第42話


「イーダ・ラド・ソフィア嬢ですね」

「ええそうよ」


ロイが丁寧なお辞儀とともにイーダに話しかける。こういった交渉はランスロットではなくロイがが専門だ。イーダも久しぶりに令嬢としての対応を受けて満更でも無く笑顔を向けた。



「申し訳ございませんイーダ嬢。こちらの手違いがありまして、今からソファ家の方へお送りさせていただきます」

「....どういうこと?手違いってなんのことかしら」

「それはソファ家でダダイ様のいる場でお話しさせていただきます。申し訳ありませんが馬車にお乗りいただけますか」

「いやよ」


あくまで笑顔のままロイが大通りに停めた場所へ促した。せめて路地裏からイーダを遠ざけ騎士団側を優勢にしたいと言う思いもあった。それに気づいたわけでは無いだろうが、イーダはイラついた表情を浮かべて頑なに馬車への搭乗を拒絶した。どうした物かと思案の中、そこで口を開いたのはランスロットだった。サッとイーダとエレーナの間に立つと優しい仕草でエレーナを庇うように包み込んだ。



「では、エレーナを我が家に連れて帰る。エレーナおいで」

「ちょっと待ちなさい。まだ私はこの女と話が終わってないわ」

「断る。お前がエレーナにしたことを私は忘れない。一刻も早くお前からエレーナを遠ざけたい」

「....師団長」



騎士団に少しだけどよめきが走る。ロイは思わず顔に手を当てた。冷静だと安心していたが、見誤っていた。軍人としての判断が出来ていた事に安心したが、あれはそうではなかった。第2騎士団師団長の脳内は既に「最愛エレーナ優先」へとシフトチェンジしていただけだった。エレーナの事になると冷静な判断が出来なくなるのはわかっていた事だったがここまでとは。

相手を挑発した発言をしたランスロットに、イーダがギリッと唇を噛んで睨みつける。あのランスロット・リズ・ド・クレメンスに攻撃的な態度を取れる事には感心こそするが今は少しでも2人に落ち着いてもらいたい。頭に血が上ったイーダが何をしでかすのか検討がつかないからだ。

はぁっと1つため息をついた後、ロイは意を決して会を開く。




「おいランスロット!気安くエレに触れるな!」

「ああもう!良いから黙ってろキースベルト!」


飛び入りしたキースベルトにロイは思わず叫ぶ。これ以上話をややこしくしないで欲しい。切に。




「こほん。...ランスロット様。とりあえず落ち着いて。テイラー殿にお嬢は任せましょう」

「...........わかった」


間が長い。改めてランスロットのめんどくささを目の当たりにしつつ、ロイは笑顔を絶やさずに大通りまでの道を開けた。




「待ちなさい!エレーナ!!」



ランスロットとテイラーに挟まれる形で離れていくエレーナに、イーダは叫ぶように呼び止める。

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