第17話 魔力供給(はあと

 ハルに背負われるという情けない体勢でログキャビンに戻ると、何事かとつばさ、まりこ、ゆめがリビングに顔を出す。

 ロッキングチェアに這うようにして腰かけると、心配そうな顔をするみんなへ目を向ける。

 

「外でアンデッドの集団に会った」


 その一言だけでつばさは俺の言わんとしていることを察し、顎に手をあて目を瞑った。

 すぐに目を開いたつばさは俺の顔を理知的な瞳でじっと見つめてくる。

 

「それは深刻ね……」

「俺もそう思う」


 頷きあう俺たちへ他のみんなはポカーンとした様子だ。

 そんな中、まりこが思い出したという風に自分の長い髪をくるくると指に巻きながら顔を少しだけ頬を染める。

 

「良辰くん、MP切れたのかな?」

「う、うん。体にまるで力が入らないんだ」

「じゃ、じゃあ。『魔力供給』しなきゃだね」


 頬に手を当て耳まで真っ赤に染めるまりこ。一方、つばさは彼女にしては珍しく冷や汗を流しながら何やら呟いている。

 

「か、叶くんにあれを……叶くんは男の子だけど……いえ、でも、女性同士よりはふ、普通?」


 おーい、つばさ。戻ってこーい。

 この中でまりこから魔力供給を受けたのはつばさだけだ。その時何が起こったのか結局俺には教えてくれなかった。

 つばさは「終わったら呼んで」とだけ言い残し、ふらふらと奥の倉庫に引っ込んで行く。

 

「あ、あの、みんなも奥に行ってもらってもいいかな……」


 まりこのお願いに、萃香が少しだけ抵抗したがゆめに引っ張られて奥に消えていく。


「良辰くん」


 まりこは振り向き、ロッキングチェアに手をかけると……。

 

「え、ええ?」

「じ、じっとしていてね」


 ノシッと俺の身体へ全身の体重を預けたまりこは長い髪をかきあげ、恥ずかしさからか真っ赤になりながらもはにかんだ。

 そ、そんなにぴたーっと張り付く必要があるんでしょうか。な、何なのこれ?

 

「あ、あの、良辰くん?」

「は、はい」

「は、恥ずかしい」

「お、俺も……」


 まりこが声を出すたびに、俺の鼻先に彼女の息が当たっているのだ。

 この状況はまずい、まりこの髪が揺れ甘い香りが鼻孔をくすぐるとクラクラしてくる。どうにかしようにもまりこの体重さえ振りほどけないほど、俺の身体は言う事をきいてくれないし……。

 ん、まりこがほっそりとした指先を俺の目に当てる。


「み、見ないでえ」


 と言われてもだな。目を瞑るとますますいけない流れになりそうじゃないか。

 く、首筋。

 

「な、ななな」

「じっとしててね。良辰くん」

「し、舌?」

「もう、言わないでええ」


 そこで喋らないで欲しい。耳に息がかかる。

 されるがままになっていると、首筋から耳、頬に彼女の唇が振れ、離れたかと思うとまた頬へ。

 次は鼻、そして戸惑ったようにまた頬。

 

「や、やっぱり恥ずかしいよおお。で、でもこのままじゃ良辰くんは……」


 まりこの唇がまた離れ、次は俺の唇へそっと触れる。

 そのまま俺の唇を啄むと、舌が……。

 

「ん、んん」


 まりこの口からくぐもった声が漏れる。

 そ、それ以上はダメだ。なんて思っていたら、まりこの口が離れた。

 

「ど、どうかな?」


 俺の肩に頭を乗せたまままりこの上目遣い。こ、これはソソるな。

 思わず身を乗り出そうとし、ググっと抑えこむ。

 ん? あれ、動く。

 

「大丈夫そうだよ。ありがとう、まりこ」

「う、うん……良辰くんへだと何だか変な気持ちになっちゃった……」


 てへへと舌を出すまりこであったが、その言葉は反則だって……。

 そそくさと俺の身体から降りたまりこは奥の倉庫へみんなを呼びに行くのであった。

 

 ◆◆◆

 

 みんなが戻ってきたが、俺はまだポカーンとしていて頭が回らないでいる。

 

「叶くん、あなた、とても嫌らしい顔をしてるわ」


 つばさの冷たい一言でやっと目が覚めた。

 

「同志! MPが切れたら次は自分と」

「って萃香、あの時から知ってたんだよな。教えてくれよ」


 迫ってくる萃香の頭を押さえつけながら、やれやれと肩を竦める。

 

「あ、あのね。良辰くん。わたしが良辰くんには黙っててって言ったの……」


 頬に手を当てていやんいやんするまりこにそう言われては、俺からは何も言えなくなってしまう……。

 彼女と目が合い、さっきのことを思い出して頬が熱くなる。

 

「やーらしー」


 つばさ……そのニヤニヤとした顔をやめてくれないだろうか。

 

「ご主人様……魔力供給を受けたのですか?」

「う、うん」


 俺の服の袖を引っ張り縋るように見つめてくるハルの顔は必死過ぎて怖い……。

 彼女は涙目になって言葉を続ける。

 

「あ、あの、ボクはご主人様に魔力供給を受けたいです……ボクは男性を魅了する能力がなくてですね……いや、それがあったとしても……そ、その……」

「ハルさん、抜け駆けはダメです!」

「ひゃああ」


 出し抜けにハルのパツンパツンになったジャージの上からパツンパツンを鷲掴みにする萃香……。

 二人で魔力供給をしていたらいいんじゃないかな?

 

「さて、それはそうと、つばさ」


 パンパンと手を叩きながら、何事もなかったかのように立ち上がる俺である。もう知らん。ここは開き直るしかないだろ。

 

「そうね、そろそろ真面目にしましょう」


 つばさは腕を組み、クイッと顎をあげる。凛とした彼女にピッタリな仕草なんだけど、魔法少女な服のままだから何だかしまらない。


「さっき恋人同士みたいに二人で頷きあってたよね」


 意趣返しだろうか、まりこがそんなことをのたまう。

 それに対しつばさはカクンと膝を落としそうになったが、顔をそらし先ほどの話の解説を始めた。

 

「いい、まりこさん。都合よくこの別荘の外にモンスターが待ち構えていた。ここまではいい?」

「うん!」

「それは裏を返すと、魔王は私たちがどこにいるのか把握しているってこと」

「おおー。さすがつばささん!」

「調子が狂うわ……。まだあるの。魔王は迅速にモンスターを準備できる力があるってことなのよ」


 そうなのだ。付け加えるなら、魔王がどれだけのモンスターを吐き出し続けることができるかってところがポイントになる。

 さっきアンデッドどもを倒したが、間髪置かずにアンデッドをリポップさせることができるのかもしれない。

 もし、絶え間なくアンデッドを生み出し続けて、ここにけしかけられたら……朝まで何とか持ちこたえて鉄人で脱出するしかないだろうな。


「確かに魔王様の軍団を生み出す能力は強力ですが、一日に一度しか生み出すことができません」


 お、ハルが俺の疑問へ答えてくれた。

 ここまで知っているのなら、ハルに追加で質問を……って先につばさがハルに尋ねた。

 

「ハルさん、一つ教えてくれない? 一度生み出した軍団はずっと操ることができるの?」

「はい。ただ、一度に扱える軍団数に限界があります。その数は十五です」


 どれだけ既存の軍団が残っているのか分からないが、貯めておける軍団数は一度に十五までか。

 回復は一日に一。これなら、何とかなるな。

 

「萃香」

「はい。同志の萃香はここに」


 シュタと敬礼する萃香。何の芝居なんだよとか突っ込む気はサラサラないので、俺は普通に言葉を返す。

 

「MPにはまだ余裕がある?」

「はい!」

「俺はもうMPが空に近いから、朝まで外を警戒してくれるかな?」

「もちろんであります! 索敵は得意中の得意であります!」


 あ、待って。

 萃香はまだみんなと話しをしている最中だというのに外へ出て行ってしまった。

 

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