第25話
エレーナが公開訓練の会場へ到着したのは、ランスロットが不適な笑みを浮かべていた時より少し後だった。クレメンス家の屋敷から会場までそれほど離れている訳では無かったが、今日は道が混んでいたのだ。それはエレーナと同じように会場に向かう人もいただろう。暖かな日差しの出ている良い日だったのでお出かけ日和だったかもしれない。色々な理由が考えられるが、その混雑に巻き込まれてしまったのだった。
レイヴンのエスコートにより馬車から降りたエレーナは少しだけ息をついた。それを、目ざとくレイヴンが気づく。
「大丈夫ですか?エレーナさま」
「ええ、大丈夫。ありがとう」
疲れたからではない。少しだけ緊張しているようだ。何度かきたことがある騎士団の駐在所だが、騎士団の訓練そのものを見るのはエレーナにとって初めてだ。
朝からティナ達によって施された身支度も、通常より気合が入っている。少しでもランスロットの隣を堂々と立てるように、エレーナはグッと背筋を伸ばした。
「とっても楽しみだわ」
「そうですね」
エレーナの笑顔にレイヴンも笑う。今回エスコート役を引き受けてくれたレイヴンも昔、この学び舎で暮らし汗を流してきたのだ。
「レイヴンはここを懐かしく感じるの?」
エレーナの質問に瞳を瞬かせたレイヴンだったが、すぐに眉を顰めふるふると首を横に振った。
「兄であるロイに半ば強制的に入れられた所です。花も愛でる事ができず毎日毎日訓練訓練訓練.....。いい思い出は1つもありません」
「まぁ」
心のこもったその物言いと遠くを見つめる目にエレーナは驚くことしか出来なかった。
「エレーナ様。こちらです」
「ありがとう」
エレーナはレイヴンの腕に手を回しエスコートを受ける。近くなるに連れて大きくなる声にエレーナは緊張と楽しみが入り混じった感情を享受した。
ワァ────!!!
「歓声が聞こえるわ」
「......歓声、ですかね?」
首を捻るレイヴン。そう言われれば、歓声と言うにはなんとなくだが悲鳴のような声も聞こえる。エレーナはきゅっとレイヴンの腕を持つ手を強くした。
「大丈夫ですよエレーナ様。ここは騎士団の縄張りです。」
「縄張りなんて、...ふふ」
「ああ、どうやら基礎訓練を公開しているようですね」
「基礎訓練!!」
エレーナより頭1つ高いレイヴン。大きな声の理由を早々と確認して伝えてくる。
なるほど基礎訓練の掛け声。なんとも楽しそうではないか。エレーナはパッと目を輝かせてレイヴンをその場へ促した。
広場へ着く。中央にはピシリと整列した騎士団たち。それを取り巻くように家族と思われる観客が、跳ね上げ式に設置された臨時の観客席に座りそれを見ていた。
「ランスロット様はどこにいらっしゃるかしら」
「多分すぐに見つかると思いますよ」
きょろきょろと視線を彷徨わせたエレーナに、レイヴンはクスリと笑う。我が主人は第2騎士団師団長だ。きっと目立つ。そうでなくても、きっと彼女なら最愛を瞬時に見つけられるだろうが。
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