第7話 夢から覚めたが?
「ゆめ、それって夢の中のお話だよな?」
「あ……」
ゆめはカーッと耳まで真っ赤にして「てへへー」と舌を出す。
彼女は夢で俺が魚を食って倒れたことを覚えていて、つい現実の俺に聞いてしまったのだろう。
それだけなら何ら問題ない。ゆめは可愛いなーで終わる。そうじゃないかもしれないから確かめなければ……。
「俺も昨日、魚を食べて倒れる夢を見たんだよ」
「え、ええー。お兄ちゃんとおんなじ夢を見ていたのかなー。嬉しいかも」
コロコロと表情が良く変わるなあ。ゆめは。今度はにへえと口元が緩んでいる。
「おんなじ」夢か……。踏み込むべきか一瞬迷うが、問題を先送りにしても仕方ない。聞こう。
「今日寝たらまた夢を見るかもなあ。ゆめはテイマーさん何だっけ」
「うんー。ペンたんにもまた会いたいなあ。可愛いんだよーペンたん」
そ、それにはノーコメントだ。
でもゆめよ……それでいいのか……。
いや、彼女はそれでいい。ぽやぽやーっとしていてくれた方が。
それはともかく、今の会話で俺の疑念は確信に変わった。
魚を食べて倒れただけなら偶然の一致もありえるけど、テイマーとペンギンまで同じってことは全く同じ夢を見ていたってことだ。
偶然の一致? それはありえない。これは偶然ではなく必然に違いない。
となると……まりこやつばさ、萃香も?
「ゆめ、俺たちは無限の命運にかかわる大事件に足を踏み入れたのかもしれん……」
「なんだってー」
「お、おう……」
ゆめがまさかこのネタを知っているとは思わず、真顔に戻ってしまった。
続いて恥ずかしさで頬が熱くなる……。
「そ、そろそろ、朝食でも食べよっか」
「あたしはもう食べたよー。カラスさんの番組を見てるね」
ポリポリと頭をかき、手で頬を仰ぎながら食パンを
◆◆◆
そんなわけで学校である。目覚まし時計の一発目で目覚めたから余裕だと思ってのんびり準備をしていたら、ギリギリ教室に滑り込むことになってしまった。
「おはよう。
「おはよう。
まりこは既に席に座り、英語の教科書を机の上に出している。俺はと言えば、ぜえぜえ息を吐くありさまだ……。
彼女は俺の顔と教科書を交互に見つめ、胸を持ち上げるように腕を組み眉間にしわを寄せている。俺は彼女の悩む姿をあまり見たことが無いから、少し驚いてしまう。
あ、あと。おっぱいを強調するのはやめた方がいいと思んだよなあ……無防備過ぎるって。俺を含め男連中にとっては嬉しいことなのだが……それによからぬ思いを抱く奴だっているんだよ。
男女問わずね。そう、男女問わず(意味深)。
「良辰くん、わたしね。昨日……とてもリアルな夢を見たんだ」
「そ、そう。俺もだよ」
まりこはとても分かりやすくてなんだか微笑ましくなってくる。そうだよな。現実と見紛うほどのリアルな夢。その夢の最後で俺が倒れたんだもの。
夢と現実は違う。そう分かっていても「ひょっとしたら」という懸念は払しょくできないだろう。
「嘉田さん、登校する前にゆめと話をしたんだけど……俺とゆめは同じ夢を見ていたんだ」
「え? それって、良辰くんが魚を食べて倒れた?」
「そうそう。そのことでお昼休みにでも聞きたいことがあるんだけど」
「うん、じゃあ、お昼にね!」
まりこはおっぱいの前で両手を組みぱああと明るい顔になる。いつものまりこに戻ったようでよかったよ。彼女はやっぱこうじゃないとな!
やはり彼女も俺とゆめが見た夢とおんなじ夢を見ていた。やっぱりあれは夢なんじゃなく、もう一つの現実なんじゃないだろうか。
思考の渦へ沈みそうになるが、時間は待ってくれない。すぐに授業がはじまり先生が何やらブツブツと呟きながら、黒板へ字を書き始めた。
――こつん。
ん。
――こつん。
なんだ? さっきから頭に小さな刺激が。虫にしては当たりが強い。
と思っていたら、机の上に丸めた小さな紙が転がってきた。目立たぬように首を左右に振ると、二つ隣の席に座るつばさと目が合った。
彼女は指先と目で何か訴えかけている。
これか? 俺が先ほど転がってきた紙片を指さすと、彼女は小さく頷く。
授業が終わってから話しをすりゃいいのに。周りくどいなあもう。
『魚を食べて倒れた夢のことをさっき話していたわよね?』
どうやらつばさは俺とまりこの会話を聞いていたようだな。
俺は指で丸を作ってつばさへ目配せする。ん? ノートを指さして……何だ?
えっと、紙で返事を寄越せってこと? 今ので分かるだろう。
プイっと前を向き、無視を決め込んでいたらまたしても丸めた紙片が飛んできた。
『どうなのかしら?』
さっき「分かった」ってジェスチャーをしただろうがあ。
よおし、返してやろうじゃねえか。お手紙を。しかし、後悔するなよ。俺は今とっても意地悪な気分だ。
『つばさちゃんがスカイブルーの可愛い姿が出てくる夢を見たよ。同じ夢で間違いないと思う』
丸めて、ポイっと。お、クリーンヒット。俺にしてはベストな位置に転がったぜ。
おー、さっそく開いてる開いてる。あ、顔を伏せて肩をプルプルと震わせている。あはは。
声を立てて笑いそうになり、慌てて口を塞ぐ。忘れちゃいけない授業中。危険、危険。
『昼休み、屋上へ来なさい』
うわああ。呼び出し……。つばさの方へ顔を向けるとむっさ睨まれた。お、俺生きて帰れるだろうか。
調子に乗り過ぎた。股間がさっきから縮みあがっている……。
死んだ目をしていると授業が終わり、まりこが何か言っているが俺の耳に入ってこない。
「いいの? 良辰くん?」
「う、うん」
何がいいのか分からないけどとりあえず頷いておく。そんな悪い事でもないだろう。
「もうどうとでもしてくれえ」
俺は机に突っ伏し、さっきの自分自身へ怨嗟の言葉をブツブツと……。
「ありがとう、良辰くん、登録終わったよ」
「ん?」
何の? まりこが俺のスマホを机に置いた。
スマホに手を伸ばすと後ろから寒気が。ま、まさか。来たのか、来てしまわれたのか?
「か、叶くん、私の電話番号が知れるなんてよかったわね」
上ずった声でそう言ったつばさは踵を返し席に戻ってしまった。
「あ、良辰くん。わたしとつばささんの番号登録しておいたからね。良辰くんの番号はわたしとつばささんに登録したよ」
「ん?」
意識が飛んでいる間にそんなことをやっていたのか。
とりあえず、どんな登録してるのか確かめよっと。スマホを開くと、なんか新しいグループに誘われているメッセージが出ている。
グループ名は「シベリア送り」……もう既に誰なのか予想がつくんだけど……。メンバーはゆめと萃香だった。萃香だけなら無視してもいいけど、ゆめがいるなら仕方ない。
『どうも』
『同志! ゆめちゃんから聞きました! 無事だったでありますね』
どいつもこいつも魚の話しかしねえ。ち、ちくしょう。
俺は「シベリア送りだ」のネタ画像を張り付けてスマホをポケットに入れた。
それと同時に授業開始のベルが鳴る。
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