第3話 AKという狂気

 謁見の間で王様に会うが、この人本気で言っているのかと何度も正気を疑う。

 何か言おうにも全部流されるから、俺は意見をするのを止め死んだ目をしたまま城を後にした。

 城を出ると街が広がっており、どうやら城は街の中央の小高い丘の上にででーんと立っているみたいで、街のどこからでも城の姿を見ることができる。

 

 白い漆喰の壁に赤色の屋根、石畳の大通り。道行く人はファンタジーでよくみるエキゾチックな衣装。いいね、いいね。城で沈んだテンションが戻ってきたぞ。

 お、おい、あれは夢にまで見た猫耳ちゃんじゃないか。御多分に漏れず何故か短いスカートやらへそ出しスタイルでぷるるんとさせながら歩いている。


「全く、何がいいんだか」


 つばさはクールに装っているが、俺には分かるぞ。この街並みに心を震わせていることを。

 だって、口とは裏腹にさっきからキョロキョロと目線があっちこっちにいっているからな。

 

「同志、あの猫耳……シベリア送りにしていいですか?」


 ま、待てや。AKを構えるんじゃない。それも胸をピンポイントで狙っておる。

 その猫耳さんは何も悪くないんだ。重力に従い揺れているだけだろ?


「ダメに決まってるだろお。シベリアどころか昇天するからな!」

「……同志がそう言うのなら……」


 憮然とした顔でAKを降ろす萃香であったが、油断がならん。待ち行く人はさっきの猫耳さんのように布面積がとても狭い人が多数なのだ。


「萃香ちゃん、何を気にしているの?」


 ぽやぽやーっとゆめが萃香の袖を引っ張る。


「ゆめ、しばらく放っておいてやってくれ」

「同志、それはそれで……」


 萃香は自分の胸を押さえて、AKを杖にうなだれた。

 ん? まりこが遠慮がちに俺の肩を人差し指でつんつんしてくる。

 

「どうしよう? 良辰くん」


 いきなりどうしたんだ。何が困っているのか言ってくれないと何のことかまるで分からないぞ。

 

「えっと……」


 戸惑う俺へまりこが両手を広げて左右にブラブラと振る。


「叶くん、まりこさんはお金が無いからお買い物ができないと言っているのよ?」

「そ、そうなの。良辰くん」


 困る俺へ横から助け船を出してくれたつばさへまりこが「そうなの」と言わんばかりに少しジャンプして頷きを返す。

 だ、だからだな。そんな激しい動きを俺の前で……いや、萃香の前でしてはいけない。彼女は今沈んでいるのだ。ゆさゆさ。ぷるぷるに。

 それはともかく、わ、分かるわけねえだろ。あんな仕草で。

 金のことを聞いたから謁見の間であったことをまた思い出してきた。


「あいつは本当に王様なのか……ふんぞり返って『魔王倒してこい』しか言わねえ」

「ま、まあ。良辰くん。きっと王様もお金に困っているに違いないんだよ」


 まりこがまあまあと俺の肩を揺すってくるが、そんなわけねえだろ。

 ブクブクと肥え太り、手には大粒の宝石をこれでもかと取り付けた指輪が多数。悪趣味なネックレスに立つと床につくほど長い毛皮のコート……。

 あの脂ぎったにやついた顔を思い出すと、ぐつぐつとはらわたが煮えたぎる思いだ。資金も装備も出せないなら出せないでもっと他に言いようがあるだろう。

 壊れたスピーカーのように同じことしか言わねえ。


「良辰くん」


 まりこが俺のことを呼ぶが、俺の思考は暗く沈んでいく。

 何も出す気がないなら、兵士にでも魔王討伐に向かわせりゃあいいんだ。


「えい」


 ちくしょおお。

 ん?

 

「え?」


 まりこが俺の腕にしがみつくようにしてギュッと力をこめて……い、る。

 そうなるとだな、腕にマシュマロのようなつきたてのお餅のような……。

 あまりに甘美な感触に俺の思考は王様への怨嗟から腕の感触へ移る。

 

「良辰くん、あ、戻った?」

「あ、う、うん」


 急に恥ずかしくなり、まりこから離れる俺……。

 ん? 視線を感じる。

 ぐるりと首を回すと、まりこ以外の三人がじーっと俺のことを見つめているではないか。

 

「同志! じ、自分は街の外を偵察してくるです!」


 涙目になって、ブツブツ何か呟きながら走り出そうとする萃香の肩をグイっと掴みなんとか押しとどめる。


「待て、萃香。早まるな。行くならみんなで行こう。な」

「は、離してください。よっしー先輩。自分は全ての仮想敵を滅ぼさないといけないのであります」


 お、落ち着け。マジ落ち着いてくれ。もう何を言っているのか分からなくなってきてるって。


「お金もないなら、外へ出るしかないに決まってるじゃない? 行くわよ」


 つばさが俺たちのやり取りを冷たい目でチラリと見やった後、前を向き歩き始めた。


「お兄ちゃん、行こ?」

「あ、うん」

 

 ゆめに手を引かれ、つばさの後を追う。

 そんなわけで俺たちはようやく街の外へ向かったのだった。

 

 ◆◆◆

 

 もう無茶苦茶だよ。どうなってんだよ。この世界。

 街の外へ出て三十分も歩かないうちに待ち構えていたモンスターの集団に遭遇した。

 当たり前だって? そうだな。街の外に出たらモンスターに出くわす。どんなゲームだってそうだ。

 

 しかしだな、俺たちの前に立ちはだかるモンスターの数は百をくだらない。

 これだけの数が街の近辺にいるのに何故街へ攻め込まないのだ。いや、攻め込むための行軍中だったのかもしれん。

 敵軍は豚に乗ったトカゲの集団だ。豚は俺が知る豚とそっくりで、ピンク色のお肌に素敵なお鼻をもった「ブヒブヒ」しているあれだ。背に乗るトカゲは、顔がトカゲそのもので体は緑色の鱗に覆われた人型で尻尾付き。


『勇者らよ、生きては返さぬぞ』


 拡声器で増幅したような大音量が戦場に響き渡る。

 声の主が指揮官だろうな。しかしこいつら……均一された装備を身に着けた規律ある戦闘集団に違いない。こんなものがファーストコンタクトなんて酷い話だよ全く。

 

「同志、ここは『浸透突破』ですよ」

「ん?」


 AKを構え舌なめずりする萃香が何か言ってるが……。

 

「叶くん、浸透突破とは短時間の集中砲火を持って敵の対応能力を飽和させ、塹壕を突破するための手段よ」

「それって、あっちがやることじゃねえか!」

 

 つばさが詳細を解説してくれるが……それ俺たちじゃなくて敵側だよな? 要は数の暴力で絶対火力を持ってこちらを踏みつぶすってことだろう?


「同志、まずは自分が突撃します!」

「ま、待て、萃香。ここは慎重に……」


 萃香は俺の声が聞こえる頃には既にAK-47を構え、狙いを定めると……問答無用でぶっ放しやがった。

 ドドドドドドと凄まじい銃撃音と共に、トカゲの集団に血の華が咲きザクロのように奴らが潰れていく……。

 

「叶くん、AK-47は一分間に六百発以上の弾丸をばら撒くのよ?」


 つばさが得意気に解説してくれるが……。

 そんなもん知ってても知らなくてもどっちでもいい。銃撃音で耳がきんきんする!

 

『ま、まさか……今代の勇者どもがこれほど強いとは……』


 驚く声が聞こえてくるが、俺の方が驚いているかもしれん。

 眼下には目を背けたくなるような光景が広がり、生き残った一部のトカゲたちはさんを乱して逃げていく。

 結果、残ったのは指揮官のみになっていた。ここで逃げないのは立派だ。いや、奴は余程強いのか? だから一体でも問題ないと?

 確かに指揮官は見るからにボスって威容を放っている。人型で三メートルくらいの横幅がある体躯。ライオンの頭にフサフサした虎のような毛皮を持ち、丸太のような腕が左右に二本。計四本も生えている。

 腰にはヒョウ柄の腰布を巻いていて、四本ある手にはそれぞれ手斧を握っていた。

 

「叶くん、ここは私に任せてもらえる?」


 つばさが一歩前に出る。

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