第20話 意外な魔王

 飛竜は倒れた。しかし一匹だけではないとハルが告げる。魔王に呼び出されたユニットはグループになっていると聞いているから当たり前と言えば当たり前なんだけど、派手にぶっ放した萃香とつばさはMPが心配だ。

 だから今度は俺が相手をするって言って飛竜を待ち構えている。しかしだな、何もテラスで優雅にみんなでお茶をしなくてもいいじゃないか。

 俺だって一緒に紅茶でも飲みながら、美しい庭園を眺め……いや、デーモンさんの死体が転がっている中、落ち着いて紅茶なんて飲めないからいいや。

 

「同志! やはりここは自分が!」

「萃香さんは休んでてね」

「そ、それでしたらまりこ先輩!」


 椅子から立ち上がった萃香は、止めるまりこの肩を掴むと顔を近づけ……。

 う、うわあ。うわあ。女の子同士って何か、妙に色っぽい。まりこは頬を染めて目を瞑っているし、萃香の口から吐息が漏れる。

――クアアアアア!

 ち、ちいい。来やがったか。飛竜の数は三。奴らは気勢をあげ空からこちらを睨みつけているじゃあねえか。

 ものすごくまりこと萃香が気になるが、俺は彼女たちへ背を向けると目を閉じ精神を落ち着ける。

 飛竜なら、あいつらでいいだろう。奇をてらわず使ったことのある虫で行くぜ。

 

「出でよ! ウィービー!」


 俺の呼びかけに応じ、メタリックブルーのクマバチ――ウィービーが大量に出現する。

 魚を獲る時はたった十匹だったが、今度は三百じゃきかねえくらい呼び出したぞ。

 残念ながら、ウィービーの麻痺針では飛竜の鱗を貫通することはできないだろう。しかし、問題ない。

 

「行け! ウィービー。目や口を狙え!」


 飛竜はウィービーの群れへ爪を振るうも多少数を減らしたくらいじゃ影響は無い。

 俺の思惑通りウィービーたちは飛竜の柔らかい部分をこれでもかと刺し、間もなく飛竜のうち一匹が地面へ落下する。

 続いて、二匹、三匹と残りの飛竜も同じように麻痺して地に伏せたのだった。

 

「叶くん、止めはささないのかしら?」


 お上品に紅茶に口をつけながら、足を組んだつばさが俺に問いかける。

 つばさの言う通りだ。このまま放置しておくと飛竜は再び動き出してしまう。しかしだな、ウェービーは肉食じゃあないんだよなあ……。なので、飛竜を仕留めることができない。

 となると、別の虫を呼び出さないといけないわけだけど……。

 

「つばさ、次に虫を呼び出したら多分MP切れで倒れると思うんだ。どうしよう?」

「叶くんも三回でMPを使いつくしちゃうってところかしら」


 つばさは腕を組み、ふむと思案顔でそう呟いた。

 初めてスキルを使った時はともかく、全開全力で行った場合は別として普通にスキルを使うとつばさも俺も三回が限界ってところか。


「この後、休息するならやってしまうけど」

「そうね、倒れないくらいMPが残るのだったらお願いしてもいい?」

「おう」


 俺は右手をあげつばさに応じると、ウィービーを消し新たな虫を召喚する。

 ここは休息も考えてこいつだな。


「出でよ。ファイアビートル!」


 グローワームで捕食させようと一瞬考えたが、明るいうちにそれはグロすぎる。ゆめだっているしさ……誰も見たくないだろう。

 となると……思い出したのはリストにあった角が高熱になるって説明があったオレンジ色のカブトムシことファイアビートルだ。

 MPが切れないようにドバっと数を出さず少しずつ増やしていっているが……こいつらMPの消費が激しい。

 仕方ないので、一気に燃やし尽くすのは諦めて一匹ずつ火葬していくことにした。

 ファイアビートルにしたのは、ついでに庭へ多数転がっているデーモンも灰に変えてしまいたかったからなのだ。

 

「叶くん……なかなか考えたわね。どんなグロいのが来るのか心配していたけど」

「おう」


 つばさは腕を組み感心したように頷きを返す。

 他のみんなはというと……ゆめはいっちーが目を塞いで見えなくしてくれていた。触手で。とんでもない奴だと思っていたけど、いっちーはゆめの体には触れていない。ゆめはゆめで特にいっちーを嫌がった様子もなく「どうしたのー?」とか言っている。

 それに対しいっちーは『グゲ……見ない方がイイ』と、えらい紳士的じゃねえか。お子様には優しんだな。少し見直したよ、いっちー。

 ハルはつばさと同じく問題なし。まあ、彼女はグローワームの捕食を見ているんだし、それに比べたら単なる火葬で驚くこともないだろう。

 一方でまりこと萃香は何だかぼーっとしていて、今起こっている光景が目に入っていないようだった。全く……俺の見ていない間に何をしていたんだ……この二人は。うらやまけしからん。

 

 ◆◆◆

 

 一時間ほどテラスで休息をとった俺たちは、いよいよ魔王城へ向かう。

 どこから入るべきか話し合った結果……何ら工夫を凝らさず、正面の扉を蹴破ることになった。考えても仕方ないし、ハルへ魔王城の構造を聞いたところ小細工は必要ないと判断したからだ。

 扉を抜けると、左右に湾曲した登り階段がある豪奢なホールになっていた。吹き抜けになった高い天井からはシャンデリアがぶら下がり、登り階段の先にはテラスになっている。

 赤い絨毯が床に敷き詰められ、奥の廊下へと続いていた。

 

「予想外に豪華でビックリしたぞ……」

「そうね。それでハルさん、この先を真っ直ぐ行くと大広間なのよね?」


 つばさの問いへハルはコクリと頷く。

 大広間に玉座があるらしい。普段ハル達はそこで魔王から指令を受けるとのこと。今は俺たちが侵入しているわけだから、玉座で待ち構えていないかもしれないけど……その時は魔王を探せばいいだけのこと。

 魔王城に罠は無いと聞いているし、そのうち発見できるだろ。

 

 左右に金メッキが施された全身鎧のオブジェがずらっと並んだ廊下を進むとすぐに奥へ続く金ぴかの扉が見えてきた。

 取っ手を引き扉を開くと……中から拍手がきこえてきたではないか。

 

「魔王か!」


 中へ踏み込み叫ぶ俺。

 そこは聞いた通り大広間になっていて、吹き抜けの高い天井にシャンデリアがいくつもぶら下がっている。俺の身長くらいの高さがある窓が並び、赤字に金糸で刺繍されたカーテンに絨毯……。ギリシャ彫刻のような石像まで鎮座しているじゃあないか。

 まさに豪華絢爛という表現がピッタリくる。

 

 左右を見渡すが、奥に玉座があるだけでモンスターの姿は確認できない。どこから拍手が響いているんだ?

 

「いかにも魔王とはみゅーのことみゅ」


 ん、どこかで聞いた声だな……。どこだったか……。この緊張感のないロリ娘な感じのアニメ声は。

 

「どこだ」


 しかし、姿が確認できない。

 

「下、下みゅ」

「お、おおおおおい。何でお前がここにいるんだよ!」


 声の主は確かにいた。小さ過ぎて気が付かなかったのだ。灯台下暗しとはまさにこのこと。彼女?は足元に赤いお目目で俺を見上げていた。

 こいつが魔王? もし本当だったら迷わず殴り飛ばす。

 

 そう、俺たちの前に立っていた小さな存在は……チュートリアルで会ったあのウサギだったのだから。

 

「それは、みゅーが魔王だからみゅ」

「ふうん、少し『お話』する必要があるようね」


 つばさは指をバキバキ鳴らし、腰を落としてウサギを睨みつけた。

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