第5話 俺のスキルを見せてやる

 ん、しばらくてくてくと歩いていたんだけど、俺たちは重要なことを忘れていないか?


「こういう世界ってさ、モンスターを倒したらお金が手に入るんじゃないのかな?」

「同志、残念ながら倒してもゴールドに変わるわけではありませんでした」

 

 萃香はちゃんとチェックしていたようだ。意外や意外。なかなか抜け目がない。

 そうかあ。じゃあ、お金を稼ぐにはどうすりゃいいんだ?

 頭を捻っていると、前を行くつばさが突然立ち止まって変なポーズをつけて振り向く。

 

「叶くん、あなた……今どうやってお金を稼げばいいのかと考えているわね?」

「そ、そうだけど……」

「簡単よ」


 つばさが胸を張り、腰に手を当ててもう片方の手を伸ばしビシイと俺に向ける。

 

「モンスターの素材を集めたり、街でお仕事をするのよ」


 確かに、定番と言えば定番だ。冒険者ギルドなんかあって依頼を受ければ良い感じにお金が稼げそうだ。

 ただし、街に入るときは充分に注意を払わねばならない。

 

「同志、何でしょうか。そんな熱視線で見つめられると恥ずかしいです」


 そう、萃香だ。頬を染めて恥ずかしがっているが騙されないぞ。こいつがやべえ。

 街で突然AKを人に向けるような過激派なのだよ。

 

「あ、いや。MPって回復するのかなあと思って」


 俺は平然と考えていたことと全く異なることを萃香に尋ね誤魔化すことにした。

 

「よくわかりません。しかしですね、同志。全力疾走した後、休めば元気になりますよね。たぶんそんな感じで疲労感は抜けてきてます」

「ふむ。もう少し進んだら休憩しようか」


 体力と同じように自然回復するってことなのかなあ。

 ここで休んでもいいんだけど、死屍累々の中では気が休まらん。そのうちいやーな臭いも漂ってくるだろうし……。

 

 しばらく無言でてくてくと歩く俺たち。ようやく元戦場が完全に見えなくなるくらいまで離れることができた。


「じゃあ少し休憩しようか」


 木の根元に腰を降ろし、ふうと息をつく。 

 あ、そうだ!

 ここにきて俺は最も重大な問題にようやく気が付く。基本的過ぎて忘れていた。

 

「誰か水とか食べ物とか持ってる?」


 全員が首を横に振るじゃなないか。やっぱりか。そうだよな。だって俺たち全員、服以外何も持ってなかったんだもの。

 街で何かを買うにもお金が無かったからそのまま出てきちゃったし。

 

「良辰くん、まずは川とか池とかさがそ?」


 重たい空気を振り払うようにまりこが勢いよく立ち上がると、拳をギュッと握りしめる。

 そ、そうだな。うん、俺も喉が渇いたよ。

 

「そうしよう。何でも前向きに行かないとな!」

「うん」


 俺の空元気にまりこも乗っかって元気よくぷるるんとおっぱいを揺らす。

 よおし、元気が出て来たぞ。

 まりこに続き俺も立ち上がるが、袖を掴まれていたみたいで少しよろけてしまう。

 

「ゆめ、どうしたの?」

「お兄ちゃん、それならあたしが何とかできるかも」

「お? おお?」


 手を伸ばし立たせて欲しいと甘えるゆめの手を引くと、勢い余って彼女が俺の脚に抱き着く体勢になる。

 顔が腹へ勢いよくぶつかってしまったが、ゆめは気を悪くした様子もなく「えへへー」と舌を出す。


 ゆめは俺から離れ、二、三歩ペタペタと歩いたところで両手を前に突き出し口を開く。

 

「ぺんちゃんー出てきてー」


 彼女の呼びかけと共に、草むらへ直径二メートルくらいの白い光で描かれた魔法陣が出現する。次の瞬間、眩いばかりの光が魔法陣から伸び、光が中央で形をつくり収束していく。

 すぐに光が色を持ち、ずんぐりむっくりとした体形のペンギンらしき生物へ変化する。

 何だろうこれ、形はペンギンそっくりなんだけど目に痛い蛍光イエローに蛍光ピンクの毛色をしている。嘴は蛍光ブルーだ。大きさも俺の肩くらいまであるからコウテイペンギンより巨体になる。

 

「これ……何だろう……」

「ペンちゃんだよー。あたしのスキル」

「ゆめはどんなスキルにしたんだ?」

「えっとね、テイマーさん」

「おお、ゆめらしいな」

「えへへー」


 彼女は中学校で飼育員さんをしているのだ。部活も生物部。俺と同じだな。しかし俺と違って鳥やらウサギやら可愛らしい生物のお世話をするのが好きみたいだ。

 ペンギンもどきはゆめに向かって「よう」とばかりに鳥でいうところの翼、人間でいうところの腕であるフリッパーをあげるとくええと鳴く。

 

「ペンギンさん、お水のある場所が分かる?」


 ゆめがペンギンもどきを見上げ問いかけると、それはついてこいと言わんばかりに胸へフリッパーを当てヨチヨチと歩き始めたではないか。

 色に目を瞑れば可愛らしく微笑ましいと言えんこともない。

 しかし、しかしだな。

 とにかく歩くのが遅い。ペンギンだから仕方ないのだが……。気長に行くしかないか。

 

 ◆◆◆

 

 そんなこんなで歩き始めて一時間くらい経過する。時間は立っているがそれほどの距離は歩いていない。

 ペンギンもどきは頑張って歩いてくれているんだけど、俺たちにとっては幼児を連れて散歩するより遅い速度なのだから。

 超ゆっくりペースで歩いたせいか、休憩しているかのように疲れも取れて来た。

 

 くええ。とペンギンもどきが一声鳴くと前方をフリッパーで指し示す。

 俺たちがいま歩いているところは傾斜になっていて、登る形だ。なので、ペンギンもどきが前を示しても丘の高さに隠れて先が見渡せない。

 ペンギンもどきはここを登り切ったところに水場があると言っているんだろう。

 

「同志、見てきます」


 待ちきれなくなった萃香が駆けだして丘を登っていく。

 頂上まで到着した彼女はぴょんぴょん跳ねてこちらへ両手をブンブン振り始めた。

 お、どうやら水場があるみたいだな!

 

 間もなく俺たちも丘を登り切り眼下を見渡すと――

 湖だ! それほど広い湖じゃないけど、三日月型をしていててっぺん同士を直線で結んだとしたら五百メートル以上はある。


「ゆめ、水場が見つかったしそいつに帰ってもらっても大丈夫だぞ」


 これだけゆっくり歩いてきたというのにゆめは肩で息をしている。ペンギンもどきを現界させているとMPを消費するんだと思う。

 

「ペンたん、ありがとう。戻っていいよ」


 ゆめがペンギンもどきのお腹をぺたぺたと撫でると、ペンギンもどきはくえ!と鳴いて光の粒子に変化する。

 出し入れ自由なのか、便利だな。

 

 湖のほとりで腰かけた俺たちは乾いた喉を潤すことができた。

 ふう、生き返るぜえ。

 こうなってくると、食べ物も食べたくなるな。

 

「魚でも獲るかー」

「良辰くん、道具が何も無いけどどうするの?」

「それは、俺のスキルを使えば何とかなると思う」


 俺とまりこの会話に腕を組み肩を竦めたつばさが割り込んでくる。

 

「叶くん、フィッシングのスキルとか、あなたの見た目通り地味なのね」

「ち、違う。そんなスキルじゃねえ」


 今に見てろお。鼻でフンと笑っていられなくなるからな。

 ようやく俺の出番だ。水中に虫が入れるのか心配だが、命令してみないことにゃあわからない。

 一丁やってみますか。

 

「あ、みんな。スキルを使う時ってどうするんだろ?」

「締まらないわね、あなた……」


 口ではそう言いつつもつばさは丁寧にスキルの使い方を解説してくれた。

 最初に試す時は、目をつぶり思い浮かべた方がやりやすいとのこと。

 言われた通りに目を瞑り、群体スキル発動してくれと心の中で念じる。すると、頭の中に様々な羽虫、甲虫、蜂やらいろんなものが映像として浮かんできたのだった。

 どれにしようかなあ。よし、これにしてみよう。

 

 虫の種類を選択。目的は口頭で伝えるみたいだな。何故そう分かるのかって? それは脳内にゲームのようにメッセージが浮かんでいるからだ。

 

「出でよ。ウェービー!」


 腕を天に向け手のひらを開いた。

 俺の言葉に応じ、白い光が手のひらから溢れ、形を作っていく。光が収束し出現したのは、色鮮やかなメタリックブルーのクマバチ――ウェービーだった。

 こいつは短時間なら水中にも潜ることができるらしい。

 

「十匹の魚を麻痺させろ。行け!」


 俺の命令に従い、ブーンブーンと音を立ててウェービーたちは一斉に水中へと潜っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る