第23話



「私が貴方を離すことは絶対にありません。そんな事できるはずがありません。だって、私は貴方を....心から愛しています」



はにかんだ笑顔を見せてエレーナが告げる。ランスロットはエレーナを力強く抱きしめた。

何を疑っていたのだろうか。幼馴染キースベルトが現れようとも彼女エレーナの気持ちを疑う理由にはならないのに。



「俺もだ。俺も貴方を愛している。手離すつもりなど心に1つもない」

「───良かったです」

「すまない。不安にさせた」


ツーっと頬に伝った涙をランスロットが指の背で拭った。しかしエレーナの瞳からとめどなく涙がながれ落ちる。



「嫌われてしまったかと、思っ...た」

「エレ...」

「お薬のことは、っ本当に忘れてて、体調も私が我慢すれば....迷惑にならないっ...と、思って」


どうやらランスロットの物言いは相当ショックだったらしい。情けない矜持の八つ当たりからのものだったので罪悪感が募る。

ランスロットは子どもをあやすようにエレーナの頭を撫で続けた。



「最近お会い出来ていなかったので、....避けられているのではとか、ソフィア家に戻されるのではとか考えて、しまって」

「そんなことは断じてしない」

「でも、不安で。....今日はどうしても、お会いして顔を見たくてッ、....うっ」



避けていたつもりはなかったが、仕事にかまけて問題を先送りしていたのは確かだ。その時間がきっとエレーナには心細いものだったに違いない。




「俺が言い過ぎた。あれは....情けない八つ当たりだ。お前は悪くない。嫌いになんてなれない。すまない」

「ヒック...すみま、せん」

「謝るな。私が悪いんだ。あー....エレーナ。お腹は減っていないか?食堂にいくか?そうだ。今度一緒に何処かへ行こうか。なんでもしたい事を言え。全て叶えてやる。」


しどろもどろになるランスロット。そのどうしようもない慌てようにエレーナの涙は次第に止まり代わりにクスクスと笑いがこみ上げてきた。



「ランスロット様。ふふ、慌て過ぎです」


ようやく笑ったエレーナをみて肩の力を抜く。まったく、泣いたり笑ったり目まぐるしく愛おしい。

ランスロットはエレーナのおでこに自分のそれを重ねる。


「君の前だけだ。」

「え?」

「君の前だけだよ。どうしようもなく子供っぽく嫉妬したり焦ったり、誰かを喜ばせよう笑わせようと必死になるのは。」


でもそれも良いと思ってしまう。

初めての喧嘩。そして仲直り。

この歳になって、そんな情けない事になるとは思わなかったが、何故かランスロットの心のうちは穏やかで満たされていた。



「キスをしても?」


スリッ...と懇願の意味を込めて、エレーナの頬を撫でていた指を唇へ移動させ撫でつける。途端に真っ赤になるエレーナにクスリと笑ってそのまま口づけを落とした。



「...ん」

「そのまま口を開けてくれ」

「んん...!!」


早急なランスロットの導きにエレーナは必死にしかし素直に応える。ランスロットはエレーナの部屋へ通じる扉を閉じるとそこに彼女を押し付けて口づけを続けた。余裕もなく。深いそれはエレーナを翻弄しくぐもった声を部屋に響かせる。それも2人にとっては、とても満ち足りた幸せな時間となるのだ。



こうして2人の初めての行き違いは甘い夜のうちに終わったのだった。

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