第22話 真相
「叶くん、だいたい聞きたいことは聞いたわ」
「お、おう。ウサギはちゃんと話をしてくれたんだな」
「ええ、あなたの活躍でね……」
つばさがニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべる。な、なんだ。一体何をしたんだ、俺は……。とっても嫌な予感がしたけど、つばさの説明を聞こう。
「叶くん、あなた……えっと、その……」
「ん?」
つばさは何か言いずらそうに目を泳がせた。
「叶くん、図書館で」
「図書館で?」
「もう、察しなさいよ!」
つばさにそっぽを向かれてしまった。なんだよもう。
困ってしまった俺の肩をまりこがちょんちょんと突く。
「ねね、良辰くん、良辰くんがわたしの本を持ってくれた時、つばささんに会ったじゃない?」
「あ、ああ。あの時のことか。えっと確かつばさは……」
「その先は言わなくても分かっているわよね?」
つーんと冷たい目線をつばさに送られてしまった。
思い出したよ。やたらファンシーな本をつばさが手に取って棚に戻したんだった。その本は今俺の家にある。
本の内容はまだ読んでないから分かんないけど……確かゆめが。
「ゆめ」
「なあに、お兄ちゃん?」
「あの本にウサギが出て来たとか言ってたよな」
「うん、そうだよー」
ゆめはうんうんと首を縦に振る。俺はゆめの頭をナデナデし彼女に礼を述べた。
なんとなくだが、つばさの言わんとしていることを察したぞ。
「つばさ、あの本が今回の転移に関わってるってこと?」
「その通りよ。あの本はこのウサギの所有物で触れた対象を異世界に引っ張り込む力があるみたいなの」
「メルヘンチック……ごほんごほん……あの装丁で来る人を……」
「叶くん、あなたの言おうとしていることは察しがつくわ。私たちのような人たちが来ることは想定外のはずよ」
「そうだったとしても、あのウサギは普通にスキルを選ばせたじゃねえか」
「そうね。まあ、たまには刺激が欲しかったんじゃない?」
つばさは腰に手を当て顎をあげる。斜に構えた態度だけど、俺にも最近分かってきた。これはつばさなりにうんざりと思った時に見せる仕草なのだ。
あのウサギが転移の根本原因だったのか。あの本は触れた者を異世界へ引っ張り込む力を持っている。
引っ張り込む対称は、一定時間内に触れた者全員なのか任意の者なのか不明ではあるけど、そこは大した問題じゃない。俺たち五人は本に触れ、異世界へ転移した。
つばさは想定外と言っているが、俺はそうじゃないと思う。だって、本は高校の図書館にあったんだ。となれば、本へ触れるのはあの本を好きそうな小学生の女児ではない。
「おい、ウサギ。君はマッチポンプとかさっき口を滑らせていたな?」
「は、はいみゅう」
つばさに踏みつけられたままウサギは俺の問いに応じる。
「その相手は俺たちが最初に会ったあのケチな王様か?」
「はいみゅう」
「だいたい分かった。なるほどな」
ようやく合点がいった。経緯と理由が分かったところで、あとはウサギに俺たちを元に戻すように
「ねね、良辰くん、どういうことなの?」
「お兄ちゃんとつばささんだけ分かっててずるーい」
左右からゆめとまりこに手を引かれブンブンと振り回された。
「わ、分かった。説明するから――」
王様とウサギは俺たちが魔王の元へ行けるかどうか賭けをしたんだ。俺たちが選んだスキルを王様とウサギが見た結果、賭けが成立すると判断したんだろう。で、賭けの内容とは俺たちが魔王の元へ到達できるかどうかじゃないかな。
それなら王様は俺たちへ全力で支援すると思うのだが、そこは賭けの条件で王様は俺たちへ一切の情報開示をせず支援もしないってことにでもしていたんだろ。
俺たちは強力なスキルを持っているけど、やりようによっては四天王で封殺できたと思う。やり方がとても拙くて全然だったけどな。
「とまあ、こんな感じだ」
「おー、なるほどお。ウサギさんは悪い子だね」
本当に分かっているのかまりこよ……何だかとっても呑気に見えるんだけど。
ま、それがまりこかと俺はすぐに納得する。一方でゆめはというとまりこと同じようにうんうんしていた……。
「もういいかしら? 叶くん」
待ちくたびれたようにつばさがウサギを踏みつける足に力を込める。
「そうだな。おい、ウサギ、俺たちを元の世界へ戻せ」
「そ、それはできないみゅううう」
なんか
「ね、ねね。良辰くん。せっかくだから、行きたいときに異世界へ来られるほうがよくないかな?」
まりこの提案に俺も手をポンと打つ。確かにピクニック気分で異世界に来るのも悪くない。
ハルとかいっちーとかと二度と会えなくなるのも寂しいもんだしなあ。
「じゃあ、それで頼む。ウサギ」
「みゅーたちにも都合ってもんがあるみゅー。そんな風に法則を捻じ曲げてしまうと今後誰も呼べなくなるみゅ」
こいつこの期に及んでまだ悪さするつもりだったのか。
もう一度教え込む必要があるみたいだな……またハルに。いや……ここは。
「それじゃあ、ウサギ、君は人化することってできるのか?」
「で、できるみゅ」
さすが異世界。喋る動物は人化する。うん、定番だな。
「ふむ。人化してみせてくれ」
「な、なんでみゅーがそんなこと……は、はいい。分かりましたみゅうう」
ウサギから白い煙があがり、俺の予想どおりハルくらいの見た目年齢をしたうさ耳少女が姿を現した。
大きな赤い目に小さめの鼻、ぷるるんとした唇に銀色の長い髪。白いワンピースみたいな服は超ミニで、太ももの付け根あたりまで白いオーバー二―ソックスを装着している。
足元は茶色のブーツか。
「いっちー、やっておしまい」
『グゲ……サイハイソックス……グゲ……』
「ま、まさか。四天王のくせに裏切るみゅ?」
うさ耳少女はまだ何かのたまっているが、いっちーは俺の友人、彼女の言う事など聞くわけがない。
いっちーはうさ耳少女を触手で捉えると、一息に持ち上げ思う存分触手を太ももへ這わせ始めた。
「い、いやあああみゅうう。酷いみゅううう」
「どうだ。俺の『お願い』を聞く気になったか?」
「わ、わかったみゅ。『扉』を開くみゅう。よっしーの部屋にある押し入れの扉とここの扉を繋げるみゅ」
「分かればいいんだ。あと、魔王城は俺たちがいただくからな」
「そ、そんなあ……わ、分かったみゅうう。渡す、渡すから許してみゅう」
「おう、いっちー、離してやってくれ」
『グゲ……』
いっちーは素直に俺の言う事を聞いてくれて、うさ耳少女を地面に降ろす。
涙目になっているところすまないが、俺もみんなもこの後の展開が手に取るように分かる。
「え。ええ? みゅううう」
『……シカシ……再び捕まえないとはイッテナイ……』
「そ、そんなああ」
いっちーよ、気が済むまでやってしまいなさい。俺は十字を切り、うさ耳少女へ祈りを捧げるのだった。
これにて魔王討伐は完了だ。快適な異世界の別荘も手に入れたし、めでたくハッピーエンドってところだろう。
「同志。終わりましたか?」
「あ、うん」
今まで気配を感じさせなかった萃香が手にビデオカメラを持ったままウキウキした様子で声をかけてきた。
「萃香、それ?」
「自分のスキルで呼び出したビデオカメラです。バッチリよっしー先輩のカッコいい姿が映ってます! 見ますか?」
「どうやって映すのそれ?」
「これに投影すれば問題ありません!」
続いて彼女はプロジェクターを出現させると床に置きセットし始める。
なんかとても嫌な予感がする……。しかし、何が映っているのか確認することは必須だ。場合によっては無理やりにでも消去しなきゃいけないからな。
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