第10話 変なのがいっぱいきた
湖からキャッキャしながら(まりこが)、てくてくと歩いていると……何だあれは?
青々とした草原が広がり遠目に石畳の街道が見えるこの地に似つかわしくない物体が、唸りをあげて降りて来るじゃあないか。
あ、あれは鉄人。
ずんぐりむっくりとした無骨な人型はブリキっぽいボディでできている。身長はおよそ八メートル。背には人らしき姿も見えるなあ。
一言で言うと世界観台無しだよ! なんかあの鉄人、鉄巨人とかゴーレムとかそんなんじゃなく手が外れてミサイルパンチとかしそうな雰囲気なんだよお。
「ど、同志! 感動であります! まさかこんなところで鉄人にじゅう……」
「だああ、それ以上は言うな」
危険なことを口走りそうになった萃香の口を慌てて塞ぐ。
できればそのまま立ち去ってくれ……しかし、俺の思いもむなしく鉄人は地に降り立ち、乗っていた人型と卑猥な化け物が派手な音を立てて地面に転がった。
人型の方は、俺と同じくらいの歳に見える少女の姿をしている。しかし明らかに人ではない。背中にはコウモリのような翼が生え、お尻から黒い尻尾が伸びていて尖端がハートマークになっている。
しかし、明らかな人ではない特徴より……服装の方が目に付くのだ。彼女はまりこよりは小ぶりなもののつばさより立派なぽよよんにしなやかな肢体をしていて、黒に紫のレースがあしらわれたブラジャーとパンツしか身にまとっていない。
あ、いや。黒いブーツも履いているか。顔もまた蠱惑的な少し垂れ目がちで厚めの唇。鎖骨の辺りにほくろが一つ……なんというかエロい。
こんな格好でそんな見た目なのだから、目のやり場に困ってしまう……。
彼女はプリンとしたお尻を痛そうに撫でながら、顔をしかめている。
そして、ハッとしたように俺へ目を向けにーっと睨みつけてきた。全然怖くない……。むしろ誘っているようにさえ見える。
「キミたちがライオネルさんの言っていた人たちですね」
「誰……?」
俺はつい真顔で彼女へ返答すると、彼女は焦った顔になって美しい薄紫の髪の毛に手をやる。ショートカットもいいもんだなあ。サラッサラじゃないか。
「……ボクはサキュバスのハルと言います。ライオネルさんの仇を討たせていただきます」
あ、無視することにしたんだな。
でもなんかこう、憎めない感じなんだよな。この娘。そもそも、何で俺は魔王軍と戦わなきゃいけないんだ?
あの王様のために一肌脱ぐつもりなんて毛頭ない。街を出た所で襲ってきたモンスターたちは、降りかかる火の粉を払ったまでに過ぎないのだから。
「みんな、街へ向かおうか」
俺はハルから背を向けてみんなに呼びかけた。
「そうね。街へ行くことが先決だわ」
「うんー」
つばさとゆめも同意してくれる。
「いいのかな、この子、良辰くんとお話ししたいんじゃないのかな?」
「いや、いいだろ。知らない人の名前出されてもさあ。俺、ライオネルなんて知らねえし」
優しいまりこが魔物娘であるハルに気遣いを見せるが、すぐに俺の意見に同調してくれた。
あとは、ずっと鉄人から目を離さない萃香を引っ張って行けば問題ない。
「萃香、行くぞ」
「同志! 鉄人を自分も動かしてみたいです!」
「あ、あれはゴーレム。鉄のゴーレムだ。いいな、萃香」
萃香の腕を引くと彼女は後ろ髪を引かれるどころか、俺の腕に自分の腕を絡めウキウキとし始めた。
「ま、待ってください! そ、そんなあ」
ペタンと座り込むハルは涙目になる。
な、泣いたって俺は構ってあげないんだぞお。
「こ、こうなったら……ええい。触手生命体いっちー、あの人たちをやってしまいなさい」
ハルが何やら投げやりにそんなことをのたまった。
ふ、古い。古臭いセリフだ。もうちょっと何とかならないのか。
「やっておしまい」とか今時聞かないセリフを耳にしたものだから、本気だとは思わなかった。
だ、だが、力が抜けるセリフとは裏腹に、触手生命体とやらは見た目がかなりやばい。
そう、すっかり忘れていたがハルと鉄人以外にもう一体モンスターがいたのを覚えているだろうか。
こいつはハルの言葉通り、すごく……触手です。
大雑把な形はキノコのよう。しかし、頭の部分から無数の触手が生えうねうねしている。太さも様々で3センチほどの細いものから、触腕ぽい15センチもある立派なものまであるのだ。
体はキノコと同様白っぽく触らないとハッキリとは言えないけど触感もおそらくキノコ同様だろう。
しかし、触手の色は鮮やかなスカイブルー。触手一本で見たら透明ホースのようで美しいかもしれ……んなわけあるかー。
『……グゲ……タ…タイ……』
傘の下あたりに裂け目が出来てそこから声が漏れ出してくる。
「こ、こいつはや、やべえな(見た目)……」
喉をゴクリと鳴らし、急いで逃走しようとした矢先に悲鳴があがる。
「きゃー、良辰くんー!」
「ま、まりこー!」
まりこが後ろから触手に捉えられ触手生物いっちーへ引き寄せられ、奴の頭上に持ち上げられてしまった。
奴は黒タイツでむっちりしているまりこの太ももへ触手を数本巻き付け、やんわりと締め上げる。すると、触手から見える太ももがプニプニ動き……け、けしからん。触手の癖に生意気だぞ。
しかしこいつ、執拗に脚ばかり責めて上半身はまりこが落ちないように背中と肩を支えているだけだ。
『……タイツ……タイツ……グゲ……』
あ、脚だけだとお。確かにまりこの脚はもうこうあれだ、理想的なむっちりかんがありつつスラリとして……言わせるな。
しかし、いっちーよ。お前は間違っている。触手なのに何をしているんだ?
「叶くん、あれは私がやるわ」
「え? あ?」
勿体ない……ハッ……もう少しで危険なことを口走ってしまうところだったぜ。口は災いの元。気を付けねえと。
つばさは両こぶしを打ち付け、首を左右に振る。魔法少女じゃなかったのかよ。それじゃあ格闘バトルだって……。
彼女はにやりと口元をあげ、一瞬だけ俺に顔を向けると右足を前に踏み出す。
次の瞬間、彼女は十メートルくらい離れていたいっちーの懐に飛び込んだではないか。
「縮地よ。叶くん」
つばさはそれだけ言い残し右拳をあげる。あげられた拳からは黄金の光が漏れだし腕全体を包み込んでいく。
縮地――それは僅か一歩で数メートルの距離をつめるという伝説の仙術。この技の凄いところは速度ではない、相手の虚を突けることにある。
なんて、つばさみたいに脳内で説明を行っていたら彼女の拳が深々といっちーのきのこな胴体に突き刺さった――
――かに見えた。
いつの間に潜り込ませたのか分からないが、いっちーの胴体とつばさの拳の間にスカイブルーの触手が差し込まれたいたのだ。
黄金モードのつばさの拳を喰らって吹き飛ばないどころか、身じろぎ一つしないなんておかしい。
「いっちーの触手はあらゆる物理攻撃が効かないんです! ボクはライオネルと彼の軍団を一方的に破ったキミたちに対策を立ててきたんですよ」
勝ち誇ったようにハルが胸をそらし腰に手を当ててにへーと微笑む。
その際に彼女のぷるるんは震えることも忘れない。
「同志! 仮想敵は……殲滅します」
ゆらりと黒いオーラをまとった萃香がAKを手に持ち狙いをつける。
どうすりゃいいんだこの展開……。
「ふふーんだ。そこのひんにゅーのキミへも対策をしているんです!」
や、やべえ。ハル。それは言っちゃあいけねえ。
萃香を止めねば、話し合いとか不可能になる。
「萃香……お、落ち着け、な?」
萃香の肩を両手で掴み、彼女を前後に揺する。
いつもなら、飛びついて来そうなものだが彼女は薄い笑みを浮かべたまま俺にされるがままになっていた。
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