第4話 四天王最強と黄金の左

『全員でかかって来てもいいのだぞ』

「ふん」


 手斧をこちらに見せつけふんぞり返るライオンヘッド。それに対しつばさは鼻で笑う。


『我こそは魔王四天王が筆頭。ライオネル!』


 定番だよな。敵が何故か名乗りをあげるのって。

 え? 四天王? しかも四天王最強とか言ってるぞ。何度も言うが、こいつははじまりの王都を出て最初の敵だ。

 どんなゲームバランスをしてんだよ。

 

「御託はいいわ」

 

 つばさは四天王最強と聞いてもまるで動じた様子を見せず、手を組みゴキリゴキリと音を鳴らした。

 何だか俺、嫌な予感がするんだ。

 

 魔法少女な可愛らしい衣装を身にまとったつばさは、ゆっくりと歩を進め……お、おい。そのままライオネルの間合いに入るのかよ。

 舐められたとでも思ったのだろう。ライオネルは耳をつんざくような咆哮をあげ、左右の手斧を一息に振り下ろす。

 しかし、つばさは人差し指と中指で手斧の刃を挟みこみその動きを止めてみせた。


「魔法は……」


 あんまりな光景につい呟いてしまう。

 するとつばさは不適な笑みを浮かべ、黄金の光が彼女の身体から噴き出してくる。


「叶くん、魔法だとか特殊能力なんて信頼がおけないと思わない?」

「え、えええ」


 その魔法少女の恰好は何なんだよ……。

 

「一番信頼できるのは……私自身。それだけよ?」


 つばさが指を捻るとパリインと音が鳴って手斧が砕け散った。

 それに虚を突かれたライオネルだったが、残りの手斧、そして無手になってしまった拳を使って同時に四方向から攻め立てる。

 いくらつばさがあり得ないくらいの馬鹿力を持っているといったって……。

 しかし、俺の予想はあっさりと裏切られる。

 つばさは体を逸らして拳を躱そうともせず、左右の手がブレるとライオネルの攻勢を全て弾き返してしまったのだ。

 

「叶くん、身体能力だけじゃないのよ。全てよ。その意味が分かる?」

『我と対峙しているというのに仲間とぺちゃくちゃと……こんな攻撃、小手調べだ』

「分かっているわ。あなた……次に口から火を噴こうとしているわ。首元の乱れから……確率はおよそ九十五パーセント」

『な、なにい!』


 な、なるほど。体だけでなく脳機能も強化されてるってことか。この分だと加速装置のように脳の計算速度もあがっていそうだ。

 つまり、つばさは相手の動きが全て予測でき、敵の攻勢がどこに着地するのかも見えているってことか。

 

 お、つばさが動くぞ。彼女の黄金のオーラが左拳に収束していく……。どうすんだ、ライオネルは巨体だぞ。

 彼女は拳を引き、そのまま殴ったあ! それほど勢いをつけて振りかぶったわけではない単なる手打ちの一撃。されどライオネルは地面を引きずりながら二十メートルほど吹き飛びそのままもんどりうって倒れ伏した。

 

「こんなものよ」

「あ、あのお。三条さん」


 パンパンと手を払うつばさへおずおずと俺が手をあげる。

 

「そ、そのお。最初からその……『黄金の左』をかましていたら終わっていたんじゃ……」


 つばさは俺の質問には応じず、プイっと顔を逸らしてわざとらしく伸びをした。

 と思ったら、よろけてる。

 あ、危ない。

 

「大丈夫? 三条さん」

「え、ええ」


 腰に手を回し、もう一方の手を肩に当てつばさを支える。

 対する彼女は頬を少しだけ染め慌てた様子で立ち上がろうとするが、膝に力が入らないらしく俺へしがみつく形になってしまう。

 

「ご、ごめんなさい。叶くん」

「あ、うん」


 恋人同士のように抱き合ってしまった。揺れる髪の毛からいい香りが鼻孔をくすぐり、彼女の意外にあるオレンジほどの胸がギュッと俺に……。

 ん? 後ろにもひと肌を感じる。

 

「同志、自分も膝に力が……」

「萃香! 普通にさっきまで立ってただろ!」

「しかしですね、よっしー先輩。MPが減っているのは事実であります」


 MPだと? 俺は聞き逃せない言葉を聞き、前と後ろでサンドイッチされた多幸感で緩みっぱなしだった顔を引き締める。

 スキルを使ったからMPが減った。確認しよう。

 

「ええと、三条さんはMPが切れた?」

「そうよ」

「そんで、萃香はMPが減ったけど完全に無くなってはいない?」

「そうであります」


 確認終了。MPは無くなると立てないくらいの疲労感が一気に襲ってくるみたいだな。MP切れには注意しないといけない。

 ん? 俺はMPがどれくらいあるか意識できないんだけど、彼女らはできるのか?

 

「MPの数字が見えるの?」

「見えないわよ。疲労感が徐々に溜まっていくのだけど、突然急激に疲労困憊な状態になるわね」


 さすがつばさ。説明がとても分かりやすい。


「スキルを使う時はMPが空にならないように注意しないとだな」

「そうね……」


 つばさが俺の意見に同意する。

 ん? 肩をポンポン。顔を向けるとにこおおおっといい笑顔を浮かべたまりこが自分の顔を人差し指でさしていた。

 

「良辰くん、あのね。わたしのスキルは『癒し』なのね」

「うん」


 ようはヒールだよね。怪我したら回復するあれ。

 

「魔力供給もできるんだよ?」

「お、おおお。そいつはすごい。でもまりこのMPも無くなるんじゃ」

「あ、そうかあ」

 

 てへへと舌を出すまりこ。まったくう。おバカさんなんだからあ。

 笑いあう俺とまりこへつばさが冷たい目を向ける。そんな目をしているが、彼女は俺に張り付いたままだから全く怖くないぜ。

 

「二人とももう少し頭を使いなさいよ。要はMPゼロから少しだけ回復させれば動けるわけでしょう?」

「あ、そうか!」


 ポンと手を打とうにも俺の手はつばさの背中に回っている。


「調整はできるの? まりこ」

「うん。でも、今はやらない方がいいかな?」

「ん?」

「だって、つばささん、嬉しそうなんだもの」


 えへへーと頬に手を当てて首を左右に振りいやんいやんするまりこ……。おいおい。

 

「まりこさん、そ、そんなことないわよ! す、すぐにでも回復させて欲しいわ」


 つばさはかああっと耳まで真っ赤にして俺から離れようと手で俺の胸を押す。

 俺から離れたのはよかったけど、彼女はそのままストンと腰が落ちてしまった。


「嘉田さん、意地悪してないで回復させてやってくれよ」

「うん、でも良辰くんの前だと少し恥ずかしいな……。後ろを向いていてくれる?」

「あ、うん」


 話が全く見えねえ。どうしてそうなる? 説明を求める。

 聞こうにも頷いてしまったからには仕方ない。とりあえず後ろを向くか。

 

「まりこさん、ま、待って、女性同士でそんな」

「魔力供給だから、そういうのじゃないよ?」

「で、でも、まりこさん。そ、そんな……強引……」


 な、何をしているんだ……チラ見してもいいかな。

 状況を凝視している萃香が口に手を当てて目を見開いている。一体どんなイベントが起こっているというのだ。

 萃香の様子を眺めていたら、彼女と目が合う。


「同志、どうしたでありますか? よっしー先輩がどうしてもというのであれば……いいでありますよ?」


 恥ずかしそうに目を伏せてそんなことを言われても、萃香は魔力供給できないだろ?


「叶くん、先へ進むわよ」


 つばさはいつもの凛とした声で俺を誘う。

 さっき俺と抱き合った時に赤くなっていたけど、彼女の頬はまだ赤い。

 口元を指で拭っているけど、俺には何があったのか教えてくれないのか?


「あ、うん」


 いつの間にか変な妄想状態に入っている萃香を見なかったことにして、俺はゆめの手を引きつばさの後へ続く。


「良辰くんもMPが無くなったら……恥ずかしいけど……頑張るね」

「う、うん」


 横に並んできたまりこがそんなことをのたまったんだけど、内容、内容を教えてくれって。

 

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