第24話 ドキドキのお風呂

「それじゃあ、今日はここまでで解散とするか」

「待って、叶くん。大きな問題があるわ」


 腕を頭の後ろで組み鼻歌を歌いそうな雰囲気の呑気な俺に対し、つばさの顔は真剣だ。


「同志! 自分はこのまま解散で構いません! そのまま……ハアハア」


 萃香の発言で理解した。

 

「このまま戻るとまずいな。みんな深夜の俺の部屋へ移動になってしまう」

「だから自分は構いませんと!」


 だあああー寄って来るな。俺は萃香の頭を手で押す。

 

「ウサギ、何とかならないか?」

「ま、また時空を歪めるみゅ? そ、それは……」

「ほれ」

「一回だけみゅ。よっしー以外なら今回だけならできるみゅ」


 房に残ったバナナをヒラヒラさせるとウサギはすぐに陥落した。

 俺だけ別扱いなのは、さっき現実世界へ繋がる扉をくぐったからだろう。他のみんなは眠ってここにきているから元に戻せるってこと。

 今後は眠っても異世界に行くことはなく扉をくぐってここに来るから、戻る時も扉でないといけないというわけか。

 

 それはそうと、ウサギがさっきからバナナの動きに合わせて目が泳いでいる……もう少し遊んでもいいかなと思ったけどウサギへバナナを投げてやる。

 

「みんなが戻ったら、俺も戻るよ」

 

 バナナへ皮ごとかじりつくウサギを眺めながらみんなにそう伝えた。

 しかし、まりこが何やら言いたいことがあるみたいで、手をバタバタと振っているじゃあないか。ぷるるんもぷるんとしてる。

 

「ねね、良辰くん。この子の名前は何ていうんだろう?」

「ん? ウサギのこと?」

「うん」

「ウサギでいいんじゃ?」


 ウサギは一匹しかいないし、それで問題ないだろ?

 

「ヨシ・タツみゅ。みゅーは魔王ヨシ・タツというみゅ」

「嘘つけこのウサギ!」

「みゅうう。バナナ、バナナを取り上げないでみゅう。わ、分かったみゅう」


 バナナに縋りつきながらウサギは鳴き声を出す。

 いちいちこいつは……。

 

「で、名前はあるのか?」

「ヒビキというみゅ」

「ヒビキちゃん。可愛い名前」


 まりこが両手を合わせてぽやーんとしている。

 言われたウサギもまんざらではない様子で、「みゅみゅ」とご機嫌な声を出していた。

 微妙にイラっとするんだが……。

 そこへ突然萃香がやって来て、ウサギの首根っこをむんずと掴み持ち上げる。

 

「ひびやん、寝室はどこでありますか?」

「みゅ?」

「萃香さん、寝室に案内しますよ」


 合点のいかないウサギに代わってハルが萃香の手を引く。

 

「私は寝室の前にお風呂に入りたいわ。お風呂はあるの? ハルさん」


 自分の髪を撫でながら顔をしかめるつばさ。

 

「わたしもーお風呂に入れたら嬉しいなー」


 きゃっきゃと飛び跳ねてつばさに同意するゆめ。

 風呂に寝室ってどういうこと? 寝たら戻るんだぞ。すぐに寝てしまえばいいのに。

 ん? 首を捻る俺の脚をゆめがちょんちょんと突く。

 

「お兄ちゃん、普通の人はその場で眠ったりできないんだよ。ちゃんと眠れるようにベッドに行かないと……」

「そ、そうか……」

「寝るなら、体をさっぱりとさせたいと思わない?」


 今度はつばさが。む、むむ。彼女の意見に俺以外のみんながうんうんと頷いている。

 着替えもないというのに、お風呂に入っても同じ服になるぞ?

 

「お風呂ですか……ありますよ?」


 俺たちの会話が終わるのを待っていたハルがつばさへ回答した。

 

「先にお風呂でもいい? みんな?」


 どうやら、みんなお風呂に行くことに賛成のようだ。

 ハルを先頭にして、ウサギと俺を残しぞろぞろとみんな彼女についていく。

 

「同志! 何をしているでありますか? 一緒に行くであります」

「え? いや、さすがに風呂は一つだろ……」

「自分はそれでも構いません!」

「萃香はそれでいいかもしれないけど……つばさとまりこが」


 しどろもどろになる俺の肩をぬめっとした何かが叩く。

 この生暖かいぬるぬるした物体は……いっちーの触手か。


『グゲ……男湯と女湯がアル……行くカ?』

「お、それなら行こう。せっかくだからウサギも来なよ」

「行くみゅ」


 ◆◆◆

 

 服を脱いでお風呂に入っております。風呂といっても俺の想像するような浴槽にお湯が張ってあるようなものではなく、サウナに近い。

 大理石の床と座ることができるように大理石のブロックがベンチのように縦に長く置かれていて、その上に藁が敷いてあった。

 浴室の中は湯気が立ち、浴室全体が熱気で覆われていて自然に汗が出てくる。浴室の中央には一メートル四方の正方形の大理石の水桶があり、ここに冷たい水が入っていて、麻のタオルがつるしてあった。

 火照った体をここで冷やしながらゆっくりとする感じなんだろうな。

 

 男湯と女湯の壁が薄いようで、あちらから声が響いてくる。

 なにやらきゃっきゃと楽しそうで、胸がどうのこうのとか、触らないで―とかなんだかワザとじゃないのかって声ばかりなんだが……気にしない。気にしない。俺はゆっくりとこのリラックスムードを楽しむのだ。

 一人ではないけど……。そう、男は俺だけだと思っていたが、もう一人?いたんだぜ。

 それは――

 

『グゲ……』

「いっちーは風呂が好きなの?」

『グゲ……さっぱりスル』


 そうかそうか。触手をだらーんとさせいっちーもリラックスしているようだ。ふう。邪魔が入らないってこんなにゆっくりできるんだなあ。雑音が玉に瑕だけど……。

 しばらく無言の時間が続く、いっちーとは会話をしなくても居心地が悪くならないのがいいなあ。こういう男同士?の時間ってのもいいもんだ。

 

『よっしー、いろいろと感謝スル』

「何言ってんだよ。いっちー。俺と君の仲じゃないか」

『礼にマッサージでもさせてクレ』

「え、いいのか。悪いよ」

『気にするナ』


 いっちーに促されうつ伏せに寝ころぶと、彼の触手が肩と背中に伸びグイグイとツボを押してくる。お、おおお。同時に腰までぎゅっぎゅと押されて気持ちいい。あー、極楽極楽。


『強さはどうダ?』

「ちょうどいいよ。いっちー。なんだかこのまま極楽に行けそうだ」

『極楽……カ』

「うん」

 

 お、おお。太ももから足つぼまで。すげえ。腰も肩ももみもみされたままなんだぜ。すげえ、人間のマッサージじゃあこうはいかねえ。

 ダメだ。もう寝そう……気持ちいい……。

 意識が飛びそうになっていた時、事件は起こる。

 何を勘違いしたのか、いっちーの触手が、え、えええ。そ、そこは。

 アッーーーーーーー!

 

『極楽……グゲ』

「そ、それはちげえ……」


 不用意な発言は慎むべきだ。そんな後悔が頭をよぎるが、俺の意識は遠のいていった……。

 

 ◆◆◆

 

 お、俺は一体何を……いっちーにマッサージされて気持ちよくなっていたことまで覚えているが、その先の記憶がない。きっとあのまま寝てしまったんだろう。

 しかし俺はまだ夢の中にいるのか? 後頭部がひと肌でちょうどいい柔らかさなのだ。目に映るのは下から見上げた谷間。

 

「ご主人様、おはようございます」

「ハル、俺はどれくらい寝てたんだ?」


 そう、俺はハルに膝枕されて寝ていたみたいだった。

 しっかし、この位置は彼女が声を出すたびに、ぷるるんと揺れて目に毒なのだが……。


「二時間くらいでしょうか。みなさんはもう帰られましたよ」

「そうか、じゃあ俺も帰ろうかな……」

「ご主人様、サクランボは……? ご褒美をくださるって」

「それは次な。楽しみにしておいてくれ」


 ゴロンと転がってハルの膝から離れると手をつきながら立ち上がる。

 一方ハルは「そんなあ……あ、あん。ご主人様……」と夢うつつな感じで頬を真っ赤に染めていた。

 これは触れたらダメな雰囲気だな……。どうやらここは浴場にある脱衣所らしいし、一人で扉まで戻れる。このままハルを放置して現実世界へ戻るとするか。

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