第29話



騎士団の公開模擬戦はとても有意義な時間を過ごせ、ランスロットとキースベルトの模擬戦は迫力があり手に汗握る戦いだった。騎士団の事は何もわからないエレーナではあったが、ランスロットが騎士団員と会話する姿はやはり好ましく感じた。ただ、他の団員や部下達には尊敬されては居るもののその姿や気迫に圧倒され身を縮められている場面も良く見受けられたのが印象的でもっと彼との距離が近づけばとも思えた。


そんなエレーナは、今とても困っていた。



「ティナ。いくらなんでもこの量は無理よ」「いいえ!これでも足りないくらいです!この中からエレーナ様に見合ったドレスを選ばなければなりません!」


嬉しそうにするのは、エレーナ付侍女のティナだ。そしてエレーナの部屋には所狭しとドレスが置いてある。今日は数ヶ月後に控えた結婚式のドレス選びだった。当初ランスロットはエレーナのドレスを特注する心づもりでいた。しかし、エレーナがそれを許さなかったのだ。既存の物を着ると言い張った。一生に一度の事でこれが終われば二度と袖を通すことがない物という事にどうしても抵抗があった。

2人で話し合った結果、ドレスは既存の物で。そのかわり、装飾品に関しては新調すると言い張って聞かないランスロットとティナにエレーナは折れた。



「ランスロット様は騎士団の礼装を着るのよね」

「はい。白色の礼服を着ます。エレーナ様は白いウェディングドレスと、何着でもカラードレスを着られますよ」

「いっ....一着ずつでいいわ」



目を爛々と輝かせるティナにエレーナは慌てて訂正をいれた。「そうですか?」と少し残念そうに顔を歪めたティナだが、近くにあるドレスを手に取り楽しそうに話し始めた。



「それなら!エレーナ様が人生で1番輝けるステキなドレスを選びましょう!」

「そうね」



楽しそうに笑うティナを見て、エレーナも自然と笑顔になる。そうは言うけれどやはり結婚式だ。エレーナだって"花嫁"に憧れた時期はたしかにあった。母が亡くなって、継母達が来て花嫁どころか結婚だって出来ないと諦めていたのだ。それが今ではこうやって幸せな気持ちでドレスを選べる。




「嬉しいわティナ。ありがとう」


エレーナの言葉にティナも嬉しそうに微笑んだ。さぁ、頭を切り替えて選ばねばならない。全てを着るのは無理だが、せめてドレスの大まかなデザインを決めて選んでいく必要がある。



「やっぱり王道のプリンセスラインが良いですかね。先ほど着られたマーメイドラインもセクシーでしたが。」

「そうね...」


エレーナは鏡ごしでみた自分の姿を思い出す。綺麗できめ細かい刺繍とビジューを散りばめたドレス。マーメイドというだけあってひざ下から足元にかけて広がる裾は流れるような美しさだった。腰周りはタイトで自らの体のラインをさらけ出し大人びた印象を受けるそのドレスは、エレーナにとってかなり背伸びをした印象を受けたのだ。



「ランスロット様が礼服な上、私もあのドレスとなると、なんというか堅苦しい印象になりそうね。」


エレーナの呟きにティナは同意する。そこでエレーナはふとランスロットの両親の事が頭をよぎった。










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