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 合宿当日。実家暮らしの僕は途中まで特急電車に乗り、同じ方向から向かう何人かの部員と合流しながら、鈍行に乗り換えて集合場所へ向かった。

 合宿参加者は、僕や部長を含めて九人。正規の部員数は十八人だそうだから、出席率は五十パー。

 四年生はミサキ部長と、オガワ先輩(男、法学部法律学科)。三年生はアオキ副部長(女、人文学部英語英米文学科)とカミコ編集(人文学部こども発達学科)、二年生はタバタ編集(男、社会情報学部社会情報学科)、一年は僕の他にトウドウ(男、人文学部人間科学科)とアズマ(こいつも男、同じく人文学部人間科学科)とフジ(女、経営学部経営学科)。オガワ先輩とカミコ先輩、それからタバタ先輩とは、これまで部室で顔を合わせた事が無く、今日が初対面となる。

 ただ、カミコ先輩とオガワ先輩以外は既に電車の中で合流済みだったので、集合場所に立っていた男女が、それぞれオガワ先輩とカミコ先輩なのだと、すぐに分かった。と同時に、僕の心臓が、どくんと跳ねた。

 カミコ先輩。セミロングの黒髪、涼しげな目元、カジュアルな服装とそれに包まれたすらりとした体躯。僕の好み、ドンピシャだったのだ。

 主にカミコ先輩にどきどきしながら、二人の先輩に挨拶をし、昼食を摂るべく部長の先導で歩く。

 予約を入れてあったらしい食堂に入るまで、みんながわいわいと話す中、カミコ先輩は殆ど喋らなかった。隣を歩くアオキ先輩の話に、時折相槌を返すだけ。食堂でも殆ど無言で、美人だけどとっつき難い人だな、と、僕は少し残念に思った。色々と話をしたいが、どうにも声をかけ辛い。

 みんなが食べ終わった所で、部長が鞄から一枚の紙を取り出した。あみだくじが書かれており、下の部分が折られている。

「はい注目! これに今回の冊子のテーマが書かれています。回してくから、好きなとこに名前書いて」

 しかし僕の元に届く時には、選択肢は二つしか無かった。何故なら、僕は部長の右隣に座っており、あみだくじは時計回りにされたからである。

 部長はあみだくじが手元に戻ると、空いた箇所にミサキと書き込んでから、一人分ずつあみだを辿った。

 全員分辿り終わり、順番にテーマが発表される。同じテーマで書くのだとばかり思っていたので少し驚いたが、中々面白い趣向だった。各人のテーマは、話に関係無いので割愛する。

 合宿冊子テーマも決まり、僕達は宿に向かった。やはりカミコ先輩は殆ど喋らず、食堂で席の遠かった僕は、宿に着いたら何とかしてカミコ先輩と喋ろうと、そればかりを思っていた。彼女の容姿が好みなのも理由の一つだが、勿論それだけじゃあない。電車の中で、部長に訊いたのだ。ペンネーム・ハフリの正体が、カミコ先輩なのだと云う事を。

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