1-5

 結局、罰ゲーム以外でろくにカミコ先輩と言葉を交わせないまま、みんな揃って風呂へ行こうと云う事になった。途中、他の客と一度だけ擦れ違う。大型連休だと云うのに他の客はあまり居ない様で、おかげで騒ぐ事に抵抗は無かった。

 他に客の居ない広い湯船に浸かって項垂れていると、アズマが隣に来た。

「なーに沈んでんの。折角の温泉なのに」

「お前がイカサマを働いたからに決まってるだろ」

「なーんの事かしらー」

「てめぇっ」

 アズマの頭を鷲掴みにして風呂に沈める。

「ごぼっがぼぼっぐぶっ」

 ばたばたと暴れるのをほんの五秒だけ眺めて手を離してやる。少し離れて湯に浸かる他の男子部員が、僕達を見て楽しそうに笑った。

「ひっでぇ! 殺す気かよ!」

「僕は罰ゲームで死ぬ思いをしたんだ。それくらい当然だろ」

「何云ってんだよ、ありゃあ俺の優しさだぜ」

「は?」

「お前、好きなんだろ、カミコせ、ん、ぱ、い、が!」

 アズマの言葉に、一瞬固まる。次の瞬間、頭が沸騰するんじゃないかってくらい赤面した。

「なっおまっそっそっ」

「日本語でおけ」

「何でお前それを!」

 ばしゃん、と拳で湯を叩く。

 アズマはにやにやと笑った。

「見てれば分かるって。気付いてないのはカミコ先輩本人くらいじゃねーの」

 ぼちゃん、と、頭の天辺まで湯に沈める。ぶくぶくと息を吐き出して、ゆっくりと湯から顔を上げアズマを睨み見た。

「そんなに分かり易かったか」

「そりゃあもう、見てて微笑ましいのなんの」

「いやあ和ませて貰ったよ」

 タバタ先輩、オガワ先輩が云う。若いって良いっすねー、いや全く。って、二人だって未だ二十代前半のくせに!

 ああもう、恥ずかしくて死にたい……。

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