだろう。
同じ事を考えていたらしいオガワ先輩の指示で押入れから布団を引っ張り出し、並べた布団に適当に入って就寝となった。
しかし他人の気配があるからか、初めて来る場所だからか、合宿に緊張しているのか、中々寝つけずに居た。うとうととしては目が覚めるを繰り返している内に朝が来てしまう。僕はそんなに繊細な人間だっただろうか。
布団を片付けながら大欠伸をしていると、アズマとトウドウに指を差されて笑われたが、怒る気力も無かった。
少しして女子部員達がやって来て、そして食事が運ばれる。
「昼食は此処では出ないので、各自で適当に食べてね。電車で少し行けば、観光地もあるし、此処から歩いて行ける距離に海岸があるから、今日は好きに過ごすと良いよ。夕飯は昨日と同じ時間だから、それまでに此処に集合する事。後は問題行動さえ取らなきゃ何も云う事ありません」
食事が終わってミサキ部長が云う。
フジとアオキ先輩とミサキ部長は、連れ立って近くの観光地へと向かう様だった。オガワ先輩とタバタ先輩とトウドウとアズマも、女子部員達とは別行動だが、同じく観光地へと行くらしい。カミコ先輩はさっさと何処かへ行ってしまったので、行き先は不明だ。
僕はそのまま原稿の続きを書く事にして、ノートパソコンを立ち上げた。
頭を悩ませながら何とか掌編を一つ書き上げると、時計は十三時を示していた。遅れて空腹に気付き、財布と部屋の鍵だけを持って宿を後にする。
昨日宿へ向かう途中で見掛けた、小さな飯屋で定食を食べる。それから、腹ごなしに散歩をしようと海へ向かった。潮風が心地好い。
砂浜と町を隔てる僕の身長程もあるコンクリの壁があり、離れた所に階段が見えたが、面倒なので攀じ登り砂の上に着地する。とさ、と、スニーカーの底が砂を踏んで良い音を立てた。
左を見る。何処までも砂浜が続いている。右を見る。遠くに岩場が見えた。他に人の姿は無い。釣りをする人すら居ない。空には雲が多く、海は鈍色に輝いている。
僕は岩場を目指す事にして、さくっ、さくっ、と砂を踏んで進んだ。
暫く行くと、岩に腰を下ろす人影が見えて来た。地元の人だろうか。
更に近付く。と、人影が足音に気付いたのか此方を見た。カミコ先輩だ。
「こんにちは」
と挨拶すると、
「こんにちは」
と挨拶が返って来る。
「隣、良いですか」
と訊くと、
「どうぞ」
と返って来た。
ごつごつとした岩に上がり、先輩の横に座る。先輩は、本も読まずにただ海を眺めていた。
「……何か見えますか」
暫しの沈黙の後、僕も海を見詰めたまま訊いてみた。
「見えたら良いのにね」
何が、とは、訊けなかったし、先輩も云わなかった。
また沈黙のまま時が過ぎ、海風が随分と冷たくなってきた。陽はまだ高いと云うのに。
「そろそろ、宿に戻りませんか。風邪引いちゃいますよ」
「……そうね」
立ち上がる先輩に倣う。連れ立ってすぐ近くの階段を上がり、砂の上からアスファルトの上へと移った。並んで、宿までを歩く。部屋にはまだ、誰も戻って居なかった。
「講義をサボってまでする用って、何ですか」
海での時間が、僕の中にあった緊張を溶かしてくれていた。二人きりの部屋で、自然と並んで座った彼女に問う。
「……人をね、探しているの」
逡巡の後、先輩はそう答えた。
「誰ですか」
訊くと同時に、僕の中で誰かが聞きたくない!と叫んだ。単位よりも大事な人。幾つか思い付くが、その中で一つだけ、聞きたくない言葉があった。
ゆっくりと開く先輩の唇が、それを紡ぎそうで、訊いたくせに僕は耳を塞ぎたかった。
「大事な人よ。とても、大事な……」
がつん、と、側頭部を殴られた様な衝撃。
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