第28話


周りの反応に眉を潜めたのは勿論ランスロットだ。心外だと言わんばかりの表情で主にロイを見ている。ロイは「すみません」と苦笑気味な笑顔を見せた。



「他の人間ならまだしも、1番合わせたくないであろう"幼馴染枠"の男を許可すると言うことにびっくりしてしまって」

「不本意ではあるが、こいつと話すエレーナは良く笑う」



エレーナの頭を撫でていたランスロットはそっと手を離す。仲直りの後一人で考えた事だ。エレーナの笑顔がなによりも好ましく感じているランスロットにとって、幼馴染であるキースベルトの存在は嫉ましくもあり有難いものだと感じていた。彼女の過去に1つでも多く「幸せ」を感じれる何かがある事が、ランスロットにとっては救いなのだ。




「それにここ数週間、こやつの騎士としての腕は認めざるを得ない。心意気も俺に歯向かって来るその威勢も好意的に受け止められるしそんな男がエレーナの悲しむ事はしないと信用している」

「う...」



怯むキースベルト。ランスロットから好意的な反応を貰えるとは思ってはおらず表情が取り繕えない。それに気づかないランスロットはスラスラと彼のいい部分を紡ぐ。



「エレーナの数少ない大切な身内幼馴染だ。婚約者の私が大切にしない訳にはいかない」

「ランスロット様」


ランスロットの賛辞にふわりと花が咲くように笑ったのはエレーナだ。自分の大切な幼馴染を褒めてくれる事が嬉しかったのだ。その様子を見て、ランスロットは仮面の奥で優しく瞳を揺らす。

対してわなわなと体を揺らすのはキースベルトだ。少しだけ顔を赤らめている気がする。



「うるさい!ランスロット・リズ・ド・クレメンス!本命の余裕を見せ付けやがって!!今に見てろ!今日の試合でコテンパにしてやる!」

「はっ。お手並み拝見しようか。キースベルト・ロドワット」




近くに立てかけていた自分の大剣を引っ張り出し威嚇するようにランスロットに向ける。

ランスロットもそれに応じるように剣を掲げた。その様子をやはり微笑ましく見つめるのは騎士団達だ。ロイに関してはくつくつと肩を揺らしながら笑っている。






「この2人、案外お互いの事認めているのではないでしょうか」

「まぁそう言うなメニエル。ゆっくり見守っていこう」



ロイとバルサルト殿下の会話は、子供のような言い合いをする2人には耳に入らなかった。

その後、シフォニア国代表ランスロットとナカルタ国代表キースベルトの対決は、歴代屈指の模擬戦内容となり盛り上がりの中で公開訓練は幕を降ろしたのだった。

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