第30話
「ランスロット様のご両親は、もう亡くなっているのよね」
「はい。旦那様が18歳になった時にお母様を、その5年後にお父様を亡くしております」
「....どんな方達だったの?」
「とても誠実でお優しい方たちでした。」
エレーナの質問にティナはにこにこと笑った。
「旦那様...大旦那様になるんですかね。大旦那様は第一騎士団の師団長をされていました。威厳はありましたがとてもユーモアな方でご冗談を良く仰って、旦那様に良く怒られていました。大奥様は旦那様に似た赤銅色の髪でした。いつも笑顔で使用人にも気遣ってくださって。お二人とも仲睦まじい様子でした」
エレーナの脳裏には、想像でしかわからないランスロットのご両親が見えた。そしてエレーナの母セレーナと父ダダイの姿も。そういえばあの2人もとても仲が良かった記憶がある。だからこそ母が亡くなった時に父はあれほどにも気を病んでしまうほどに。
「旦那様が初めて仮面を付けた時は驚いていましたが、ふふ...2人とも大爆笑で。ふふふ。その日は何故か仮装パーティーと言って使用人まで仮面を被って」
「ふふ!それは楽しそうね」
思い出し笑いをするティナにつられてエレーナもクスクスと笑う。自分の知らないランスロットの幼少期。"仮面を付ける"という奇行に走るような周りの状況が彼の心を傷つけたのだとしたら、その日々の中で暖かい時間があった事を心から嬉しいと思うのだ。
「ランスロット様のご両親のように、これからも仲良くやっていければいいと思うわ。」
「そうですね。お二人ならきっと」
コンコンコン
2人の笑顔が溢れるエレーナの部屋のドアから、誰かが来た合図が叩かれた。ティナが返事をしてドアの方へ向かうと、数分後筆頭執事のテイラーが入室してきた。
「これはまたすごい量ですね」
いつも表情を崩さないテイラーでも部屋中にあるドレスには衝撃を受けたようだ。
「旦那様が張り切ってクレメンス家専属の仕立て屋の方に頼んだようですよ」
「それはそれは」
ティナの言葉にテイラーは優しく目を細めた。そしてふふっと、彼には珍しく思い出し笑いがおこる。エレーナとティナは顔を見合わせる。
「申し訳ありません。大旦那様が大奥様とご結婚される時も随分ドレスに迷われていたのを思い出しました。」
「まぁ!」
「何着もドレスを奥様のご実家に送って、最後には"自分が着るのだから自分で選ばせてくれ"と怒りのお手紙が届きまして衝撃をうけておりましたよ」
テイラーの思い出し笑いの理由を聞きエレーナは目を丸くする。いつの時代も男性側にとって女性の服を選ぶと言う事は大変なのだろう。
「最終的にランスロット様のお母様はどのようなドレスをお召しになったのですか?」
エレーナはふと疑問になる。人生で一度しか着ないウエディングドレス。新婦が悩み用意したものの中で、唯一を選ばれたそれ。その理由は一体どんな物だったのだろうか。そして、もしわかれば自分も良いドレスを決めるキッカケになるのではないか、そんな気持ちになったのだ。
「それでしたら.....」
テイラーは少し思案した後にこりと微笑んだ。
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