第24話



騎士団の公開訓練改め、公開模擬戦当日となった。

この日は騎士団団員もそわそわとしていて普段とは違う雰囲気だ。すでに家族が来ているもの達は設営された天蓋の方へ向かって手を振ったり笑ったりしている。その様子を楽しそうに見るのはロイ・ハーツ、第3騎士団の副師団長だ。



「みんな楽しそうだなぁ」

「厳しい訓練とは違って遊びの一環って位置付けですもんね。ほらクレアのやつ最近できた婚約者連れてきたみたいです」

「はは!鼻伸ばしすぎだな」


隣でメニエルがクスクスと笑っている。2人は婚約者もおらず、まだ所帯も持って居ないので今回は招待客は居ない。その後ろで荒々しく靴の紐を結びなおしているのはランスロットだった。いつもならこの2人と同じ招待者0枠のこの男だが今回は違う。



「姫さんはまだですか?師団長」

「いつ来るかなんかわかるか」

「殺伐とされてますねぇー」



苦笑いのメニエルと呆れ顔のロイ。



「まぁ、相手が相手ですもんね」

「キースベルト君。中々良い腕をしてますよね。あの大剣をどうしてあそこまで軽々振るえるのか気になります」

「ああ。....それにあのひと振りが重い」



チラリと相手キースベルトを盗み見る。相手は緊張している様子も無くナカルタ国の騎士と談笑をしている。その精神力も見習いたいものだ。


「バルサルト殿下もあいつの危険性を把握しているのでしょうか」

「大方そうだろう」



殿下は名前だけの騎士団総帥ではない。あの笑顔の裏であらゆる情報を精査し切り捨て選択する、王族に相応しい技量を持っている。あの時、ランスロットの対戦相手にキースベルトを選んだ事にも理由があると予想している。



「そうですか?俺はランスロット様いじりの延長と思ってましたよ」

「......」


メニエルの言葉に否定はできない。あの人の生きがいはランスロットで遊ぶ事。それを捨てきれないのがあの男の腹黒さだ。



3人の会話中後ろからガハハハと笑いが起きた。驚いて振り返ると騎士団達が招待客と談笑をしている。しかし様子が変だ。招待客である女性が困惑の表情を浮かべている、気がする。


「.....ナンパですかね」

「チッ」


ランスロットは舌打ちをする。公開訓練は遊びに近いイベントではあるが、これは立派な仕事である。その団員は最近入隊した若手だ。

ゆらりとランスロットは立ち上がる。口角を上げて不敵な笑みを浮かべた。



「さて、そろそろ始めようか」

「は?試合にはまだ時間が」


ロイが目を見張ってランスロットを見る。しかし、ランスロットの晒し出す気迫にグッと口を結んだ。




「毎年この日は浮き足立つ輩が多くてけが人が増える。気を引き締めてやらないとなあ」




天候に恵まれて暖かい日差しの中、極寒にすら感じる風が試合会場に立ち込めた。

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