第44話


「ひぐっ...!!」



イーダは喉の奥から自分のものとは思えない醜い声を出す。かろうじて保っていた膝の力が抜けてガクリと曲がった。思わず床に崩れ落ちた形となったイーダは羞恥によって顔を歪ませた。しかし、訓練を受けていない一般人が、騎士団長の気迫に抗う術は無いのだ。




「お前がエレーナに傷をつけた瞬間、全ての温情が破棄された。よってお前は罪人だ。.....連れて行け」

「「は!!」」


ランスロットの指示によって慌てたように騎士達が動く。ロイもそれが当たり前というような表情で部下がイーダの方は迎えるように道を開けた。



「なんでよ!!?ちょっと放しなさい!!やめて!!」

「ソフィア嬢お静かにお願いします」



ヒステリックな声をあげるイーダを淡々と連行する。イーダはギリっと唇を噛み締めると、鋭い視線をエレーナに向けた。やはり誰が何をしようとも最終的な憎悪はエレーナに向けられるのだ。



「許さない許さない許さない許さない!!!」

「お静かに!」

「うるさい!!騎士団団員風情が、このソフィア家の娘に触れるなんて身分不相応だわ!私の力があれば!あんたの家族を路頭に迷わす事だってできるのよ!!」

「...ッ!!」



イーダの気迫に、腕を捉えていた団員が思わず手を放してしまった。ぐらりと傾いたイーダを慌てて掴み直そうとする。

刹那。



「わっ!!」

「おい!!」


イーダは団員を力一杯に推した。振り切られバランスを崩した団員の横を勢いよくすり抜ける。イーダの目には一人しかいない。




「エレーナぁあああ!!」

「....ッ!!」



普通なら防げただろう。騎士団師団長だけでなく、副団長もいたこの場面だ。ただ、やはり場が悪かった。使えない長刀を使う事を切り捨てて、懐から取り出す短刀へ手をかける。しかしそれでは近くにいたイーダの動きを防ぐ事は出来なかった。

ましてや、最愛エレーナ




「───テイラッ」

「きゃあ!!」

「うわぁああああ!!」



ランスロットはエレーナを守るためにテイラーの方へ突き飛ばした。その瞬間ナイフがラキラリと光る。シャッと音を立ててナイフの切っ先がランスロットの左腕の裾を切り裂いた。それでもなお、イーダ止まらない。叫び声をあげながらエレーナに狙いを定める。今度こそエレーナを傷つけようと、ナイフを勢い良く振りかざした。そのイーダの隙をランスロットは見逃さない。体制を立て直すとランスロットは足を使ってナイフを蹴り上げた。



「クソがぁっ!!」

「あぁ!!」


ガシャン...カランカランカラン...

あっという間にナイフが路地奥に蹴り出され手の届かない場所へ転がる。




「イーダ・ラド・ソフィア現行犯だ!!」

「おい!縄を持ってこい!!」

「はなせぇえええ!!」



ロイが叫ぶ。今度こそ罪人として捕まえるためにイーダを縄で捕縛した。イーダの抵抗は虚しく響いた。


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